パラリンピックの魅力を知ろう! IPC公認教材「I’mPOSSIBLE」を使った初めての公開授業を開催

パラリンピックの魅力を知ろう! IPC公認教材「I’mPOSSIBLE」を使った初めての公開授業を開催
2017.04.26.WED 公開

4月25日、国際パラリンピック委員会(IPC)公認教材「I’mPOSSIBLE」を使った全国初の公開授業が、東京都の東久留米市立神宝小学校で行われた。

パラアスリートと現場の教師が協力して日本版を制作

同教材は、世界の子どもたちにパラリンピックの魅力を伝えるためにIPCなどが開発した教材で、教室での座学と、競技体験をする実技との両輪で構成されている。

日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)のプロジェクトマネージャーで、パラリンピアンのマセソン美季は話す。

「私自身、教育大学出身であるとともに、12歳と8歳の子どもを持つ母親でもあります。そうした経験をもとに、子どもたちがどうすれば興味を抱いてくれるか、あれこれ知恵を絞りました。また、パラアスリートの代表として、選手たちが知ってほしいイメージを伝えられるようにも工夫しました」

日本版の開発に当たっては、マセソンの学生時代からの友人で、東久留米市立神宝学校の石塚智弘教諭をはじめとした現場の教師たちの意見も反映されている。

石塚教諭は言う。

「専門外のことを授業で教えるためには、当然、それなりの勉強が必要です。しかし、ご存じのように現場の教師は多忙で、その時間が取れないケースも少なくありません。そこで、たとえ知識が不足していてもそれを補ってくれて、かつ誰でも手軽に使える教材にしてほしいとリクエストしました」

そうした意見をもとに、パッケージとしてまとめた第一弾が、パラリンピックの特徴やパラリンピックスポーツについて学ぶ2授業と、シッティングバレーボールとゴールボールを体験する2授業、計4授業分の教材セットだ。今回は、4月下旬に全国の小学校や特別支援校計約2万5000校と各自治体の教育委員会に配付した、同教材を使った授業として注目が集まった。

「子どもたちがアクティブに参加してくれてうれしかったです」と 笑顔を見せるマセソン
「子どもたちがアクティブに参加してくれてうれしかったです」と
笑顔を見せるマセソン
石塚教諭は「みんなも(パラアスリートを)サポートしてみては」と メッセージを送った
石塚教諭は「みんなも(パラアスリートを)サポートしてみては」と
メッセージを送った

パラリンピックの醍醐味を座学と実技で体感

今回の公開授業では、石塚教諭が担任を務める6年生のクラスで、座学「パラリンピックスポーツを学ぼう!」と、実技「シッティングバレーボールをやってみよう!」が行われた。

座学では、まずリオパラリンピックのダイジェスト映像を鑑賞。パラリンピックスポーツの魅力をドラマチックに編集した映像は迫力満点で、児童たちは「かっこいい!」とすっかり引き込まれた様子だ。

「子どもたちは見たものを素直に受け止め、感じます。この映像を見ると、『障がい者はかわいそう』といったありがちなイメージは芽生えにくいでしょうね」とは、授業後の石塚教諭のコメント。

続いて、「記録」「工夫」「用具」「サポートする人」という4つのキーワードにまつわるクイズを実施。「マラソンと車いすマラソンは、どっちが速い?」「視覚障がいのある柔道選手は、試合中、どのように相手の場所を知るのだろう?」「ボッチャの『ランプ』は何のために使うのかな?」といった知識をクイズ形式で学んでいく。石塚教諭が回答や解説とともに、「走り幅跳びは、オリンピックのほうが記録がいいよ」「車いすテニスや自転車、アルペンスキー、車いすカーリングなどでも用具を工夫しているよ」といった豆知識も披露すると、児童たちから「すごい!」「そんなに跳べるの!」といった驚きや感嘆の声が上がる。石塚教諭自身もマラソン愛好者で、障がい者の伴走経験もあるというだけに、さすがパラリンピックにまつわる知識も豊富と思いきや、「教材に書いてあることを伝えただけなんです(笑) 。子どもたちは、豆知識のほうにより興味を示すことがあるので、こうした補足資料が充実しているのもありがたいですね」と明かした。

座学の次は、体育館に移動して、シッティングバレーボールの実技を行った。とはいえ、すぐに競技を行うのではない。まずは、チームに分かれ、お尻をつけたまま移動するという基本の動きを練習。さらに慣れるために、ソフトバレーボールをバトン代わりに使った“シッティングリレー”を実施。チーム対抗戦としたため、全員が全力で取り組み、楽しみながらもいつの間にかシッティングでの移動ができるようになっていた。

次に、チームごとに輪になって、ソフトバレーボールでパスを練習。どんな座り方が動きやすいか、どうすればラリーが続くか、工夫を重ねながら、徐々にシッティングバレーボールに慣れていく。

「ラリーを続けるのは難しかったけど、いつの間にか夢中になっていました」(男子児童)

「思っていたより簡単にできました。またやりたいです!」(女子児童)

「日常生活でお尻をつけたまま移動することがないので、難しかったけど楽しかったです」(女子児童)

「東京パラリンピックが楽しみになってきました。いろいろな競技を見てみたいです」(男子児童)

今回の公開授業はここまで。次回の授業でネット越しのラリーに挑戦するそうだ。

なお、この実技の授業はIPC教育委員会委員長のニック・フラー氏も視察。

「子どもたちはコミュニケーションやチームワークを学んでいたし、何より心からシッティングバレーボールを楽しんでいました。このレッスンは大成功ですね」と評価した。

シッティングバレーボール体験ではあちこちから歓声が上がった
シッティングバレーボール体験ではあちこちから歓声が上がった
子どもたちに話しかけられ、笑顔で答えるニック・フラー氏
子どもたちに話しかけられ、笑顔で答えるニック・フラー氏

パラリンピックを支える人になってほしい

パラリンピック教育を通じ、石塚教諭は子どもたちの変化を感じているという。

「障がいのあるなしに関わらず、いろいろな人がいるということを意識できるようになってきています。そこからさらに進んで、個性を認め合って生きていくことの大切さを伝えていきたいですね」

また、授業の様子を見守ったマセソンは、

「興味を持つポイントは一人ひとり違いますが、パラリンピックにはいろいろな切り口がありますから、多彩な角度からその魅力を伝えられると思います。本教材をきっかけに、子どもたちにパラリンピックを身近に感じてほしいですし、さらに競技を観てみたい、大会を一緒に盛り上げていきたいと思ってもらえたらうれしいですね。そのためにも、まずは、パラリンピックをあまりご存じないという先生方にも興味を持っていただけるよう、授業研究会などにも積極的に参加して、その魅力や子どもたちへの効果的な伝え方などをアスリート目線でお伝えしていきたいです」と力を込めた。

なお、パラサポ、アギトス財団、日本パラリンピック委員会は引き続き新教材を開発し、2020年までに順次リリースしていく。

教材にセットされているスライドを活用して授業が進められた
教材にセットされているスライドを活用して授業が進められた
パラスポーツの面白さに子どもたちも引き込まれていた
パラスポーツの面白さに子どもたちも引き込まれていた

text&photo by Parasapo

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