オリンピック・パラリンピックのフォトグラファー、アダム・プリティ氏がフォトセミナーを開催。広報インターンらにスポーツ写真の撮り方を伝授

オリンピック・パラリンピックのフォトグラファー、アダム・プリティ氏がフォトセミナーを開催。広報インターンらにスポーツ写真の撮り方を伝授
2017.07.07.FRI 公開

オリンピック・パラリンピックを撮影してきたフォトグラファーがパラ陸上を通して伝えたいものとは——。

7月2日、ゲッティイメージズ所属のアダム・プリティ氏による未来のスポーツジャーナリスト育成のためのフォトセミナーが開催された。

実戦を交えながら進められたセミナーの舞台となったのは、町田市立陸上競技場で開催された「World Para Athletics公認第22回関東パラ陸上競技大会」。世界選手権の金メダリストから市民ランナーまで幅広いレベルの選手が出場した大会に、学生9人らが足を運んだ。

第一線で活躍する世界的なフォトグラファーが直伝

芝の上で走り高跳びを撮影するプリティ氏

オーストラリア出身のプリティ氏は、1998年にIOC(国際オリンピック委員会)とIPC(国際パラリンピック委員会)のオフィシャルフォトエージェンシーであるゲッティイメージズに入社。2000年に母国で開催されたシドニーオリンピックなど6大会を撮影。以来トップフォトグラファーとして、スポーツ写真や広告写真を手がけてる。パラリンピックも、2004年北京大会、2002年ソルトレークシティー大会など4大会を担当。2017年のピョンチャン大会も迫力ある写真を配信予定だ。

パラリンピック競技は、オリンピックのそれとはまた違った魅力がある、とプリティ氏。

義足や車いすなどの用具をカメラのフレームにしっかり収めることで、パラリンピック選手ならではの苦悩や努力といったストーリーを写真で伝えることができる。

「車いすバスケットボールなんかは、スピードもあり、スポーツとしても面白い。それに、この競技では障がいの重い脊髄損傷の選手と障がいの軽い切断の選手が一緒にプレーしているが、より状態のいい選手が重度の選手に対して手加減することはない。障がいの度合いが違っても同じ土俵で競い合っている。そういう素晴らしい精神のあるパラリンピックをぜひ生で見てもらいたい」

写真の技術を伝えるとともに、「より感情的に撮れるし、自分も力をもらえる」というパラスポーツの醍醐味を共有したい、と考えている。

「シドニーやロンドンパラリンピックの盛り上がりは感動的だった。日本人もスポーツが好きだし、同じように盛り上がると思う。学生たちにも東京パラリンピックをぜひ楽しんでほしい」そんな思いで、プリティ氏は学生の前に立った。

下準備と人間関係の構築が基本

この日のセミナーでは、まずプリティ氏が自身の経験を交え、スポーツイベントで撮影を行う際に大切な要素やコツをレクチャー。

輪になってプリティ氏の熱心に話を聞く

「会場に来る前に、同様のイベントの写真を見て、どんな写真を撮るのかアイデアを練ってきて。僕の場合、現場に早く来て会場の担当者に撮影ポジションなどを確認するけれど、できれば事前に視察することだね」

すなわち競技の情報収集、会場でメディアを統括するフォトマネージャーや経験のあるフォトグラファーとのコミュニケーションが大切だ。学生たちは真剣な面持ちでプリティ氏の言葉に耳を傾ける。

「皆さんの前の世代の人たちは、苦労して技術を習得したけれど、いまはカメラの性能が良く、みんながいい写真を撮れてしまい、個性を出すのが難しい。撮影した写真は写真共有サイトに簡単に掲載できるから、目立つのが難しいし、競争も激しくなっている」とプリティ氏。だからこそ、基本を身に付けることが重要だと強調した。

加えて、選ばれる写真を残すために編集や美しい背景づくりも効果的だと明かす。

「若いうちは失敗をおそれずたくさん経験して。たとえばいつもと違うシャッタースピードに設定するなどして個性ある写真を撮ってみてね」

プロフェッショナルの感性を近くで触れて学ぶ

続いて、キヤノンから機材を提供された参加者は、スタンドやトラック内に移動し、それぞれの位置から実際に100mと走り高跳びを撮影。「しゃがんでよりドラマティックなショットを狙ってみよう」「こういう設定ならもっと数枚多く撮れたよ」などとプリティ氏のアドバイスを受ける。

最後はプリティ氏がひとりひとりのカメラのモニターを見て講評。走り高跳びの写真を「君(の感性)はロックスターだね」と評価されたのは、専門学校でフォトジャーナリズムを専攻する皆川洋樹さん。普段から望遠レンズを使って、二輪スポーツなどを撮影しているといい、「アクティブなシーンを切り取ろうと意識した。これからも試行錯誤しながら撮ることを継続していきたい」と笑顔を見せた。

セミナーには、競技団体の広報として活動する日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)の広報インターンも参加した。

「背景など構図がよくない場合は、数センチでも移動してから撮るということを学んだ」とは、法政大学の伊藤華子さん。広報インターンでは、視覚障がい者柔道を担当しているが、「陸上はフォーカスを合わせるにも瞬発力が必要。もっと経験を積んでいい写真を撮れるようになりたい」と意欲的に話した。

筑波大学の島田すみれさんは「アドバイスを受けて、今まで競技者の動きだけを追っていたことに気づいた。これからは構図を考えて撮影したい。最初に撮影した100mは難しかったが、走り高跳びは躍動感のある写真を撮れた」と満足そうな表情を浮かべた。

「盗めるものはすべて盗んで帰ろう」と参加した早稲田大学の榎本透子さんは「いつも使っている機材とは違うものを借りて撮影してみた。今日はうまくいかなかったが、ピントの合わせ方などコツがわかった」と手ごたえを語った。

「選手に目がいくように余計なモノが入らないように考えて」とプリティ氏
広報インターンらが真剣にファインダーをのぞく

また当日は、キヤノンの社員ボランティア17人が学生の撮影をサポート。

日ごろから趣味でスポーツ写真を撮影しているという栗山大人さんは、スポーツ好きのひとりとして、パラリンピックにどんな楽しみ方があるのか知りたいと考えて参加したという。

プリティ氏のレクチャーについては、「技術的な面より、どう被写体に向き合うかの心構えを熱心に説いていらっしゃったのが印象に残った」とコメントした。

また、パラスポーツの観戦経験があるという武本沙利志さんは、プリティ氏の解説が広いフィールドで撮影する学生たちに行き届くように伝達する役割を担当。「スポーツを至近距離で見られることはめったにない。ピンと張り詰める瞬間や選手の表情を見て、パラスポーツの競技性を改めて感じた」と実感を込めた。

セミナーを終えると、参加者からは「同じ100mでもいろいろな(障がいの)クラスがあって面白い」などの声も聞こえ、それぞれが撮影を楽しむとともに、パラ陸上の魅力を実感した一日となった。

キヤノン社員が学生サポートとして参加
セミナーを終え、笑顔の参加者たち

text&photo by Parasapo

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