2017.05.02

【パラサポNews】オリンピック・パラリンピック教育「Get Set」に学ぶ「I’mPOSSIBLE」の可能性 ~IPC教育委員会委員長ニック・フラー氏来日記念シンポジウム開催

4月27日、日本財団にて、国際パラリンピック委員会(IPC)教育委員会委員長であり、ロンドンオリンピック・パラリンピック教育プログラムである「Get Set」(以下、「ゲットセット」)の教材開発責任者を務めたニック・フラー氏の来日を記念し、シンポジウムが行われた。史上最も成功したといわれる「ゲットセット」に学ぶ、パラリンピック教材「I’mPOSSIBLE」の可能性を探る貴重な講演となった。

若者に影響を与え、イギリスの教育に大きく貢献したパラリンピック教育

シンポジウムは、日本障がい者スポーツ協会日本パラリンピック委員会委員長で日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)の山脇康会長から挨拶があった後、フラー氏による基調講演へと移った。基調講演の冒頭でフラー氏は、日本の教育現場においてIPC公認教材「I’mPOSSIBLE」の導入がいかに重要であり、意義のあることかを強調。教育を通じて若い人たちに様々な人生のチャンスを提供し、社会を変革していくことができればと前置きした。

ロンドン2012 オリンピック・パラリンピック競技大会では、教育が重要な役割を果たすという認識のもと、「ゲットセット」がパラリンピックムーブメントの一端を担うものとなり、生徒たちにポジティブな影響をもたらした。同時に多大な評価を得て、同教育プログラムは2015年までにイギリス国内約24,000校で採用され、大会が終了した今もなお活用され続け、パラリンピックの教育が“レガシー”として受け継がれている。


「ゲットセット」について解説する
IPC教育委員会委員長のニック・フラー氏

フラー氏はパラリンピック教育の重要性について次のように述べた。

「パラリンピックは観客を魅了するものであり、同時にインスピレーションを与えます。そしてそのインスピレーションを活用すれば、ものの捉え方を変え、行動を変え、社会を変えることができます。そういった中で、若い人を対象としたパラリンピック教育は非常に重要なツールです。私自身、2007年にロンドン大会組織員会のオリンピック・パラリンピック教育プログラムの責任者に就任した当時は、パラリンピックの知識は限られたものでしたが、教育者としてパラリンピック教育に魅了され、それが非常に重要な学問であることを認識しました。だからこそ戦略的な教育作りが明確になったのです。



同時に、パラリンピックのストーリー、アスリート、価値は極めて興味深く、重要であることにも気づきました。そして学校に対してパラリンピック教材を既存のカリキュラムの中で最大限に利用することを奨励したのです。それが『ゲットセット』です。この教材によって若い人が「勇気」、「強い意志」、「インスピレーション」、「公平」というパラリンピックの4つの価値について、認識するだけでなく理解し、学校や家庭、コミュニティなど日々の生活の中でそれを実践することを期待しました。IPCのフィリップ・クレイヴァン会長が唱えるリバースエデュケーション(子どもが親や祖父母に教える逆の教育)もそのひとつです」

フラー氏は続けて、「ゲットセット」を構成する3つの“層”について説明した。それは今でもアーカイブとして残されている「ゲットセット」のウェブサイトでも見ることができるが、1つ目の層はパラリンピックの価値観を強調した教材。題材はパラリンピックムーブメントの歴史、スポーツとアスリート。2つ目の層はパラリンピックの歴史、価値、アスリートなどパラリンピックのエッセンスをフルに活用した教育キャンペーン、そして3つ目の層はスポンサーを巻き込んだ教育機会やリソースの構築である。「ゲットセット」のウェブサイトには、ケーススタディ、映像やアスリートのインタビュー、またダウンロード可能なワークシートが掲載された。ここに掲載されているリソースは版権フリーで使用できるため、熱意のある学校はウェブサイトから教育現場で使える素材をフル活用することができたという。また教育キャンペーンでは、生徒たちがマスコットの制作、フラッグツアーや聖火リレーの参加など、パラリンピックの“道のり”の一環となることができた。

パートナーやステークホルダーとの協力も功を奏した。フラー氏は、中央政府、地方自治体、放映権を持つテレビ局、スポンサーに対し、プログラムの一員となり、共に若い人たちの人生の教訓を作り、スキル、知識、自信を醸成しようと呼びかけたという。

続いて、「ゲットセット」を活用したある学校の校長先生からの手紙を紹介し、同プログラムが影響力の大きさを語った。

「手紙にはこう書いてありました。『パラリンピックに基づいた教育を展開し、パラリンピックの価値観を採用したことで、生徒たちに大きな変化をもたらすことができた。自尊心が大きく伸び、注意力が改善し、時間を守ること、そして試験の結果もよくなった』と。つまり、パラリンピック教育によってイギリス全土の教育水準が向上したのです。「ゲットセット」の実施方法に柔軟性を持たせたことも成果の一因となりました。また特筆すべきは、ロンドンだけでなく、境界線を越えてイギリス全土約8割の学校で同プログラムが広まったことです。開催都市だけに限定されるのではなく、すべての人々が楽しめて関与できる実感を持てる大会にしないといけないという当初の考えが達成されました」

2008年から2012年までの間にイギリスでは650万人以上の若い人がこのプログラムのメリットを享受し、「ゲットセット」を実施した84%もの学校が「熱意とモチベーションにポジティブなインパクトがあった」と回答した。これはパラリンピックが単なるスポーツの楽しさだけでなく、教育として、若い人たちに様々な効果をもたらしたことを物語っている。

東京2020への期待感と成功へのシナリオ

フラー氏はロンドンからパラリンピック教育が受け継がれたリオ2016パラリンピック競技大会では、ソーシャルメディアの力が大きかったことにも触れ、「I’mPOSSIBLE」がもたらす東京2020への大きな期待感に力を込めて言及した。

「皆さんを本当にうらやましく思います。日本はパラリンピック教育の機運をロンドンとリオから引き継げる立場にあります。教育のアプローチはいろいろな要素によって構成されますが、「I’mPOSSIBLE」はすばらしい教材であり、日本で効果を発揮できるよう詳細に渡って多くの努力が注がれています。先日の公開授業では、生徒たちからのポジティブなフィードバックがあり、実際に(パラスポーツを)体験して体感する、本教材の効果に期待が持てました。このプログラムによってパラリンピックのミッションが引き継がれることを確信するとともに、教育の実践を見ることができることを非常に誇りに思います」

フラー氏によるスピーチの後、「I’mPOSSIBLE」の開発リーダーであるパラサポのプロジェクトマネジャー、マセソン美季より、「I’mPOSSIBLE」の概要と特徴、先に行われた公開授業の成果と課題、そして今後の展望が語られた。

会場には多くの関係者が集い、質疑応答では、現役の教育関係者や自治体の障がい者スポーツ担当から、フラー氏やマセソンに対する具体的な質問があり、パラリンピック教育の関心の高さをうかがわせるシンポジウムとなった。


「I’mPOSSIBLE」日本版開発リーダーのマセソン美季


参加者からの質問に答えるフラー氏とマセソン


text&photo by Parasapo


■関連リンク■

▼ニュース&トピックス
パラリンピックの魅力を知ろう! IPC公認教材「I’mPOSSIBLE」を使った初めての公開授業を開催

子どもたちにパラリンピックの魅力を伝えて東京2020を盛り上げる。国際パラリンピック委員会公認教材「I’mPOSSIBLE」を記者発表

  • Share on Facebook
  • Share on Twitter
  • Share on Google+