[第34回日本身体障がい者水泳選手権大会]木村敬一、中島啓智らが貫録の泳ぎでアジア新

[第34回日本身体障がい者水泳選手権大会]木村敬一、中島啓智らが貫録の泳ぎでアジア新
2017.11.26.SUN 公開

水泳の日本選手権が11月18、19日に千葉県国際総合水泳場で行われ、4個のアジア新記録と22個の日本新記録が誕生した。

進化を遂げる木村の新たな試み

 大会記録を含め、レースのたびに新記録誕生のアナウンスが響くなど、活況を見せた今大会。貫禄の泳ぎを見せたのは、昨年のリオパラリンピックで銀と銅、合計4個のメダルを獲得したS11(視覚障がい)クラスの木村敬一だった。

木村は男子100mバタフライで自らのアジア記録を0秒16更新する1分1秒45のアジア新記録をマークして優勝したほか、男子100m自由形も59秒53の日本新記録で制して2冠を達成した。

確実に水をつかむ、スムーズな泳ぎが光った。アジア新記録を出した2日目は初日のハリが残っていたというが、「ハリをうまくコントロールできれば、そこそこ行くと思った」と話すほど、調子自体は良かった。

動きの良さを生み出したのは、今大会で新たに取り入れたカーボローディング方法だ。

「大会前の2日間はタンパク質を摂らず、2時間に1度ずつ、ひたすら炭水化物を採るという方法をやった。これはマラソン選手がやっている方法。(100mバタフライの)レース前、招集所で名前を呼ばれた直後にエネルギーゼリーを摂ってみたのも効果があったと感じた」

ターン後のドルフィンキックの回数を増やしたこともタイム短縮につながった。リオパラリンピックの頃は3回、今年夏まで4回、そして今回は6回。回数が多くなればなるほど苦しくなるが、それが可能になったのは厳しいトレーニングを乗り越えた証だった。

「水泳をいろいろな角度から見直すことのできた1年、まだまだ進化していけると感じられる1年だった。東京大会に向けては、一つ一つ目の前の課題と向き合って乗り越えたい」と言い、ますますモチベーションが上がったようだ。

木村以外のリオパラリンピック代表もさすがの泳ぎを見せた。男子100mバタフライ(S9)は、リオ大会50m自由形で銅メダリスト山田拓朗が1分2秒33で日本記録を更新して優勝。男子50m自由形(S5)は鈴木孝幸が38秒20、そして女子50m自由形(S10)では池愛里が29秒36で、それぞれ日本新をマークして優勝した。池は女子100m自由形でも1分4秒05の日本新記録で優勝した。

選手を代表して窪田幸太(S9)が声高らかに選手宣誓
選手を代表して窪田幸太(S9)が声高らかに選手宣誓
女子50m平泳ぎで”東京世代”の宇津木美都(SB8)がアジア新
女子50m平泳ぎで”東京世代”の宇津木美都(SB8)がアジア新

メキシコ地震の影響乗り越え

 今年は、年間最大の目標と位置づけていたメキシコシティでの世界選手権が、9月19日に発生した大地震で延期になるという予測不能の事態が起きた。高地で行われる大会ということで事前合宿のためメキシコ入りしていた12人の日本代表選手たちは、次々と帰国。幸いなことに全員が無事だったが、練習の成果を発揮し、記録を出すという目標を失ったことでメンタル面が案じられた。

けれども、その心配は杞憂だった。女子50mバタフライ(S9)で32秒98の日本新記録をマークして優勝、女子50m自由形でも31秒24の大会新記録を出して優勝した一ノ瀬メイは、こう話す。

「世界選手権に向けて1年間やってきたのでもちろん残念ではあった。でも、現地の状況を考えたら当然の判断。落ち込むのではなく、早く切り替えようと思った。リオが終わってからの1年はあっという間だったので、東京パラリンピックまでは1年1年、着実にレベルアップしたい」

選手たちが意識の高さを随所に示していた今大会。全レース終了後に大会を総括した峰村史世コーチが、活躍が光った選手として真っ先に名前を挙げたのは、男子100m自由形で54秒17、男子100mバタフライで58秒65と2種目でアジア新記録を連発した中島啓智(S14/知的障がい)だった。

世界記録も視野に入るタイムを出した中島は、「東京パラリンピックは自国開催なので盛り上げられたらいい。東京の金メダル(を狙うのは)はまだ重いかな。でも力はついている」と笑顔を見せる。

中島は17歳で初出場したリオパラリンピックの200m個人メドレーで銅メダルを獲得。東京パラリンピックに向けてタイムを更新中だ
中島は17歳で初出場したリオパラリンピックの200m個人メドレーで銅メダルを獲得。東京パラリンピックに向けてタイムを更新中だ

来年はアジアパラ、パンパシフィックパラ水泳、19年には世界選手権、そして20年には東京パラリンピックがやって来る。

「障がいはそれぞれであり、特性を生かすための練習方法は人によって違う。そういう中で、試行錯誤しながら成果を出してきている選手がいる。底辺は上がってきている」。峰村コーチは目を細めた。

text by Yumiko Yanai
photo by X-1

[第34回日本身体障がい者水泳選手権大会]木村敬一、中島啓智らが貫録の泳ぎでアジア新

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