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【TOP PROSPECT】クロスカントリースキー岩本美歌、等身大の22歳が目指す2度目のパラリンピック

パラスポーツ界のスター候補を紹介するシリーズ“TOP PROSPECT(=トップ・プロスペクト。「有望株」の意味)”。今回は、クロスカントリースキーで2度目のパラリンピック出場を目指す岩本美歌選手を紹介します。10歳から始めた競技への取り組み方、趣味やオフの過ごし方について聞きました。
岩本 美歌(いわもと・みか)|クロスカントリースキー
2003年、富山県生まれ。生まれたときから左手首から先がない。10歳で競技を始め、3年後の2017年に国際大会デビュー。憧れの選手は、同じ「猿倉ジュニアスポーツクラブ」に所属していた先輩・川除大輝。北海道エネルギー所属
2度目のパラリンピック出場へ
――現在、青森大学の4年生。スキー部に所属しながら、ミラノ・コルティナ2026パラリンピック冬季競技大会出場に向けて合宿など忙しい毎日を過ごしています。
岩本美歌選手(以下、岩本):中学生のころから、冬は家にいないことが多いです。富山の高校を卒業した後、大学進学のために青森に来て一人暮らしをしていますが、アパートの冷凍庫には、2ヵ月前に買った鶏肉が眠っています。大学は、もうすぐ卒業。高校のときもそうでしたが、今のところ卒業式は出られそうもありませんね……。
――高校生のとき、北京2022パラリンピック冬季競技大会に初出場しました。
岩本:当時はコロナ禍。3ヵ月間の休校も経験し、思うように練習もできず、気持ち的につらかったですね。パラリンピックに出場するためには大会に出場し、ポイントを積まなければならないのですが、大会もありませんでした。そんな中、最後の大会でなんとかポイントを取ることができ、自信になりました。
――4年前、パラリンピックの日本代表に決まったときの気持ちを覚えていますか?
岩本:うれしかったですけど、4年前は『期待の選手』ということで選んでもらった。複雑でした。今度はすべて数字(派遣基準のポイント)で選考されます。パラリンピックが近づいてきて海外の選手たちもレベルが上がり、昨シーズンはいい結果が残せなかったので、いい結果で自信を取り戻せたらと思っています。
――注目してほしい種目はありますか?
岩本:(金メダリストの川除)大輝くんのように『ここが強い』というのがあればいいのですが……。私はただ走るのに必死です。クラシカルには阿部友里香さんという偉大な先輩もいます。フリーのスケーティング走法で、終盤もタイムを落とさず、周回コースを一定のペースで滑ることができるというくらいでしょうか。あまり大きなことは言えませんが、パラリンピックを目標に頑張りたいです。
練習のエネルギー源は……
――大学では何を学んでいますか?
岩本:今、社会学部の4年生なのですが、卒業論文を書いているところです。テーマは、青森の人口流出について。大学のある青森は、多くの若者が県外に出て行ってしまいます。でも、生まれ育った富山はどうかというと、高校のクラスメートで県外に出て行った人は全然いないんです。両方とも、海もあって山もあって、私から見ると富山と似ているのになぜだろう、と思って卒論のテーマにしました。
――スキーや障がいをテーマにしようとは、考えなかったのですか?
岩本:それはありがちなので、何かいいテーマはないかなってずっと考えていたんです。スキーから離れたいというのが一番ですけどね。私の場合、ずっとスキーのことを考えると息が詰まってしまうので。スキーのこと考えなくていい時間を大切にしています。
――スキーがつらいときは、どうしていますか?
岩本:アイドルのライブに行く計画を立てて、そこに向けて頑張ろう!と考えるようにしています。名古屋で行われるライブに行くときは、美味しいひつまぶしのお店を調べていき、ひとりで開店1時間前から並んで食べました。楽しかったですね。
――日頃のリフレッシュ方法はありますか?
岩本:週末の午前中はスキー部の練習でスマホを見られないので、昼食時などにスマホを見る時間を大事にしています。日中忙しい人が夜更かしをする「リベンジ夜更かし」みたいな感じです。音楽を聴くことも好きです。シーズン中は、音楽を聴いて気持ちを落ち着かせています。遠征や合宿などでワックスをするときも聴いていますね。試合でも周回コースで距離が長いと感じるときは頭の中で音楽を流しています。
――どんな音楽を聴いていますか?
岩本:『IVE』、『tripleS』、『aespa』とか……韓国のグループの曲はよく聴いていますが、好きなのはアイドルグループ『NCT』。推しはジェミンさん。疲れているときは、曲だけじゃなくて映像も見て気分転換します。
毎週、ジェミンさんが日本語で30分間しゃべるラジオ番組をやっているんですが、海外にいると聴けないので、ラジオを楽しみにして頑張ろうと考えたりします。
――大学を卒業後は、北海道の企業で働きながら競技を続けるそうですね。
岩本:フルタイムで働く予定なので自分にできるかなという不安はあります。でも、新しい環境に飛び込む楽しみもあるんです。
就職活動中、時間が空いたので『エスコンフィールドHOKKAIDO』に行ってみたら、プロ野球観戦にハマってしまいました。同い年である達孝太選手のユニフォームやタオルを買ったので、北海道に引っ越したら、北海道日本ハムファイターズの応援も楽しみたいと思います。
* * *
「最初は遊び程度でしたが、気づいたら中学でも続けていてワールドカップに出て……ここまでやっていた」と振り返る岩本選手。スキーに導かれるように高校や大学を選び、進んできました。「自分からスキーを取られたら、どうしたらいいかわからない」と話す等身大の22歳は、雪上で自分らしい花を咲かせるつもりです。
text by Asuka Senaga
photo by Hiroaki Yoda