競技の指導レベルが格段にアップし、教員の負担も減る「部活動」の画期的な仕組みとは?

2022.08.22.MON 公開

現在、スポーツ庁が中心となって部活動の地域化が進められている。地域化とは、部活動を学校だけに任せるのではなく、地域の人材や民間のスポーツ団体の力を借りようというものだ。それによって、教員の負担軽減、より専門的な指導を可能にするなどのメリットがある。そうした部活動支援に約10年も前から取り組んでいる企業が、最近注目を浴びているというので、早速お話を伺ってみた。

公立学校の部活動が抱える問題点

©Shutterstock

中学校の授業は基本的に国語、数学、英語と、それぞれの教科に専門の教員がいて指導を行う。しかし部活動となると、専門の教員を雇用している学校はまれで、特に公立校の場合は、国語や数学などの教科を教えている教員が顧問となり指導をしているケースがほとんどだ。
そのため、競技の経験がない教員が顧問になることも少なくないので、当然、専門的な指導ができないといった問題が出てくる。しかも教員の仕事は通常の授業の他、生活指導や学校行事、保護者の対応や進路指導など多岐にわたるため、負担が大きいことが以前から問題視されていた。

そんな部活動の問題に10年近くも前から取り組んできたのがリーフラス株式会社。同社は「スポーツを変え、デザインする。」という企業理念のもと、あらゆる社会課題をスポーツで解決しており、2013年に部活動支援事業をスタートさせた。

「2013年より前から、そのスポーツの専門家でもない人が指導することは、子どもたちにとってマイナスであると弊社は考えていました。しかし、当時は民間企業が公教育に関わることは予算などいろいろな面で難しかったため、最初はボランティアで部活動に関わっておりました。それがようやく事業となったのが2013年です」

と語るのはリーフラス株式会社の永冨剛常務執行役員。部活動を地域化するにあたり壁となっているさまざまな問題を解決してきた。

教員の負担を激減させる、その仕組みとは?

実際に小学校に配置された指導員

リーフラスが部活動支援を行った学校は、日本全国に累計926校(2022年7月時点)もある。そのほとんどが、地方自治体主導型だそうだ。リーフラスが地方自治体と業務委託契約を結び、部活動に関するさまざまなことをまるごと引き受けてくれるという仕組み。

自治体のどの学校にどんな指導員を配置したいのか、要望をヒアリングしてから、プランを提案。そのプランに納得できれば、契約となる。その後、プランに合った部活動の指導員を選定して、それぞれの学校に配置する。 たとえば愛知県名古屋市の場合。同市は、市立の小学校262校4~6年生を対象に、体育系・文化系の指導員の配置を希望していた。262校とかなりの数であったことから、同市は「名古屋部活動人材バンク」を作り、リーフラスに民間委託。同時に部活動の運営管理も同社に委託した。面接等を経て合格した人材に必要な事前研修を行い、各学校に指導員を配置した。画期的だったのは、指導員は名古屋市ではなくリーフラスの直接雇用であるという点だ。

「リーフラスの直接雇用ということは、部活動中に起きた問題に関しての責任は弊社にあることになります。責任の所在がどこにあるかを事前にはっきりさせることは重要です。たとえば、指導者が部活動中にケガをした場合は、弊社の労災が適用されます」

これまで、公立学校の部活動に地域住民や民間企業が協力できなかった理由のひとつに、有事の際の責任の所在がはっきりしていなかった点がある。しかし、人材バンクをつくり雇用の形態を明確にすることでその問題をクリアした。

すべての子どもたちに平等な選択肢を

名古屋市の場合、対象となる学校の子どもたちは最大3つまで部活動を選択できる。これは、ゴールデンエイジと呼ばれる小学校高学年の時期に、さまざまな活動に取り組むことが脳神経や運動神経の発達に望ましいからだそうだ。

今までのように教員だけで部活動を行っていた場合は、指導できる内容は限られていたが、人材バンクを活用することで、さまざまな部活動を行うことが可能になった。その結果、子どもたちがやりたいこと、チャレンジしたいことの選択肢が広がり、高度な指導ができるようになった。特に子どもの人数が少ないエリアでは、当然教員の数も少なく、部活動でできる種目は限られている。しかし民間委託することで、少子化が進んでいるエリアの学校でも、子どもたちは都市部の子どもたちと同様にスポーツや文化に触れる機会を得ることができるようになるのだ。

部活動の地域化のメリット

©Shutterstock

こうした民間委託について、「部活動を廃止して、やりたい家庭だけが個人でスポーツクラブに通わせればいい」という意見もあるようだ。しかし、部活動の意義は単にスポーツや文化に触れることだけではないと、永冨氏。

「義務教育期間中である小中学校時代、子どもたちが放課後をどう過ごすかは、とても大きな課題です。たとえば親が共働きの場合、親が帰ってくるまでの間に犯罪に巻き込まれる、あるいは非行に走るきっかけとなるような場所に出入りしてしまう可能性があります。学校で部活動をし、スポーツを嗜み文化に触れることは、そうしたリスクを減らすことに役立つと思います。 そのためには、競技としての勝敗や記録を出すことが目的のチャンピオンスポーツではなく、生涯を通してできるスポーツや文化に出会い、楽しむことが重要で、そうした放課後の過ごし方が、これからの時代は求められるのではないでしょうか」

部活動の地域化は教員の負担軽減が注目されているが、その他にもさまざまなメリットがある。

1.地域の大人たちみんなで見守り育てることで犯罪や非行から子どもたちを守る
2.経験者や有資格者による高度で安全な指導が行える
3.指導者を募集することで地域の雇用が活性化する
4.子どもたちがスポーツや文化にふれる機会を平等に与えられる

少し数えただけでもこれだけのメリットがあるのだ。しかも子どもたちだけでなく、教員や地域にとってもメリットがあるのだから、小中学校に通う子どもがいない家庭も人ごとではない。

学校教育の分業化が、子どもたちの正しい育成につながる

©Shutterstock

近年、小中学校の先生になりたい大学生の数が減っているそうだ。それは単に仕事が大変だからではなく、過度な要求を社会や親がすることで、先生たちを苦しめているのも原因のひとつではないかと永冨氏。

「小中学校の先生たちの仕事は大変ですし、私は敬意を表していますが、彼等はスーパーマンではないので、やれることには限界があります。ですから、先生たちではカバーできない部分については我々のような民間企業に協力させてもらえればいいと思うのです。
それぞれが得意な分野で分業をして、先生たちは専門の科目の授業や子どもたちの心理面をケアしていただき、部活動はそれぞれの専門家が教える。
さらに弊社の場合、部活動に関する問い合わせや苦情はコールセンターのようなものを作って集約しています。これは、あくまでも私個人の思いですが、そうしたことで先生の負担を減らして本来の業務に集中できるようにすれば、学校の中で子どもたちを正しく育成できるのではないか、今こそ、学校という場所を変えていく時期なのではないかと思っています」

今年、厚生労働省が発表したところによると、1人の女性が生涯に産む子どもの数、出生率も2021年は過去最少で、合計特殊出生率は6年連続で低下しているという。少子化問題の原因はひとつではないが、安心して子どもを通わせることができる学校を作ることも、少子化問題を解決するためにはなくてはならない課題ではないだろうか。そのためには、永冨氏が言うように、公も民間も関係なく大人が力を合わせることが必要なのかもしれない。


取材中、永冨氏が、部活動支援を始めたきっかけを「困っている人たちが目の前にいたから」と言っていたのが印象的だった。何ごとも新しいことを始めるときや、今までのやり方を大きく変えるときには、反対意見がつきものだ。部活動の地域化も、そうした中のひとつだった。しかし、困っている人がいたら、解決できる力を持った人たちが手を差し伸べるというのは、実は当然のことではないだろうか。そこには公も民間も関係ない。子どもたちの健やかな成長のためにも、今こそ、大人が柔軟に新しい仕組みを取り入れ、かわっていく時なのではないかと感じた。

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
photo by リーフラス株式会社, Shutterstock

『競技の指導レベルが格段にアップし、教員の負担も減る「部活動」の画期的な仕組みとは?』