幸せはコントロールできる? 幸せになるために重要な4つの因子

2020.04.15.WED 公開

誰もが幸せな人生を送りたいと思っている。不幸になりたいなどと願う人は一人もいないだろう。だから、幸せになるためにはどうしたらいいか、いろいろな人が多くの本を書き、幸福論を語るのだ。一方で、幸せには人それぞれ理想とする形があり、一概にこうすればいいという法則がないようにも思える。人間の脳、ロボットの研究から幸福について科学的に解き明かした前野隆司氏に、誰でもできる「幸せをコントロールする仕組み」について伺った。

人が目指す幸せの形はバラバラでも、基本のメカニズムは同じ

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授の前野隆司氏。ロボットや脳科学の研究を出発点として、心理学、社会学、哲学まで、分野を横断して研究しつつ、幸福学・感動学の日本での第一人者として、個人や企業、地域と、各フェーズで活動中。

「生活満足度」というものをご存じだろうか。家庭、仕事、健康や教育、コミュニティ、安全など人の生活に関わりの深い物事について、人がどれだけ満足しているかを調べたものだ。普通に考えれば、経済的に裕福になり、ものが豊かにあれば幸福度は増すと思うのは当然かもしれない。しかし、そんなイメージに反する調査結果がある。

図:生活満足度と一人当たり実質GDPの推移(1960〜2010年)(前野隆司著『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社現代新書)より)

日本の一人当たりのGDP(国民総生産)と生活満足度の推移を比較すると、GDPは上昇しているのに、生活満足度は横ばいが続いている。なんと、終戦直後の1950年と最近とでは生活満足度に大きな違いがないという調査結果が出ているのだ。それを見て、カメラやロボットの研究をしていた前野隆司氏は衝撃を受けたのだという。

「僕は、科学技術の進歩とそれに基づく豊かさの向上こそが人々を幸せにすると信じて、企業に就職しエンジニアになりました。なのに、自分がいくらいいカメラやロボットを作っても、人々の幸福に貢献していないかもしれないということですから」

そこから前野氏はロボットの心を作るよりも人間の心を明らかにするべきだと考え、幸福を研究し始めることになる。

「人の考える幸せのイメージは、バラバラかもしれません。でも、人間はひとつの生物。同じ複雑な脳を持った生物である以上、目指す幸せの形は多様でも基本のメカニズムは一緒なのではないかと考えました。そんな人間の脳が幸せを感じるためのメカニズムを明らかにしようと、幸福学の追究を始めたのです」

自分が幸せかどうかを考える時、「もう少しお金があったら幸せだったのに…」とか「もう少し頭が良かったら…」、「もう少し外見が魅力的だったら…」と思う人は少なくないのではないだろうか。しかし、幸福に最も影響を及ぼすと思われるお金が、実は幸福とはあまり関係がないことがわかっている。

「プリンストン大学名誉教授でノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマンの研究によると、『感情的幸福』は年収7万5千ドルまでは収入に比例して増大するのに対し、それ以上になると比例しなくなるのです。つまり、収入増は感情的に幸福を感じる要素にはならないのに、お金が増えれば幸せになると思い込んでしまっていること。これをカーネマンは『フォーカシング・イリュージョン』と呼びました。人は間違ったところに焦点を合わせがちだと言うのです」

収入に限らず、名誉や物質、優れた肉体など、私たちが手にしていれば幸せなのではないかと思う要素はいろいろある。もしこれらが幸福に関係ないとしたら、いったい何を目指せばいいのだろうか。

「幸福について研究し始めた最初の頃、『幸福のチェックリスト』というものを作り、チェックがついた数が多いほど幸福なのではないかと仮説を立てて調べたことがあります。でも、チェックリストの項目をほとんど満たしていなくても自分は幸せだという学生がいました。じゃあ、どれを満たしていれば幸せなのか。それを知りたくて『幸せの因子分析』というものを行ったのです」

これさえあれば誰もが幸せになる!知っておきたい4つの因子

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「因子分析」。何やら難しそうな匂いのする単語だ。そもそも「幸せ」という目に見えない漠然としたものに、そんな科学的なアプローチが通用するものか疑問を感じる。

「因子分析とは、簡単に言えば物事の要因をいくつか求め、その要因が物事にどのぐらい寄与しているかを求める方法です。たとえば味覚の因子分析をするなら、いくつかの食品や調味料の味について多くの人に、たくさん質問をして、何段階かで答えてもらいます。甘いか辛いかだけではなく、甘酸っぱいか、ほろ苦いか、甘辛いかなど微妙な質問も含めるとより深い結果が出てきます。そうして出てきたアンケート結果をコンピュータで計算すると、いくつかの因子が求められます。味覚なら『甘さ因子』『辛さ因子』『酸っぱさ因子』などですね。これの幸せ版を求めて出てきたのが幸せの4因子です」

このようにして見つけられた幸せの4因子。人が幸せになるために押さえておきたいポイントとはいったいどういうものなのだろうか。

第一因子:「やってみよう!」因子

自己実現と成長の因子。
自分の強みがあるかどうか、その強みを社会で活かしているかどうか、そんな自分はなりたかった自分であるかどうか、そして、よりよい自分になるために努力しているかどうかなど。

第二因子:「ありがとう!」因子

つながりと感謝の因子。
自分を大切に思ってくれる人がいるかどうか、人生において感謝することがたくさんあるかどうか、日々の生活において、他者に親切にし、手助けしたいと思っているかどうかなど。

第三因子:「なんとかなる!」因子

前向きと楽観の因子。
ものごとが思い通りにいくと思っているかどうか、学校や仕事での失敗や感情をひきずるかどうか、人生で多くのことを達成したと思うかどうかなど。

第四因子:「ありのままに!」因子

独立と自分らしさの因子。
自分のすることと他者がすることを比較しがちかどうか、自分に何ができて何ができないかは外部の制約のせいだと思うかどうか、自分自身についての信念は変化するかどうかなど。

この4つの因子の内容を見て、みなさんはどう思うだろうか。自分は強みがあってそれを社会で発揮できていると思えば1番目の「やってみよう」因子は満たしているということになる。しかし、それでも他人と自分を比較して、自分にはあれがない、これがないと後ろ向きに考えてしまうようなら4番目の「ありのままに!」因子が足りないということだ。それを満たすようにすれば幸福度は上がることになる。

「これら4つの因子は四つ葉のクローバーみたいなもので、4つ揃うと幸せになれるということ。ただ、絶対に4つ揃わないと幸せではないのかどうかはまだ議論の余地があるでしょう。大事なのは、私たちの幸福に関係する心的因子がわずか4つに集約されたこと。人間の脳はわかりやすい目標があると、無意識にそれを目指してしまうものなのです。だから、そのシンプルさが重要で、この4つを覚え、満たすように心がけていたら、誰でも幸せになれると思います」

日本人は実はバラエティに富んだ国民!?

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前野氏が幸せの4因子について詳述した著作『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』を上梓したのが2013年。それから7年がたち、世の中全般でWell-Beingやポジティブ心理学に注目が集まり、講演を依頼されたり、企業研修に参加したりすることも多いそうだ。

「話していると、自分は4つの因子をすべて満たすことなんてできないとおっしゃる方が結構います。そんなこと言わずになんとかなりますからやってみましょうと言うと、前野先生だからできるんです、自分には自信がないと。そういう風に自己肯定感が低い人が日本人には多いような気がします。

日本人には心配性遺伝子というものがあって、心配しがちな国民だということが知られています。でも、心配性だからこそ細部にこだわって自動車産業が発展したり、きめ細やかなおもてなしができると世界から評価されたりしています。つまり、心配性であること自体は決して悪いことではないんですが、幸福になるために自己肯定感は高いほうがいいと言えるでしょう」

「おもてなし」もそうだが、震災の時にきちんと整列して何かを待つ日本人に海外から称賛の声が上がったことがある。一方で昨今の新型コロナウイルスの流行でマスクやトイレットペーパーの取り合いをする光景を目にすると、違和感を覚えることも事実だ。

「たしかに日本人の中には、整列して並ぶ人もいれば、我先にと列を乱す人もいます。自己肯定感、楽観性に関しても低い人から高い人までいろいろいて、そういう意味では多様性があると言えるでしょう。これに対し、いろいろな人がいることを良しとせず、生産性を上げるために国民を均質にしようとしてきた歴史的な経緯があります。そうすると効率化ができたとしても、幸福度はどうしても低くなってしまいます」

幸せの因子の2番目「ありがとう」因子からは、幸福度と交友関係に深い関連があることがわかるが、友達が多いことよりも、たとえ数は少なくとも多様な友達がいる方が幸せな傾向があるのだという。

「友達が多様だから幸せになるのか、幸せな人が多様な友達を作ったり、多様な人を受け入れる寛容性をもっていたりする傾向にあるのか、どちらが原因でどちらが結果なのかはわかりませんが、統計的にわかっているのは友達が多様な人は幸せな人が多いということです。だから、仕事のつながりだけとか、地域のつながりだけではなく、多様な他者と親密になることが幸せの第一歩と言えるでしょう」

多様な人とつながることが、幸せな社会を作ることになる

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昨今の日本では、電車に乗ると、座席一列みんなが俯いてスマホに向かい、他者とのコミュにケーションを拒絶しているように見えることがある。そんな日本人が他者との「つながり」を身に着け、幸せになるのは難しそうにも思える。

「僕は、いくつかの街作りに関するプロジェクトにもかかわっています。総合計画の中に『市民みんなが幸せな街作り』を掲げているケースで、どんな街が幸せと考えるかというアンケートを取ると、『もっとみんなとつながることのできる街』と答える人が多いんです。つまり、みんな本当は他者とつながりたいと思っているんですよ。普段からつながりが密にある地域の方が、いざというときに助け合うことができますしね」

多種多様な人を受け入れ、つながっていくことがひとりひとりを、ひいては社会全体を幸せにする。まさに最近よく言われるD&I(※)は、こういった草の根のつながりを大事にしていくことによって実現できるものと言える。
※D&I(ダイバーシティ&インクルージョンの略)=ダイバーシティとは多様性、インクルージョンとは包括・包含の意。マジョリティ(多数派)やマイノリティ(少数派)を区別せず、あらゆる全ての人を含んだものの見方や考え方。

「以前、聴覚に障がいがある方の前で講演をしたことがあるんですが、そのあとの懇親会でみなさんが遠くの人とも手話でやり取りしているのを見て、心からうらやましいと感じました。スキューバダイビングをしていても会話できるんですよと言われ、なるほどと思ったものです。この例からも分かるように、障がいでも何でも、すべての事柄には裏表があって、どんな人の個性にも良い面が必ずある。多様な人に出会う機会が少ない社会を作ってしまったから、自分と違う人に会うことを苦手だと思う人を増産してしまったのが日本の現状です。多様な人と出会って話せば必ずわかりあえるはずです。

東京では、2021年に延期となったオリンピック・パラリンピック開催に向けて新たに準備が進んでいますが、みんなで応援にいって素晴らしさを感じられると素敵ですね。特にパラリンピックは、今までなかなか身近に出会えることがなかった障がいのある人とのつながり直しのきっかけになるといいと思っています」

障がいのある方を見かけた時、なにかお手伝いできないかという気持ちがあっても、なかなか声をかけることができない人が多いと聞く。

「日本人はすぐそばに人がいても、全然知らんぷりですよね。でも海外に行けば、電車で席に座る時に隣に人がいたら必ず『Hi(ハイ)!』などと声をかけます。それが自然なんです。駅の階段の前にベビーカーを押しているお母さんがいたら『手伝いましょうか?』とひとこと声をかけるだけでいいんです。『大丈夫です』と言われるかも知れないけれども、手伝って『ありがとう』と言われれば嬉しいじゃないですか。お母さんは手伝ってもらって幸せになれるし、手伝ったこちらも幸せになれる。このように幸せはうつるもので、循環していきます。それは対人関係の中だけではなく、自分の中でも循環していくものなんですよ。さっき説明した幸せの4因子も1つの因子が実現できれば、2つめの因子も実現可能になる。幸せな活動をしていれば、雪だるま式に幸福度は高まっていくもの。この4因子を理解して、みんなで実践していってもらいたいなと思います」


アメリカのある研究によると、企業に勤める幸せな社員の創造性は、幸せではない社員の3倍高く、生産性は3割、売り上げも3割高いという結果が出ているそうだ。幸せであることは個人の人生のみならず経済活動にも影響するとは驚きだ。前野氏が提唱する4つの因子はシンプルで覚えやすい。ただ、人によっては実践に少々ためらいがありそうなものもある。しかし、できそうなところから、一歩足を踏み出すつもりでやってみると、いつの間にか自分も周囲も変わっているものなのだろう。さっそく、今日誰かに「ありがとう」を伝えることから始めてみるのもよさそうだ。

PROFILE 前野隆司
1962年、山口県生まれ。東京工業大学大学院修士課程修了。博士(工学)。キヤノン株式会社を経て、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、ハーバード大学客員教授、慶應義塾大学工学部教授などを歴任。現在、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。ロボットや脳科学の研究を出発点として、心理学、社会学、哲学まで、分野を横断して研究しつつ、幸福学・感動学の日本での第一人者として、個人や企業、地域と、各フェーズで活動。著書に『脳はなぜ「心」を作ったのか:「私」の謎を解く受動意識仮説』(ちくま文庫)、『幸せのメカニズム:実践・幸福学入門』『感動のメカニズム:心を動かすWork&Lifeの作り方』(ともに講談社現代新書)ほか多数。

text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
photo by Kazuhisa Yoshinaga, Shutterstock

『幸せはコントロールできる? 幸せになるために重要な4つの因子』