東京への切符争奪戦・2018IBSAゴールボール世界選手権を現地レポート(パラリンピック競技・ゴールボール|女子)

2018.06.18.MON 公開

4年に1度、ゴールボールの世界一を決める「IBSAゴールボール世界選手権大会」が6月3日から8日までスウェーデン・マルモで開催された。女子の部には地域予選上位国など12ヵ国が出場。メダル獲得を目指した日本女子チームは、準々決勝でカナダと延長戦までもつれる熱戦を演じるも、2-3で惜しくも敗れ、5位で大会を終えた。

今大会は上位3ヵ国に東京2020パラリンピックへの出場権が与えられるとあって、世界の強豪国が顔を揃えていた。2012年のロンドンパラリンピックで金メダルに輝いた日本は、すでにホスト国として東京パラリンピックに出場することが決まっているものの、東京で返り咲くためにも「自力での出場権獲得」と「世界選手権のメダル」が欲しかった。その目標はかなわなかったが、世界の中での現在地を知る絶好の機会になった。

優勝を喜ぶロシアチーム ©Kyoko Hoshino

なお、優勝のロシア、準優勝のトルコ、3位のブラジルが、東京パラリンピックへの切符を手にした。

予選3勝も悔しい準々決勝敗退

キャプテンの天摩由貴は、「メダルが獲れず、悔しい。何が足りなかったのか整理して、2020年に向けて切り替えたい」と話せば、ベテランの小宮正江は、「準決勝敗退が今の実力。もっと強くなるために今(の悔しさ)があると思って、チームも私も前進したい」と前を向いた。

小柄ながら俊敏性のあるキャプテンの天摩 ©JGBA

日本の戦いぶりを振り返ると、6チームずつ2組に分かれた予選プールでは、初戦オーストラリアに2-1、続くスウェーデンに6-2と連勝後、攻守に優れたロシアに4-4で引き分け、イスラエルに3-2で勝利後、予選最終戦のトルコには0-5で敗戦。3勝1敗1分の3位で決勝トーナメントに進出した。

準々決勝のカナダ戦では序盤から欠端瑛子、小宮が相次いで得点して優位に立つも追いつかれ、2-2の同点で、延長戦に突入。延長前半の終了間際、カナダのB・ガウリンが放ったバウンドボールをセンター浦田理恵が足に当てるも止め切れず、敗れた。

バウンドボールに泣いた強豪との一戦

市川喬一ヘッドコーチ(HC)は、「全体的にセンターでの失点が多かったのが、想定外。移動攻撃など激しい動きを求めた分、守備が雑になった」と、武器である守備に見えた課題を口にした。

もともと堅守を誇る日本はリオ以降、攻撃力強化にシフトしてきた。海外の強豪国の多くは、今大会46得点で得点女王になったトルコのS・アルティノルクに代表されるような高い決定力をもつ絶対的エースを擁する。だが、海外に比べて小柄でパワー不足の日本は個人技だけでは戦えず、俊敏性を活かした速攻や移動攻撃、フェイク(※)など「チームでの攻撃」に勝機を見出した。そのため、守備の壁をつくるタイミングの遅れや位置のずれなど守備にほころびが出たという。 ※複数選手が音をたてるなど相手を惑わす作戦

また、失点の8割強がバウンドボールだったことも市川HCは明かし、「日本の弱点を突かれた」という。

その象徴が、4-4で引き分けた予選でのロシア戦だった。試合序盤、エースのI・アレストバの高速グラウンダーでロシアに先制を許すも追加点は与えず、逆に欠端瑛子、小宮が得点を重ね、リードを奪う。だが後半、攻撃をバウンドボール主体に切り替えたロシアに連続得点を喫してのドロー。最終的に優勝を果たしたロシアが、今大会でここまで追い詰められたのはこの一戦のみ。それだけに、悔やまれる敗戦だった。

ゴールボールでは床に横たわり壁をつくって守るが、弾んでくるバウンドボールに対しては横たわるだけでなく、バウンドに体を合わせる技術が求められる。タイミングがずれればボールを弾いたり、体の下をボールが抜けたりする危険がある。小柄な日本選手には、ピンポイントで合わせなければならない。

世界の攻撃の主流が今、バウンドボールになってきたことを受け、日本は守備のラインを下げる「ダウンシフト」を練習し始めたばかりだ。「攻撃重視から、今後は守備の精度を高めながら、攻守の連動を意識させ、『皆で守って皆で攻めるスタイル』をもう一度、徹底させたい」と市川HCは話した。

堅守で金メダルを獲得したロンドンパラリンピックの立役者・浦田も健在 ©JGBA

ウィングの得点力には自信

エースの欠端は、「以前よりも得点できるようになり、手応えはあったが、(世界のエースたちには)まだかなわない。スローの技術をもっと上げたい」と話し、守備の要の浦田は、「ウィング(※)の得点力は上がっているのに、ディフェンスで足を引っ張ってしまった。ラインの上げ下げなどバウンドボールへの対応力も高め、『守備の日本』を立て直したい」と意気込む。 ※コート上の3人はポジションが決まっており、中央をセンター、両サイドをウィングと呼ぶ。

そんななか、大舞台のデビュー戦で持ち味を発揮した若手の活躍もあった。制球力のある安室早姫は先発したイスラエル戦で決勝点となるペナルティショットを冷静に決めた。「練習してきた得意なコース。自信をもって投げ込んだ」と胸を張った。

成長が期待される高橋(手前)©Kyoko Hoshino

守備力に期待がかかる高橋利恵子はミスなく守り切り、他選手が弾いたボールを後方で止めるカバーでも活躍。「意外に落ち着いてプレーできた。守備は(世界でも)通用するんだと自信になった」と手応えを口にした。

復活を期す大舞台まで、あと2年。今大会でそれぞれが抱いた悔しさと覚悟を糧に、さらなる成長と進化を期待したい。

text by Kyoko Hoshino
key visual by JGBA

『東京への切符争奪戦・2018IBSAゴールボール世界選手権を現地レポート(パラリンピック競技・ゴールボール|女子)』