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Sports /競技を知る
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ジャパンパラ陸上競技大会を制した、伸び盛りの日本代表候補たち

パラ陸上のジャパンパラは、トップアスリートが集まる注目度の高い競技大会だ。世界パラ陸上競技選手権(9~10月/インド・ニューデリー)とデフリンピック(11月/東京)イヤーである今年は、6月7日と8日の2日間、弘進ゴムアスリートパーク仙台で行われ、350人を超える選手がエントリーした。
日本パラ陸上連盟は、今回のジャパンパラ前に、世界パラ陸上競技選手権の選手選考基準の一部を変更。若手および競技開始間もない選手への機会拡大を図る目的で新たに「Under派遣標準記録」が設定された。2年後の世界パラ陸上競技選手権はトップ選手がパラリンピック出場をかけて争う位置づけになることが予想されるため、若手や新人がジャンプアップするためには是が非でもこのチャンスを掴んで世界の経験を積みたいところだ。
今回の記事でも、若手と新人の活躍にフォーカスしたい。
【小松沙季】カヌーから転向した大型新人
1本目のスローの記録が表示されると、会場から拍手が湧いた。やり投げの小松沙季(F54/車いす)は、自身が掲げていた目標の15m04(世界選手権の派遣標準記録)を超える16m99をマーク。これが最長となり、4月のやり投げデビュー戦で打ち立てた自身の日本記録を2m以上更新して優勝。注目する報道陣を前にガッツポーズで応えてみせた。
世界への挑戦権を手中に収め、「安心しました」と小松。
そんな小松も普段の練習は試行錯誤中だ。コーチはおらず、高知県立障害者スポーツセンターのグラウンドで砂場に向かってやりを投げている。今大会に向けてはスイングスピードを上げるトレーニングに励んだ。本番では、試合前の練習で投げすぎてしまったという前回大会の反省を活かし、練習を2本に抑えた。高鳴る気持ちを抑えながら投げたやりは、パリ2024パラリンピックで銅メダルだった選手の記録を超えるビッグスローに。一躍、国際大会のメダル候補に急浮上した。
昨夏はカヌー日本代表としてパリ2024パラリンピックに向かった。レース当日、会場まで行ったものの、ドクターストップで出場できなかった。「カヌーは好きだが、自分がワクワクしていたほうが、周りもワクワクするだろうなと思った。人を惹きつける魅力をつけていきたいので、新たなチャレンジをすることにした」と明かし、「肩には自信があったし、(周りに陸上競技関係者が多く)縁があったから」と競技転向に至ったきっかけを語った。
バレーボール・Vリーグのチームに所属した経験を持つ。手を振り切るサーブの動作がやり投げに似ているといい、残存機能で身体を回旋させる、カヌーで習得した動作も活きている。
記録をどこまで伸ばすことができるか。競技を始めたばかりの30歳は、可能性に満ちている。
【中川もえ】女子短距離の新たなエースに
「日本記録を出したかった」
そう悔しがったのは、21歳の大学生・中川もえ(T47/上肢障がい)。
100mは12秒97だったが、前週の布施スプリントでマークした12秒81が「Under派遣標準記録」である12秒92を突破しており、世界選手権に出場できれば「日本記録(12秒69)は、絶対に出したい」と誓った。
4月の日本パラ陸上競技選手権(愛媛県)で100mの日本記録保持者・辻沙絵に競り勝ち、そのレースで引退した辻から「後は任せたよ」と声をかけられたという。
中川にとって辻はパラ陸上を始めるきっかけになった憧れの存在。中川は学業と両立を実践しているが、最近は看護実習中も時間を見つけて練習に取り組むなど、アスリートとしての意識が高まりつつあるという。
「世界のレベルが上がっているなか、Underという基準を設けていただけたのは嬉しいですし、海外の大会に出て先輩たちの競技へ意識に触れられるのかなと思う」
中川は、充実した表情で競技場を後にした。
【吉田彩乃】パリを経て覚醒
21歳のエース小野寺萌恵がいるT34(脳性まひ)は、100mと800mで18歳の吉田彩乃が制した。
パリパラリンピックを経験し、「もっと強く、速くなりたいと思った」と吉田。今春、神奈川県の高校を卒業し、パラスポーツの実業団チーム「WORLD-AC」に加入するため、岡山に移り住んだ。環境を変えてまだ2ヵ月だが、持久力などがアップし、松永仁志監督のアドバイスでグローブや車いすレーサーのポジションとタイヤを変え、それが結果に結びついているという。
そんな吉田は、布施スプリントで世界選手権の100mの派遣標準を切っており、今大会は「日本一」を目標にしていたことだろう。
小野寺には勝ったが、「世界一になるためには日本一にならなければいけいない。日本記録を更新することが目標です」と高みを見据えた吉田。
一方の小野寺も「競争する相手がやっときた」と話している。今後のライバル争いが楽しみになるジャパンパラだった。
text by Asuka Senaga
photo by X-1