「ぱん食い競走」あんぱんの木村屋社長と為末大が手がける! ゆるく楽しく、地域の人々をつなげる魅力に再注目

2025.10.28.TUE 公開

現在の大人世代が子どもの頃、運動会などで盛んに行われた“ぱん食い競走”。しかし最近では衛生や安全面の懸念からあまり見られなくなっている。そんな“ぱん食い競走”の楽しさに目を付け、この文化を広め、パンを通じて幸福を配り、世界平和を実現しようとしているのが「いっ“ぱん”社団法人 ぱん食い競走協会(設立準備中)」(以下、協会)だ。2024年のスタート以来、全国各地で30回を超える大会開催に関わっているという。
仕掛け人は、オリンピアンの元陸上競技選手・為末大氏と、あんぱんの元祖として知られる木村屋總本店の社長・木村光伯氏。「“ぱん食い競走”で世界平和を実現する」とはどういうことなのか。協会の副会長を務める木村氏に伺った。

ぱん食い競走はハードルのない楽しいスポーツ

2024年10月にlivedoor URBAN SPORTS PARKで開催された「ユニバーサルパン食い競走」。車いすユーザーや義足の選手も参加した

きっかけは、協会の会長を務める為末大氏との交流にあったという。陸上競技の400mハードルでオリンピックに3大会連続出場した為末氏と木村氏は同い年で、飲み仲間だったそうだ。

「為末さんには、スポーツのハードルを下げたい、誰でも気軽に参加できるスポーツイベントをしたいという思いがありました。一方私は、あんぱんをもっと多くの人に知っていただきたい。単に食べておいしいというだけではなく、誰かと分かち合ったり、何か体験を通じてあんぱんのおいしさを楽しんでいただきたいと考えていました。そのうちに、ぱん食い競走の話が出て、一緒にやりましょうということになったんです」(木村光伯氏、以下同)

そして、第1回のぱん食い競走が2024年4月6日、東京日本橋で開催され、200名の参加者がコレド室町仲通りをパンを口に咥えて駆け抜けた。

「大会を開催して印象に残ったのは、参加者はもちろん、周りで見ている人も笑顔だったこと。大人も子どもも皆で一緒に走って、和やかに競技が進んでいき、誰も悲しむことがない。昨年10月に開催したユニバーサルぱん食い競走では、義足の方や車いすユーザーの方など、障がいの有無に関係なくさまざまな方が参加されました。“ぱん食い競走”は本当にハードルのない楽しいスポーツなのです」

大会終了後、子ども食堂にパンを贈り地域貢献

第1回大会を終え、中央区の子ども食堂の運営団体のひとつである月島聖ルカ保育園の園長(写真中央)にパンを贈る協会会長・為末大氏(右)と木村氏(左)

“ぱん食い競走”は、開催して終わりではない。大会後に、参加者の人数と同じ数のパンを地域の子ども食堂などに配り、地域に貢献するところまでがセットになっているのだ。

「“ぱん食い競走”の大会をどのように開催していこうかと考えている時に、能登半島地震が起き、私たちもボランティアで行ってパンを届けるなどといった活動をしました。その時、大変な時の一時的な支えだけではなく、それ以降の復興期も含め長きにわたって支援することが大切なのだと気づかされたのです。子どもの貧困が問題になって久しいですが、それも地域の人々がつながって、みんなで子どもを継続的に支えていかないといけないのではないだろうかと思いました。そういう経緯もあり、“ぱん食い競走”大会後の子ども食堂支援のアイデアが生まれたのです」

木村氏の言葉にあるように、協会の推奨する“ぱん食い競走”は、地域の人たちがつながることを主眼としている。だから、あくまでも大会は地域の企業や団体などが主体となって開催される。開催したいと考えた地域の組織・団体が協会に協力を仰ぐ際のポイントとなるのは、以下の2点。

(1)開催方法の選択

  • 競技用具貸し出し型(大会開催に必要な用具や競技用パンを、協会から提供してもらう/有料)
  • ナレッジ共有型(必要な準備具やスケジュールなどをまとめたマニュアルを協会から共有してもらう/無料)

(2)サポートオプション(以下から適宜サポートを受けられる)

  • 企画進行支援(開催経験豊富なスタッフが開催までフォローアップ)
  • MC派遣(開会式から競技中などイベントを盛り上げるMCを派遣)
  • スタッフ派遣(競技時のパンの付け替えを対応するスタッフを派遣)

なお、競技用のパンやその後の子ども食堂に贈られるパンは、地域をつなぐことを目的とする取り組みであることから、地域の製パン業者からの提供・協力を仰いでいる。

人々を笑顔にするぱん食い競走の“ゆるさ”

能登半島地震で地形が隆起し、広大な砂浜が生まれた輪島市町野の曾々木海岸で2025年7月、復興プロジェクトの一環として大会が開催された

地域のつながりを作り子どもを支えて社会課題の解決を図るというと、何か固いイメージを持ちがちだが、木村氏が先に語ったように“ぱん食い競走”にはそんな“固さ”とは無縁の、人を笑顔にする力がある。何故なのだろうか。

「“ゆるさ”があるからなのではないでしょうか。第2回を昨年6月に国立競技場で開催したのですが、“新宿の日”(※)にちなんだイベントで新宿にゆかりのあるメーカーさんに支援をお願いしました。すると、新宿高野さんからはクリームメロンパン、新宿中村屋さんからはどら焼き、新宿文明堂さんからはカステラをご提供いただきました。もはやパンではないのですが(笑)、誰も文句は言いません。そういったレギュレーションの“ゆるさ”に加えて、どら焼きやカステラが揺れていて、それをくわえて走る楽しさもあります。見ている人たちも盛り上がって楽しいイベントになりました。難しいルールもなく、細かいことも気にせずに楽しめるのがみんなを笑顔にする理由だと思いますね」
(※新宿の日とは、新宿をホームタウンとする、日本フットボールリーグ所属のサッカークラブ・クリアソン新宿が主催するイベント)

ぱん食い競走では、優勝者に贈られるトロフィーも、もちろんパンでできている

ゆるいといえば、協会の名称も「いっ“ぱん”社団法人 ぱん食い競走協会(設立準備中)」と「一般」を「いっ“ぱん”」としたり、設立趣意書には「スポーツパンシップに則り、楽しいぱん食い競走文化を広め……」と記載してあったり、そんなところにもゆるさがあり、皆が楽しんで子どもたちを支援している様子がうかがえる

「木村屋總本店の社員がスタッフとして参加した際、小さい子どもたちがパンを咥えて一生懸命走り、ゴールした後おいしそうにあんぱんを食べている姿を見ていると本当に嬉しくなる、やりがいを感じると言ってくれて、会社としても“ぱん食い競走”に関わる意義を感じています」

ギネス世界記録™にも挑戦!夢は世界大会の開催

ぱん食い競走文化を広める取り組みの中で、共感はさまざまに広がり、今年11月にはあの“ギネス世界記録™”に挑戦するというのだから驚きだ。浜松で行われる“第9回全日本パンフェスティバルin浜松”では、ギネスワールドレコーズ™の公式認定員の立ち会いの下、世界最大のぱん食い競走を目指す。今回の目標は、参加者2000人だそう。

「為末さんとよく話しているのは、この“ぱん食い競走”の世界大会を開催したいということです。“ぱん食い競走”は日本独自の文化のようで、第1回を日本橋で開催した時、観光で来ていた外国の方も飛び入りで参加されているのを見て、世界大会を開催しても楽しいんじゃないかと思いました。協会は“世界平和を実現するために”設立すると趣意書では謳っていますが、とはいえ、あくまでも“ぱん食い競走”です。いつでもどこでも誰でもできる競技ですので、一人でも多くの方にどこかの場所で参加して楽しんでいただきたいですね」


“あんぱん”の持てる力は、先頃のNHK朝の連続テレビ小説「あんぱん」でも話題になった。木村氏が語るように、走って楽しい、応援して楽しい、パンをもらって嬉しい、皆を幸せにする“ぱん食い競走”の力は無限大と言えるのかもしれない。ギネス世界記録™達成の後、世界大会開催……。地域の人々を結び付け、一人でも多くの子どもたちに幸せを届けるため、夢は大きく広がる。

text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
写真提供:いっ“ぱん”社団法人ぱん食い競走協会、Ekiden News

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