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小田凱人&国枝慎吾“新旧レジェンド”ペア実現で、車いすテニスが観客を魅了した特別な日

車いすテニス・世界ランキング1位で今年、「生涯ゴールデンスラム」を達成した現役トッププレーヤーの小田凱人と、元世界ランキング1位で生涯ゴールデンスラムのほか、年間グランドスラムを計5回達成し、2023年1月に第一線を退いた国枝慎吾さん。“新旧レジェンド”の2人が、100回目という節目の大会を迎えた「三菱電機ビルソリューションズ 全日本テニス選手権100th Supported by 橋本総業ホールディングス」のエキジビションマッチに登場した。(以下、敬称略)

聖地・有明コロシアムで実現
歴史ある全日本の記念事業。車いすテニスがエキシビションに選ばれたこと自体に驚かされたファンも少なくないのではないか。一般のテニスを観ることが好きだという小田が「呼んでいただけたことがうれしい」と話したのは、心からの言葉だろう。

国枝も、感慨深げに語った。
「2004年にアテネパラリンピックの男子ダブルスで金メダルを獲得後、(ダブルスパートナーだった)齋田悟司選手と有明コロシアムでエキシビションマッチを行ったことを思い出す。(当時は認知されていなかったが、今は観客が)車いすテニスを知っているという現状に感動しています」とコメント。約20年の間に、知名度や競技レベルを含めた、車いすテニスを取り巻く環境が大きく変わったことを実感させられた。
小田が国枝にラブコール
今回実現した“夢のダブルス”は、小田の「一緒にプレーしてもらえませんか?」というラブコールから始まった。「国枝さんに、シングルスで勝ちたいというのと同じくらい、ダブルスを組んでみたいという気持ちがありました」と小田は言う。

現役を退いて約3年の国枝は、「(練習を)ほどほどにサボってきた」と言い、「ラブコールを受けてちょっと『どうかな』と思ったんですけど、(小田が)ゴールデンスラムを達成したので、花を添えようと受けさせてもらいました」と明かし、2週間で計4回練習し、コンディションを整えて当日を迎えた。
2人がタッグを組むのは、2022年にポルトガルで行われたワールドチームカップ以来。国内では初めてという新旧レジェンドペアが入場すると、大きな拍手で観客に迎えられた。

エキシビションながら真剣勝負
対する相手は、前日発表された、眞田卓と三木拓也のペア。眞田はパリ2024パラリンピックの後、日本代表から退いた車いすテニスプレーヤー。パリで小田とペアを組んだ男子ダブルスで銀メダルを獲得した三木は、現在も世界を転戦するトッププレーヤーだ。

約40分間のエキシビションは、小田のサービスゲームからスタート。小田の代名詞でもあるサーブに加え、国枝のバックハンドも健在だ。
しかし、眞田・三木も応戦する。過去にパラリンピックでベスト4に入った2人は、特別なエキシビションにふさわしい連携を見せ、観客から拍手を受けた。

実は、小田が15歳でプロ宣言した年、初めて日本代表として戦ったワールドチームカップのメンバーが、国枝、眞田、三木だった。当時の小田にとって、憧れであり、道しるべになった3人が揃い、「そこに自分が入っているのが不思議な感じがした」と小田は懐かしそうに語った。

エキシビションマッチは、眞田・三木リードのまま、終了時間となり、勝敗はつかなかった。「国枝・小田ペアは『魅せなきゃ』というプレッシャーは絶対にあったと思う。そんな中、お客さんに車いすテニスを見てもらえて本当にうれしかった」と三木は高揚感を漂わせた。
眞田も「車いすテニスのレベルがどんどん上がっている中、(観客に)白熱したゲームを見て楽しんでもらえるというプレゼンができたのではないか」と手ごたえを語った。

夢のダブルスを振り返り、「普段の試合と違った高揚感があった。少し空回りしてしまった」話した小田。国枝のプレーについて、「引退された方とは思えない。バリバリだった」と話し、国枝は「彼の一番の武器である、相手のラケットをはじくほどのパワーは、隣にいてすごいと思う瞬間がたくさんありました」と称賛した。
記者会見では、長きにわたって車いすテニス界をけん引してきた国枝ならではの激励の言葉も光った。

「彼(小田)が出てきたことで、車いすテニスが認知されるところから、今度は人気というところに持っていけると思う。ここから先は、僕は知らないです。あとは彼らがどう発展させていくか楽しみながら見ていきたいです」
さらに、「車いすテニスの大会でエキシビションマッチをするなら?」という質問に対し、「車いすの大会の中だったら、車いすでお客さんを集めるのが一番大事。まずは車いすだけでもきちんとお客さんが入るように、彼らが頑張ってくれるんじゃないかなと思います」
車いすテニスでスタジアムが満員になる日は近いのか。彼らの人気がますます高まり、満員の中で好プレーを連発する姿を想像せずにはいられない、特別なエキシビションマッチだった。

text by Asuka Senaga
photo by Takamitsu Mifune