プロゴルファーとアイドルの二刀流で活躍! 菅沼菜々選手が寄付活動を続ける理由とは

プロゴルファーとアイドルの二刀流で活躍! 菅沼菜々選手が寄付活動を続ける理由とは
2025.06.09.MON 公開

近年、日本の女子ゴルファーの活躍がめざましいが、そもそもプロの道は狭き門。女子ゴルフ界プロテストの合格率は4%以下と言われている。そんな中、プロゴルファーだけでなくアイドルとしても活躍をして注目を浴びているのが菅沼菜々選手。キラキラとした笑顔で多くのファンを魅了する一方、実は「広場恐怖症」と現在も闘っている。そんな菅沼選手がプロ3年目から続けているのが、日本パラスポーツ協会や震災の被災地への寄付。その思いを伺った。

プロゴルファーとアイドルの活動を通した寄付

2024年12月、公益財団法人日本パラスポーツ協会へ賞金の一部を寄付した菅沼菜々選手(左から3番目)

高校を卒業した2018年にプロテストに合格して以来、プロゴルファーとして活動している菅沼菜々選手だが、実はもうひとつ別の顔がある。それは、アイドル。ファンミーティングでミニライブを行ったのを皮切りに、昨年は同じ女子ゴルファー臼井麗香選手とアイドルユニット「Chell7」(ちぇるなな)を結成し、オリジナル曲を発表。今年5月にはソロ写真集を発売するなど、こちらも本格的だ。

そんな二刀流の菅沼選手がもうひとつ力を入れているのが寄付活動。昨年の12月には公益財団法人日本パラスポーツ協会に3回目となる寄付を行った。その他にもゴルフの賞金の一部や、アイドル活動を通して行ったチャリティー抽選会で集まったお金、グッズ販売の利益の全額を能登半島地震の被災地支援のために寄付するなど、プロゴルファーとアイドル、両方の活動を通して寄付活動を行っている。

ブランク7ヶ月から一転、⽇本ジュニアゴルフ選⼿権競技で優勝

ファンミーティングで熱唱する菅沼菜々選手

プロゴルファーとアイドル、一見とても華やかに見えるが、実は菅沼選手は2020年6月に自身が「広場恐怖症」(不安障害の一種)であることを告白し、現在も病と共存しながら生活している。

「広場恐怖症を告白してからも、所属先のあいおいニッセイ同和損保さんや、スポンサーの皆さんには変わらず応援をいただいています。ですから、私も何か恩返しがしたいと思いました。それでご相談をして、あいおいさんがサポートをしている公益財団法人日本パラスポーツ協会さんとご縁をいただいたのが寄付をするようになったきっかけです」(菅沼菜々選手、以下同)

菅沼選手は寄付に限らず、自分が誰かの役に立つ、自分がしたことで誰かが喜んでくれる、笑顔になってくれることが何よりも嬉しいと話す。実際、菅沼選手から元気をもらっているファンはたくさんいるのだが、一方でSNSに「プロゴルファーなら、ゴルフだけをやっていればいい」などと、アイドル活動に対して批判的な意見を書き込まれることもあるそうだ。ただ、菅沼選手が、プロゴルファーとアイドルの二刀流を貫き、寄付も続けるのには理由がある。

それは菅沼選手が高校生の時の出来事だ。高校2年生のある日、無気力症候群を発症してしまった。無気力症候群とは勉学や仕事に対する関心や意欲を失い、無気力な状態になってしまう病で若年層に多く見られるという。

「この時は、大好きなゴルフをすることもできなくなってしまいました。高校はゴルフで入学したので、ゴルフができないなら学校に通う意味もない。ゴルフは辞めて将来は得意な料理を生かして栄養士になろうと考えたこともあります。とにかく無気力な状態が続いていました」(菅沼選手)

そして、ゴルフを再開できないまま3年生になったある日、たまたま以前から好きだった男性アイドルグループのライブに行く機会があった。

「そのグループのライブに行ったのは初めてだったんですが、すごく感動して、めちゃくちゃ元気をもらえたんです。その時に、私も誰かをこういう気持ちにさせたい、感動や元気を届けたいと思ったんです」

これをきっかけに7ヶ月間辞めていたゴルフを再開。それからわずか約3ヶ月後、⽇本ジュニアゴルフ選⼿権競技で優勝し、翌年のプロテストを経てプロゴルファーになった。この経験から菅沼選手の中には、自分が元気をもらったように、誰かを元気にしたいという思いがあるのだ。

自分が活躍することで、より多くの人を笑顔に

2025年5月、JLPGAツアー「パナソニックオープンレディースゴルフトーナメント」にて、ツアー3勝目を果たした菅沼菜々選手

広場恐怖症を抱えてプロゴルファーを続けることは決して容易ではない。たとえば今シーズンはじめ、3週間の間に3つのトーナメントに出場したそうだが、開催地は、それぞれ千葉県、宮崎県、静岡県。広場恐怖症のため飛行機や新幹線に乗ることが難しい菅沼選手は、コーチでもある父とマネージャーが運転する車で移動せざるを得ない。

「大変なのは、運転してくれているマネージャーと父ですし、協力してくれる皆さんのおかげで試合に出られるので、出場できること自体ありがたいと思っています。それに、私が広場恐怖症であることを告白したことで、この病気の認知度が高まり、理解されるようになればいいと思っています。また、私が活躍してもっと知名度が上がればグッズが売れてもっと寄付ができるようになると思えば大変ではないです。自分が誰かの役に立っていると思えるだけで嬉しいので、これからもどの活動も頑張っていきたいです」

シード権を失うなど苦しんだ時期もあった菅沼選手だが、今年5月の「パナソニックオープンレディース」で1年7カ月ぶりの優勝を飾り、「涙の復活V」として話題を呼んだ。思い描く「誰かに元気を届けられる選手」への道を、菅沼選手は確かに歩んでいる。


菅沼選手を応援する人の中には、ゴルフファンはもちろん、アイドルとして好きになり、それからゴルフを応援するようになったという人もたくさんいる。多様化する社会において、広場恐怖症を理由に何かを諦めず、またひとつの肩書きにとらわれるのでもなく、「菅沼菜々」として頑張る。その姿に多くの人が元気づけられ、彼女の生き方からヒントを得られるのではないだろうか。今後は大好きなゴルフを頑張るのはもちろん、ライブを開催したり、寄付以外にもいまだ震災の爪痕が残る能登に行って支援活動をするなど、直接的な社会貢献活動もしていきたいという菅沼選手。今後の活躍が楽しみだ。

PROFILE 菅沼菜々/プロゴルファー
2000年、東京都立川市生まれ。父親の影響で5歳からゴルフを始め、2017年⽇本ジュニアゴルフ選⼿権競技(⼥⼦15歳〜17歳の部)で優勝。埼⽟栄⾼等学校卒業後、2018年のプロテストに挑戦し⼀発合格を果たす。2023年の「NEC軽井沢72ゴルフトーナメント」で悲願のツアー初優勝を飾り、同年10月には「マスターズGCレディース」で2勝目。2025年5月の「パナソニックオープンレディース」で通算3勝目を挙げた。

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
key visual by 日刊スポーツ/アフロ
写真提供:菅沼菜々

『プロゴルファーとアイドルの二刀流で活躍! 菅沼菜々選手が寄付活動を続ける理由とは』

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