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世界ランキング1位の小田凱人が木下グループジャパンオープン3連覇。聖地のファンに見せた“カッコいい車いすテニス”

9月29日、有明コロシアムで行われた「木下グループ車いすテニスチャンピオンシップス2025」男子シングルス決勝。多くのテニスファンが見守る中、世界ランキング1位の小田凱人が完封で制し、3連覇を飾った。

大会を通して与えたのは1ゲームだけ
9月に生涯ゴールデンスラムを達成。記者会見で、「もっと強くなるので、ぜひ試合を見に来てほしい」と呼びかけた小田は圧巻劇で来場した観客を魅了した。

決勝の相手は、第2シードの荒井大輔(世界ランキング19位)。小田にとっては、競技を始めた頃、地元で世界ツアーの情報を教えてくれた“昔からの先輩”だ。「いいプレーをしたい思いが強く、(動きが)硬くなってしまった」という荒井に対し、サーブやリターンを決めてラリー展開を許さず、1時間以内に試合を決めた。

大会を通じ、王者の圧倒的な強さが光った。1回戦で小田と同じ愛知県出身の城智哉(同50位)に6-0、6-0で快勝。準決勝で髙野頌吾(同32位)を6-1、6-0で退け、決勝へ。荒井との決勝も、6-0、6-0のストレートで制した。

決勝の後、「コートに入ったら一番強い姿を見せようというモチベーションで、やれる分だけやっちゃおうという感じで試合をした」と話した小田。
決勝の舞台が、観客席約3千人のショーコートではなく、1万人収容できる有明コロシアムだということもモチベーションを刺激したようだった。
小田は、もともとテニスを見ることも好きなことから「(男子プロツアーの)ATP以上に車いすの方が盛り上がっている世界線を、現役中にかなえたい」と話している。試合後のオンコートインタビューでは、「皆さん、どうですか、車いすテニス。一番カッコいいスポーツだと思う」と呼びかけるシーンも。大きな拍手を受けて19歳らしい屈託のない笑顔を見せた。

有明で小田のプレーを目撃した観客たち
今年の木下グループジャパンオープンは、好天にも恵まれ、過去最多動員数を記録した。
この日は平日だったが、学校を休んで観戦に訪れたテニス少年もいた。
ATPシングルス世界ランキング1位のカルロス・アルカラスのプレーを観るために父親と来場した小学6年生は、同会場で先に行われた車いすテニスの試合も観戦。
コートから投げ込まれた小田のサインボールを手にし、「小田選手のスマッシュは(スピードもコースも)すごかった」と笑顔で話した。

小田のプレーを観る目的で来場した観客もいる。都内在住の60代の女性は、グランドスラムで小田のプレーを見たことがあり、国内でも見てみたいとチケットを購入した。
「小田選手は若くて強い。これからずっと応援できる選手が出てきてうれしい」と語った。

1年前のパリ2024パラリンピックでは、小田の男子シングルスのほか、現在、女子世界ランキング1位の上地結衣が女子シングルスと田中愛美と組んだ女子ダブルスで金メダル。日本車いすテニス協会は、26日に記者会見を行い、2028年にロサンゼルスで行われるパラリンピックで男女単複で4つの金メダル獲得を目指すと発表した。
日本はこの競技の強豪だが、将来、小田と同じ「男子」カテゴリーで戦う、ボーイズランキングのトップテンに日本選手が入っていない。「若い選手が強くなる環境を整えたい」と、6月に同協会の新会長に就任した川廷尚弘氏は語っている。

川廷氏は「日本にナンバーワンの選手がいるのは素晴らしいこと。チャンスである今の時期、皆で一丸となって大会やイベントをしていきたいし、彼らには(世界だけでなく)日本でも活躍してもらいたい」と続けた。

裾野を広げたい車いすテニス界全体の期待も、「年下と試合がしたい」と熱望する、小田なら楽しんで受け止めることだろう。テニスに夢中な19歳の快進撃は続く。

text by Asuka Senaga
photo by X-1