静岡県富士市立高校発の「多世代交流サッカー」 10年超の継続が生んだ地域の財産
少子高齢化、地域の過疎化が進む中、世代を超えた地域連携を図るため、各自治体ではさまざまな対策が取られている。スポーツを活用した多世代交流もそのひとつだ。静岡県の富士市立高等学校では、10年以上も前から、老若男女さまざまな人が自由に参加できる多世代交流サッカーを定期的に開催し、地元の人たちから好評を得ているという。そのスタートのきっかけや、長きにわたって地元の人々に愛されている取り組みの秘訣などについて、話を伺った。
予約不要、参加費無料の真意とは?

毎月、第二、第四金曜日の午後7時頃になると、富士市立高等学校(以下、富士市立高校)の人工芝グラウンドには、老若男女さまざまな人たちが集まってくる。ここで2012年から行われている多世代交流サッカーに参加する人たちだ。
参加資格は「サッカーを楽しみたい人」ということのみ。事前予約は不要で、服装の決まりについての記載も「運動できる服装」という一言。県外からの参加も可といった自由さもあってか、スタート以来、毎回20~30人、多い時では50人以上もの人が集まるという。
安全の問題などから部外者の出入りを制限する学校もある中、こうした開かれたサッカーの会を始めるに至ったのには、富士市立高校の校風もある。そう教えてくれたのは、同校の多世代交流サッカーの生みの親であり、現在は静岡県立小山高等学校で教頭を務める吉村順氏だ。
富士市立高校は2011年、それまで同地にあった富士市立吉原商業高等学校を改組・改称して開校した。その際、「コミュニティ・ハイスクール」「ドリカム・ハイスクール」「インクワイアリー(探究)・ハイスクール」という3本柱を教育理念として掲げた。
「同校の地域交流課長という役職に就いた私は、コミュニティ・ハイスクールを実現する、つまり地域交流を進めるために何をしたらいいのか考えたんです」(吉村氏)
そこでキーワードとして浮かんだのがサッカーだった。吉村氏がもともとサッカーをやっていたことや、同校に人工芝のグラウンドができたこともあったが、富士市にサッカー文化を根付かせたいという思いもあったそうだ。というのも、サッカー大国静岡県の中でも、清水や藤枝などの中部に比べると、東部地方はそこまでサッカー文化が根付いていなかったからだ。
「地域交流課として、サッカーを文化として根付かせるならば、いつでも、誰でもサッカーができる環境づくりが大切なんじゃないかと考えまして、多世代交流サッカーを始めました」(吉村氏)
その後、コロナ禍で中止を余儀なくされた期間を除き、毎月欠かさず行われてきた多世代交流サッカーは、2025年の春から運営をNPO法人富士スポーツクラブに委託するようになった。委託といっても、15年前にこの法人を創設したのは、同校のサッカー部監督・杉山秀幸氏で、校内に富士スポーツクラブの事務所を置くなど、以前から連携して多世代交流サッカーを行ってきた。現在は、吉村氏の後任として地域交流課長の高林佑樹氏(同校教諭)と、富士スポーツクラブの長澤陸朗氏が連携しながら継続しているそうだ。
指導は禁止、目的はサッカーを楽しむこと

多世代交流サッカーで使用されるのは、富士市立高校のサッカーコート4分の1面と、フットサルコート2面。事前予約不要なため、当日になるまで何人集まるかは分からない。そこで毎回、集まった人が輪になり、ランダムに番号をふっていき、同じ番号になった人同士がチームを組んで、チーム対抗のミニゲームを実施する。
「年齢層としては4、5歳の子どもから、60代くらいの大人までと年齢の幅も広く、比較的男性が多いですが、お子さんと一緒に来るお母さんなど、男女を問わずさまざまな人が参加してくれています。最近では、学校の最寄り駅の近くのカフェで働くフランス人の方が来てくれました。1つのスポーツ、もっと言えば1つのボールがあるだけで、いろんな人が繋がることができる。この場所とその時間がなければ出会うことがなかった人たちが、一緒になって楽しんでいる姿は素敵な光景だなと思いながらやらせてもらっています」(長澤氏)
参加者たちの中には大人も子どももいる上、サッカー経験者もそうでない人もいる。そこでミニゲームでは、その都度、独自のルールを採用している。たとえば、フットサルコートを使う場合、大人なら自陣からシュートすることができてしまう。そのため、シュートは相手ゴールの前の円の中からしかできないというルールにしている。あるいは小学生の場合は1回のゴールで2得点となるなど、多世代交流ならではの工夫がされている。
多世代交流サッカーは誰もが気軽に参加できるよう、ルールに縛られずいい意味で「ゆるい集まり」とも言える。しかし、継続していく上で、いくつか気をつけた点もあるそうだ。1つは先述した独自のルールを作って誰もが楽しめるようにしたこと。そしてもう1つはサッカー指導の場にしないということ。
「特にサッカー経験者のお父さんと子どもが参加した場合、お父さんが厳しい指導を始めてしまうことがあるんですね。それはこちらも目を光らせて、もし指導をしている場面を見つけたら、『すみません、ここはサッカーを指導する場ではなく楽しむ場なので』と、お話ししてやめてもらうようにしました」(吉村氏)
ただ、スポーツには勝負の楽しさもある。そこで工夫したのは、3つあるコートをJ1コート、J2コート、J3コートに分け、勝ったチームは一番上のJ1コートで試合ができるといったようなゲーム性を持たせた。ただし、強いチームがずっとJ1コートでプレーをしていると、それはそれで不満も出てくるので、6チームあったら6チームの総当たり戦にするなどといった柔軟な対応もするそう。そうした工夫のおかげか、これまで大きなトラブルもなく、10年以上絶えることなく、まさに地域交流の場となっているそうだ。
多世代交流が生み出した財産

地元にすっかり根付いた多世代交流サッカーだが、そこから得られるものは大きいという。その1つが自分とは違う世代の人への接し方だと長澤氏は言う。
「たとえばコロナ禍以降、小学校などでは運動会は1・2年生、3・4年生、5・6年生に分けて開催するなど、子どもたちは上級生や下級生と触れあう機会が減っています。ただ、小さい頃に違う世代の人と交流するという経験は絶対に必要だと思うんです。高学年の子ならば自分が楽しむだけでなく、低学年の子たちも楽しめるような気配りだとか、伝え方を学べます。あるいは低学年から見たら高学年は大人に見えるかもしれませんが、プレー中は臆せずにチャレンジしていくといったことを学べるからです」(長澤氏)
実際、子どもたちは多世代交流サッカーに自分より小さい子どもが参加していると、誰が教えなくても自然に優しく対応するようになっていくそうだ。また、学校で多世代交流サッカーを行うことで、参加していない学校の生徒たちにもいい影響があると、高林氏は言う。
「学校に地域交流課があるのも大変珍しいと思うのですが、もともとこの学校は外に向かって開かれていて、地域に貢献する、地域の方を迎え入れることが当たり前になっています。学校自体が市立なので、我々にとってグラウンドは高校生だけのものじゃなく、地域の方々が使うのは当たり前なんです。多世代交流サッカーなどで、普段から地域の方が学校に普通に出入りしているので、生徒たちも変な境界線がなく、解放されている雰囲気があります。
たとえば学校でボランティアを募集すると、定員をはるかに超える人数が応募してきて『人数が多すぎるから、また今度ね』などと断ることもあるくらい、さまざまなことに垣根がない。垣根がなさすぎて、大丈夫かな? と心配になるくらいです(笑)」(高林氏)
そしてもう1つ、普段から世代を超えた地域交流をすることは災害時にも役に立つと吉村氏。
「私が地域交流課の課長をしていたとき、近隣の保育園児と未就園児を学校に招待して人工芝で遊んでもらうという企画をしました。それは、その保育園の園長から地震などの災害時に避難する際、手伝ってほしいという相談を受けたことがきっかけです。そのためには普段から顔を合わせておいたほうがいいと思ったんです」(吉村)
多世代交流サッカーでも、同じ地域に住んでいながら会ったことも、話したこともない人たちが交流することでいざという時に役立つのではないかと考えているそうで、この企画は2025年度の10月の開催で第27回目を迎え、今後も継続していきたいという。
近年、文部科学省は「学校を核とした地域づくり」を目指して、さまざまな取り組みをしている。それは、地方創生や、災害時の対応などさまざまな課題を解決するために、人々の「つながり」や「かかわり」を作り出し、協力し合える関係づくりの土壌を耕しておくことを目的としている。しかし、言うは易し。いきなり隣人と「つながり」や「かかわり」を持とうと言われても、戸惑う人も多いだろう。しかし富士市立高校のグラウンドには、多くを語らなくても、多世代のさまざまな人が当たり前のように集い、協力しながらサッカーを楽しんでいる。これこそがスポーツの持つ力なのではないだろうか。
text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
写真提供:静岡市立富士高校/NPO法人富士スポーツクラブ






