フィギュアスケート・三原舞依が届け続ける“髪”と“感謝”。ヘアドネーションに込める想い

フィギュアスケート・三原舞依が届け続ける“髪”と“感謝”。ヘアドネーションに込める想い
2025.12.17.WED 公開

フィギュアスケート界で長く愛され続ける三原舞依選手。その柔らかな笑顔の奥には、競技者としてだけでなく、一人の人間として“誰かの力になりたい”という静かな意志がある。彼女が長年続けているヘアドネーションは、華やかなリンクとは対照的に、ひっそりと、しかし確かな優しい想いが込められている。

小さな力でも届けたい。35cmに託した三原選手の想い

今年5月、ヘアドネーションのためロングヘアからボブヘアに

フィギュアスケーター・三原舞依選手が、競技生活と並行して長年続けている活動がある。それが、医療用ウィッグの原料となる髪を寄付する“ヘアドネーション”だ。彼女が初めてこの活動を知ったのは、小学生の頃。実家が美容院で、ドネーション用に髪を切りに来たお客さんを見たときだったという。

「“こんな素敵な活動があるんだ”って衝撃でした。小さい力でも誰かの役に立てるならいつかやってみたい、とその頃からずっと思っていました」
幼い頃から母にさまざまなヘアアレンジをしてもらい、髪の扱いやケアの大切さを自然と学んできた三原さん。髪の毛には“誰かを笑顔にできる力がある”と感じていた。

初めてドネーションに挑戦したのは2018年。医療用ウィッグは一般的に31cm以上の長さが必要とされるが、せっかく寄付するなら、使う方がより自然に見えるようにという思いから、彼女は35cm以上を目標に伸ばすことを決めた。以来、「髪にハサミを入れるとき=ドネーションのとき」というサイクルができ、今年の夏で5回目の寄付を達成した。

「ボブで練習していると、チームの方が“ドネーションしたんだね”って声をかけてくれたり、“新鮮!”って言ってもらえたり。そんな反応も嬉しいです」

現在の髪もすでに結べるほどに伸び、6回目に向けて丁寧にケアを続けている。フィギュアスケーターとして髪を伸ばすことは、競技の負担にならないのだろうか。

「私、髪が伸びるのが早くて、1年半〜2年で目標の長さになります。長くなると乾かすのが大変なときもありますが、少しでも良い状態で届けたいという気持ちがとても強いですね。最近は無意識のうちにポーチからコームを出して髪を梳いているくらい、ケアが習慣になっています」と笑う。

誰かの笑顔の源になりたい

良い状態の髪を寄付するため、カラーやパーマなど髪に負担のかかることは避けているそう

日本では毎年約2500人の子どもが小児がんと診断され、事故や脱毛症を含め、医療用ウィッグを必要とする子どもは決して少なくない。さらに、ウィッグ1つを作るには30〜50人分の髪の毛が必要だと言われている。

「私1人だけではウィッグを作れません。でも、ヘアドネーションが広がれば、待っている方々へ届けられる数も増えるはず。その思いもありSNS(※所属チーム公式インスタグラム)でも発信を続けています」

その発信をきっかけに、ファンや友人から「私も寄付しました」と知らせが届くこともあるという。

「私自身、つらい時や悩んでいる時に、応援してくださる皆さんからの言葉に本当に救われてきました。恩返しというわけではないけれど、私なりの形で感謝を伝えたい。誰かの笑顔や元気につながるなら嬉しいですし、これからもできる限り続けたいと思っています」

氷上で届ける“感謝”の表現

年末には11度目の全日本フィギュアスケート選手権が控える三原選手。所属先のシスメックスが今年6月に新設したスケートリンクで練習を重ねる中で、日々、感謝や喜びで満たされていると語る。

「滑りながら今までの様々な想いを巡らせたり、26歳までスケートを続けられている喜びを噛み締めたり、リンクの周りの木々を眺めて季節の移り変わりを楽しんだり。今シーズンは幸せを感じる瞬間がたくさんあったのでスケートで表現したいです」

ショートプログラムは『戦場のメリークリスマス』、フリースケーティングは『ジュピター』を使用する予定。どちらのプログラムにも、支えてくれた人々への感謝が込められている。

「全日本は私にとってとても特別な場所。感動してもらえる演技をしたいですし、ステップシークエンスは特に注目していただきたいです。私はステップが大好きなので、表情も含めて楽しんでいただけたら嬉しいです」

髪に託す優しさと、氷上で輝く感謝の想い。三原舞依の表現は、競技の枠を越え、人と人をつなぐ温かな力を持っている。

text by Uiko Kurihara(Parasapo Lab)
画像提供/三原舞依(シスメックス)

『フィギュアスケート・三原舞依が届け続ける“髪”と“感謝”。ヘアドネーションに込める想い』

フィギュアスケート・三原舞依が届け続ける“髪”と“感謝”。ヘアドネーションに込める想い