【インクルーシブな運動会】府中市の小学校が2年連続、車いすリレー! どうやって実践したのか、現場の先生からの声も

2025.10.24.FRI 公開

近年、学校教育を巡って話題に上がる機会が増えている「インクルーシブ教育」。そんな中、学校の運動会に誰もが楽しめるインクルーシブな種目を行う事例が出てきています。

今回紹介するのは、府中市立府中第十小学校の運動会です。2024年10月、府中市教育委員会と学校が連携し、子どもたちの福祉の学びをより深めようと、運動会で日本財団パラスポーツサポートセンター(パラサポ)が提案する「パラサポ!インクルーシブ運動会」の種目・車いすリレーを実施しました。その様子を見ていた当時5年生、今年の6年生の子どもたちからの希望を受け、2025年10月の2年連続での開催につながりました。

「パラサポ!インクルーシブ運動会」とは

日本財団パラスポーツサポートセンター(パラサポ)が運営する、学校の運動会にインクルーシブな種目を取り入れるプログラム。障がいのある子もない子も一緒に取り組める運動会種目を、子どもたちが練習し本番で披露するプロセスを通して、誰もが参加でき楽しめる場をつくる意味を、子どもたち自身が学び気づいていくことをねらいとしています。

<運動会の様子と先生方の声を動画で!>

府中市教育委員会と学校の連携がポイント

東京都府中市では、2024年10月、市内の複数の小学校の秋季運動会で「パラサポ!インクルーシブ運動会」のインクルーシブな種目が実施されました。
きっかけは、パラサポから校庭でも体育館でも走れる車いす「パラサポ!ミライ」の寄贈を受けた府中市教育委員会から学校への提案でした。

<府中市教育委員会指導主事の中尾友昭さん>
「府中市立小中学校では、学習指導要領に基づき、障がい理解教育、いわゆる共生社会の実現に向け、福祉の学習などで年間指導計画に位置づけて取り組んでいます。
また全国的に特別支援学級の児童・生徒数が増加傾向にあることもあって、運動会にインクルーシブな種目を取り入れるというパラサポからの提案を良い機会と捉え、学校への周知を図りました。

私たち教育委員会としては、この取り組みをイベントだけで終わらせず、しっかり教育効果に結び付けてほしいという思いがありました。実際に秋の運動会での実施にあたっては、障がい理解教育を総合的な学習の時間等で位置付けて計画的に行っている学校に、教育委員会から投げかけをしました。

府中第十小学校は、総合的な学習の時間で、福祉の学習を1学期から2学期にかけて実践する年間学習計画を組んでいた学校でした。その計画の中にインクルーシブ運動会を位置づければ、より効果的に障がい理解教育、共生社会の実現に向けた子どもたちの学びが深まるだろうと考えました」

福祉の学習とつながる車いすリレー、保護者からの声援も

府中第十小学校は、4年生の総合的な学習の時間で福祉や共生社会について学ぶ年間指導計画となっています。教育委員会からの提案を受けた草刈あずさ校長は、「福祉に関する取り組みもしているので、ちょうど学習のいい機会」と、パラサポ!インクルーシブ運動会を実施することを決定しました。

<草刈あずさ校長>
「インクルーシブという言葉は、色々なところで使われていますけれども、なかなか保護者に発信する機会というのがありませんでした。
学校だよりなどでも、地域にも、インクルーシブ運動会に取り組みますということでご紹介させていただきました。そうしたところ、『(運動会に参加できず)インクルーシブ種目を見れなくて残念です。そこだけ見に行きたいです』というお声もいただきました。運動会は多くの方に知っていただく機会だと思いますので、ただ授業でやるよりも、とても多くの方に知っていただく貴重な機会となりました」

車いすリレーは、2024年9月にパラサポから府中市へ贈呈された車いす「パラサポ!ミライ」を活用。この車いすは、校庭でも体育館でも利用できるよう、パラサポが新たに開発したスポーツ・アクティビティ用車いすです。

バトン代わりに車いすを乗り継いでいきます

児童にとって、車いすリレーは、共生社会や障がいについて考える機会にもなりました。初めて乗る車いすを、どんなふうにこげば速くなるのか、練習を通して互いに教え合い、チームで協力しながら1位を目指す中で、こんな感想を寄せてくれた児童がいました。

「障がいのある方と障がいのない方って、どうしても壁がある感じがあるじゃないですか。(でも、車いすリレーでは)そういうのがないような感じがして、(障がいのある方とも)楽しめるといいなって思いました」

本番では、真剣にリレーに取り組む6年生の姿に、他学年の児童たち、保護者や地域の方から、大きな声援が送られました。

「車いすで暮らしている人とも競技が一緒にできることを知りました」との児童の声も

インクルーシブ運動会を振り返ってー先生方の声ー

これまで経験した福祉や共生社会についての学びと、運動会のインクルーシブ種目が作用しあって、子どもたちの深い学びにつながった府中第十小学校。その様子を見てきた先生はこんな声を寄せてくださいました。

<6年生担任(2024年度)>
「苦手な子とかそういう子がいたとしても、みんなで協力して工夫すればきっとそれを乗り越えられるんじゃないかという思いが、子どもによって芽生えてきたんじゃないかっていうふうに思っています。一人ひとりがこれから先大きくなったときに、何か同じような壁にぶつかったときに、そういう考え方で乗り越えていってほしいなって考えています」

運動会での子どもたちの姿を振り返って、「パラサポ!インクルーシブ運動会」の担当ディレクターの山本恵理さんはこう語ります。

<山本恵理さん>
「まさしく運動会は子どものためだけにあるのではなく、地域の人のためにもあるということを感じさせていただいたのが、府中第十小学校だったと思います。

見ている人たちが『あれ何!どんな競技?』と話しかけてくださったり、観覧にいらした親御さんの中に学校の先生をされている方がいらっしゃって、『うちの学校にも取り入れたい』とお声掛けいただきました。パラサポ!インクルーシブ運動会がひとつの学校だけではなく、これから地域に、そして社会に広がっていく一端を見せていただきました。

それまでは車いすの人を見たら壁を感じてしまい、『話しかけちゃいけないのかも』『興味があるんだけどどうやって話しかけていいかわからない』というのが学校の外での出来事だったのではないかと思いますが、このパラサポ!インクルーシブ運動会の練習を通じて、かなり距離が縮まったのではないかという印象がありました」

そして、2024年秋の実施から1年後。2025年10月4日に府中第十小学校で開催された運動会で、再び車いすリレーが行われました。

写真提供:府中市立府中第十小学校

2025年度も、車いすリレーは6年生の種目として行われました。4クラス対抗で、昨年よりも長い距離を走ることに。練習の成果を発揮し、スムーズに車いすの乗り降りができるよう工夫しながら懸命に走る児童に、今年も多くの方が声援を送りました。

6年生は、前の年の運動会では5年生として、先輩が取り組む車いすリレーの様子を見ていた学年です。そんな児童たちからの声が、2年連続で車いすリレーを行うきっかけになったそうです。

<6年生担任(2025年度)>
「昨年度に引き続き、子どもたちから「やりたい」という声が上がったのと、去年の6年生が楽しそうにやっている姿を子どもたちが見ていたので、今年もやろうということになりました。
子どもたちが自ら、車いすにこうした方が乗りやすいとか、ああしたらいいんじゃないかというところを話していたので、あ、そういったところに気づける点もいいんだなという風に感じました」

<草刈あずさ校長(2025年度)>
「2年継続して取り組んでいる理由は、子どもたちに大変好評だったこと、車いすリレーが子どもたちに親しみやすく、リレーというのがとても運動会に向いた競技であるということです。

4年生で福祉について学習をしますが、6年生で最後、全校の前で(車いすリレーとして)取組を披露するということが、6年間の学習の集大成として価値があると考えております。また、共生社会という面では、これから例えば車いすユーザーの方と出会ったときに、その気持ちを知ったりまた自分の身近に感じて、関わりができるというところも重要だと思っています。

今年の5年生は、おそらく来年自分たちも車いすリレーをやるんだろうと思って今日の取組をみていたと思います。できるだけ継続していけたらと思っています」

福祉や共生社会の学びと結びつく、運動会でのインクルーシブな種目。府中第十小学校で、新しい伝統になっていくのかもしれません。

「パラサポ!インクルーシブ運動会」について詳しく知りたい方はこちら
https://www.parasapo.tokyo/inclusive_undokai/

text by TEAM P
photo by 府中市立府中第十小学校, The Nippon Foundation Para Sports Support Center

『【インクルーシブな運動会】府中市の小学校が2年連続、車いすリレー! どうやって実践したのか、現場の先生からの声も』