「重圧が原因ではない」。予選敗退の卓球・岩渕幸洋が見せたリオ後の成長

2021.08.27.FRI 公開

涙こそこぼれなかったが、血の気が失せ、うなだれきった表情が失望を表していた。東京2020パラリンピック第2日目の卓球男子シングルス(立位クラス9)、1次リーグ1勝2敗で岩渕幸洋のパラリンピック敗退が決まった。

日本代表選手団の旗手として期待された2度目の大舞台

開会式で旗手を務め、目標は「金メダル以上」と公言していた26歳。5年前のリオ大会で、緊張で自滅し1ゲームも奪えず敗退した悔しさを脳裏に刻んできた。2017年に早稲田大を卒業後は、名門実業団・協和キリンに籍を置き、雪辱のための力を蓄え続けた。

その証が、2018年のアジアパラ競技大会の銀メダルと世界選手権の銅メダルだ。世界ランキングは一時期2位まで上昇、東京パラリンピック直前には5位と上位をキープしている。

大会初日は、分が悪いアシュリー・フェイシー トンプソン(イギリス)を相手に際どい試合を制した。最終ゲーム10—10から2連続得点で悲願の1勝を引き寄せ、「やはりパラリンピックの舞台で勝つのは難しい。ここで勝てたことを自信にして一戦一戦頑張っていきたい」と笑顔を見せた。

ところが翌日、本来の攻撃的なプレーから遠ざかった。午前9時にスタートした世界4位のレフ・カツ(ウクライナ)との対戦では、1ゲーム10-7とゲームポイントを取りながら、先制されたことを引きずり、ゲームカウント1-3で敗戦した。

男子シングルスの1次リーグを戦った岩渕

監督とともに作戦を立てるも……

この後、岩渕は選手村に帰り、夜、対戦するユーリー・ノズドルノフ(RPC)のプレーを日本代表特命監督・伊藤誠氏と入念にチェックした。伊藤監督は「相手のドライブが甘くなってきたところを叩く作戦を立て」、直前には場面を想定した練習。ところが、計算通りには運ばなかった。

1、2ゲームは、卓球台にのしかかるようにそびえる長身の相手に至近距離から打ちこまれる。それでも3、4ゲームは11-9、12-10としぶとく粘り、最終ゲーム、流れは傾いたように見えた。ところが3-1から5連続得点などを許し4-10にされると、その後は8-10にするのが精いっぱいだった。

試合を振り返り、「粘る前にできることがあったんじゃないかな」と声を振り絞った岩渕。また、伊藤コーチは、「(敗戦は)戦術というより、ラケットを振り切れなかったことが原因」とし、「刀と刀のぶちかりあいで、どちらの振りが速いかという勝負だった。相手のほうがよりラケットを振り切っていた。勝たせてあげられなくて申し訳ない」と声を詰まらせた。

厳しい結果だが、岩渕にとっての好材料は、今回の敗戦が「重圧が原因ではない」と明言できていることだろう。「応援されることはむしろうれしかったし、決して重圧とはとらえていません」ときっぱりという。

こんな言葉からは、岩渕の礼儀正しい人柄も伝わる。伊藤監督が、涙をこらえきれなかったのも、「彼は本当にいいやつなんです」という思いがあるからだ。

だから、伊藤監督は期待することをやめない。「パリに向けてきちんと準備できれば、必ずメダル、彼が目指すところの金も獲れる」。

岩渕もまた「まだまだ足りないことがたくさんあるということ。できることを少しでも増やしたい」と思いを口し、3年後のパリへ向かう姿勢を示していた。

edited by TEAM A
text by Yoshimi Suzuki
photo by AFLO SPORT

『「重圧が原因ではない」。予選敗退の卓球・岩渕幸洋が見せたリオ後の成長』