地方創生の起爆剤、スポーツツーリズム。約30億円の経済効果を生み出した成功の秘訣とは

2023.04.17.MON 公開

2015年に創設されたスポーツ庁は、「スポーツ振興」だけでなくスポーツツーリズムなど、「スポーツによる地域振興」を進めてきた。自然環境を活かしたスポーツイベントのほか、近年では都市部でもできるアーバンスポーツも人気となっている。中には1回のイベントで30億円を超える経済効果をもたらすこともあるそうだ。そこで、大阪体育大学学長であり、一般社団法人日本スポーツツーリズム推進機構会長も務める原田宗彦氏にスポーツによる地域振興の課題と可能性についてお話を伺った。
※写真は、「2022ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム」スタート前

地域振興のキーワードとなるスポーツツーリズムとは?

「2022ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム」のゴールシーン。世界中から参加者、観戦客が訪れた。©︎Yuzuru SUNADA

原田宗彦氏は、著書『スポーツ地域マネジメント』の中でスポーツの持つ可能性について次のように語っている。

≪現代のスポーツには「稼ぐ力」が内包されており、この力を活用することによって、税金に頼らず、公民連携の仕組みを使い、創造的な方法でスポーツによる地方創生を行うことが可能となる≫

たとえば、埼玉県さいたま市で行われた、「ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム」は、その名の通り、世界最高峰のサイクルロードレース「ツール・ド・フランス」の名を冠した世界初の大会。2017年の経済効果はなんと約30.9億円。また、恵まれた自然環境を生かしてスポーツ合宿の誘致を行った北海道網走市の2017年の経済効果は約6.4億円と、いずれも大きな成果をあげている。

「スポーツによるまちづくりは、健康的だし、盛り上がれば若い人が移住してきて地域の活性化にも繋がりますし、大きなイベントをやれば宿泊施設や飲食店、タクシーやバスなどの交通関係も潤うことになります。人が動けば、それだけお金が動きますから、大きな魅力ですよね」(原田氏、以下同)

スポーツによるまちづくりをすれば、スポーツイベントへの参加や観戦を目的としてその土地に行ったり、スキーや山登りなど地域の資源とスポーツが融合した観光を楽しんだりする人が増える。こうしたスポーツを活用した「ツーリズム」のスタイルを「スポーツツーリズム」と言い、これが地域活性化のキーワードとなるというわけだ。

アーバンスポーツで若い世代を集客

©Shutterstock

先に紹介した埼玉県や北海道の例は、いずれも地域の豊かな自然を利用したスポーツによる地域振興。ではスポーツイベントの目玉となる豊かな自然環境や観光資源がない場合は「スポーツツーリズム」は実現できないのだろうか?

「特別な観光資源はないけれど、自然はあるという土地だったらアウトドアスポーツツーリズムのツアーができます。そうした環境がなくても、たとえば武家社会が発展した町で武道が盛んだったという地域であれば武道ツーリズムといった方法もある。東京マラソンのような都市部のマラソン大会だって、公道を使用してやるわけですから、どんな場所でもスポーツツーリズムは可能です。プレイスハッキングという言葉があるんですが、東京2020オリンピックで火が付いたスケートボードのようなアーバンスポーツだったら、時間と場所を決めて都会のど真ん中をハッキングしてイベントを行うといったことも実際に行われています」

都心のビルなどの構造物を利用した、アーバンスポーツのひとつパルクール ©Shutterstock

アーバンスポーツとは英語の「urban=都市の・都会の」という意味の通り、広いスタジアムや競技場を必要とせず、街中で楽しむスポーツのこと。代表的なのはスケートボードのほか、自転車競技の1つであるBMX、街中を走ったり跳んだり登ったりして、芸術的かつ機能的に移動するパルクールなど。こうしたスポーツはファッションとも結びつき、若い世代を集客するのに向いている。それで多くの人の集客に成功したのが茨城県笠間市にある「ムラサキパークかさま」だ。

公民一体で成功した「ムラサキパークかさま」の事例

ムラサキパークかさまの国内最大級4600平方メートルのスケート広場

「ムラサキパークかさま」は、2021年4月、茨城県笠間市内にある県立都市公園「笠間芸術の森公園」内に誕生した国内最大級のスケートパークだ。笠間市では、すでにあった公園の活用について検討した際、若年層や広域からの誘客を考慮し、東京2020オリンピックの正式種目ともなったスケートボードが楽しめるスケートパークを作ることを決定。その際、公の力だけでは施設を維持し続けることが困難だと判断し、スポーツ用品やカジュアルウェアの販売会社ムラサキスポーツと連携して、公民が協力した施設を建設することとなった。

設計段階から指定管理者の候補者としてムラサキスポーツを決定し、ムラサキスポーツの社員であり、スケートボード初代日本代表監督でもある西川隆氏が設計協力したスケートパークは、コンクリートパークとしては国内最大級の4600平方メートルのスケート広場を擁し、日本スケートボード選手権などの大きな大会が開催される他、東京2020オリンピックの際にはフランス代表チームが事前キャンプを行ったりした。

上級者が楽しめる本格的なパークである一方、初心者でも楽しめるエリアもあり、スクールも開催。敷地内にはムラサキスポーツのショップや休憩場、シャワー、屋上デッキ、近隣には人気のベーカリーもあるので、スケートボードのプレイヤーだけでなく、家族連れやデートをするカップルなども楽しめる。笠間市の人口は約7万人だが、来場者はオープンから約半年で1万人を超えた。

施設の運営はムラサキスポーツが行っているが、笠間市のホームページには「ムラサキパークかさま」の最新情報などを発信するページがある。このように公民が協力して持続可能なまちづくりをしているのが成功の大きな理由となっているのではないだろうか。

成功の秘訣は「誰がやるのか」ということ

オンライン取材を受けてくれた一般社団法人日本スポーツツーリズム推進機構会長の原田宗彦氏

「ムラサキパークかさま」の他にも、岩手県紫波町の日本初のバレーボール専用体育館「オガールベース」や、福岡県飯塚市の「飯塚国際車いすテニス大会」など、日本全国でスポーツによる地域振興が行われ成功している。これらの成功の理由はどこにあるのだろうか?

「やっぱり、誰がやるのかということですよね。現在、私が会長を務める日本スポーツツーリズム推進機構では、日本全国に地域スポーツコミッションを作っています。現時点(2023年3月)で170以上のコミッションがありますが、それぞれの地域がその土地土地に合ったオリジナルコンテンツでスポーツツーリズムを考え、その仕組みを作ることが重要です」

地域スポーツコミッションとは地方公共団体、スポーツ団体、民間企業等が一体となり、スポーツによるまちづくり・地域活性化を推進していく組織のこと。時限つきの組織ではなく常設のため、長期にわたってその土地のためになることを考え、スポーツと地域資源を掛け合せたまちづくり・地域活性化のための持続可能な活動をしている。実際、「ムラサキパークかさま」のある笠間市でもパークのオープンと同時期に、スポーツコミッションを設立し、パークの有効活用に成功している。

スポーツツーリズムを地域で推進していく原動力、地域スポーツコミッションの役割(一般社団法人日本スポーツツーリズム推進機構公式サイトより)

「先程言った『誰がやるか』というのは、その主体が誰になるかということですが、(重要なのは)やはり地域のスポーツコミッションでしょう。たとえば、さいたまスポーツコミッションはスタッフが20人ほどですが、スポーツイベントや合宿などで年間65億円以上の経済効果を生み出しています。彼らは最初からイベントに関する特別なスキルやノウハウを持っていたわけではありませんが、とにかくスポーツイベントの誘致などに熱心なんです。コミッションは一般社団法人ですが、理事長は元さいたま市の副市長なので地元への思いも強い。とてもうまくいっているケースです」

多くの自治体からスポーツコミッションの立ち上げや運営について相談を受けてきた原田氏によると、イベント開催などを外部のコンサルに丸投げするのではなく、まずは地元にスポーツコミッションを作り、目的を明確にした組織作りをしてから取り組むことが重要だと言う。

「組織の構成は若手がいると活発になりますが、年齢は関係ありません。それよりも大切なのはやる気と知識と決断力です。少子高齢化が進み、どんな自治体だってこれから先は決して安泰ではありません。人口が減る中、どうやってブレイクスルーするのかを、危機感を持って真剣に考えられるのは、やっぱり地元の人たちですから」

残念ながら人口を突然増やすことはできない。しかし交流人口や関係人口を増やすことはできる。スポーツツーリズムはそれを実現できる、注目のキーワードとなりそうだ。


最後に原田氏にスポーツがなぜ人を集めるコンテンツになるのか、その魅力について聞いてみた。

「スポーツを楽しむのに言語も宗教もイデオロギーも関係ないですし、専門的な知識がなくても、ルールがよく分からなくても、勝った負けた、綺麗だといったことで誰もが楽しめる、とても民主的なコンテンツですよね。その魅力をうまく活用すれば、日本だけでなく世界中から人を呼ぶことができると思います」

百聞は一見にしかず。ネットで「スポーツ/全国/イベント」などのキーワードで検索をすると、日本全国のさまざまなスポーツイベントやスポーツ体験の情報が表示される。これからは、食や観光名所めぐりだけでなく「スポーツ」を目的に旅行を楽しむ時代がくるかもしれない。

PROFILE 原田宗彦
一般社団法人日本スポーツツーリズム推進機構会長/大阪体育大学学長
ペンシルバニア州立大学健康・体育・レクリエーション学部博士課程修了(Ph.D.)。鹿屋体育大学助手、フルブライト上級研究員(テキサスA&M大学)、早稲田大学スポーツ科学学術院教授などを経て、現職に就任。その他、スポーツ庁「スポーツによる地域活性化・まちづくりコンテンツ創出等総合推進事業」座長など要職を兼任している。

一般社団法人日本スポーツツーリズム推進機構HP
https://sporttourism.or.jp/

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
photo by 一般社団法人さいたまスポーツコミッション/茨城県笠間市, Shutterstock

『地方創生の起爆剤、スポーツツーリズム。約30億円の経済効果を生み出した成功の秘訣とは』