小笠原諸島、青ヶ島でも開催!Jリーグ・FC東京のサッカー教室「離島も都心も、同じホームタウン」

2025.09.26.FRI 公開

日本の首都・東京をホームタウンにするJリーグのFC東京。地域密着を掲げるサッカークラブとして、地元の子どもたちへのサッカー教室を行っているが、その範囲は都市部だけでなく、離島にも及んでいる。中には都心から1,000km離れた場所や、時化(しけ)で船の就航率が5割ほどになるという、まるでRPGの世界のような秘境も含まれている。FC東京が毎年離島にコーチを派遣し続けるのは一体なぜなのか。担当するFC東京・普及部の中村淳部長に伺った。

都心から船で半日以上?信号が1つもない絶海の孤島へ

夕焼けに照らされる式根島

「三宅島、式根島、新島、小笠原諸島の父島、母島でここ10年くらい毎年教室を開催しています。その他にも大島や八丈島、青ヶ島などの離島でも不定期ではありますが、実施しています。最も遠い小笠原諸島は片道1,000kmもあり、船でしか行けないので、行くのに丸1日かかりますね」

中村さんのいる普及部は、サッカー教室の開催や大会の実施などを通して、ボールを蹴る楽しさを伝え、地域とのつながりを深める役割を担っている。中村さん自身も長年コーチとして離島教室に参加してきた。

「今はマネージメントをしているので現地には行っていませんが、以前はよく伺っていました。私は23区の出身なので、離島に行くと驚くことが多くあり、『ここも東京都なのか、東京って広いな』と何度も思わされました。訪れた中で一番驚いたのは、10年ほど前に行った青ヶ島村ですね。私は羽田空港から八丈島まで飛行機で行き、そこからヘリコプターに乗り換えて向かいました。この方法であれば2時間ほどで行けますが、船で行けば乗船時間だけで半日以上かかります。しかも青ヶ島は波の影響を受けやすいためにフェリーの着岸が難しく、就航率は5割ほどというところなんです。ヘリコプターも両手で収まるくらいの人しか乗ることができず、前々からの予約が必要でした。上陸するのが本当に難しかったですが、島の方と調整しながら開催することができました」

青ヶ島は、大きい火口の中に火山が重なってできる二重カルデラという珍しい地形が見られる場所として知られる。アクセスの悪さと絶景が楽しめる秘境感があいまってSNSなどでも人気だ。また、2025年現在の人口は約160人。日本で一番人口の少ない村でもある。

「学校のグラウンドで教室を開きましたが、驚いたのは島内の信号機が小学校の前にある一機だけってことです。しかも、この信号機も交通上必要というわけではなく、子どもが島外に出た時に信号機が分からないとまずいからという理由で設置されていると聞きました」

中村さんは島内の子どもや大人を対象にサッカー教室を開催し、夜には島民の方々と一緒に名産品を味わい、さえぎるもののない満天の星空を見上げたという。

コロナ禍でも途絶えなかったサッカー教室

式根島で開かれたFC東京のサッカー教室。奥には岩肌が見え、生活の中でむき出しの自然を感じられる

離島でのサッカー教室はFC東京創立当初の1999年から行っている。

チームのコーチ2人がフェリーや飛行機などを使って訪問。未就学児や小学生、中高生など経験の有無に関わらず幅広い子どもたちにサッカーを教えているという。

「子どもたちはもちろん、大人の方々にも教室を開いています。参加人数は島によって変わりますが、去年で言えば、父島で低学年30人、高学年は16人、中学生と大人が20人くらい。母島は全体で20人くらいでした。場所はスポーツ施設があればそちらを利用させてもらったり、学校のグラウンドを使わせてもらったりして行います」

サッカー教室の時間はおおよそ1時間~1時間半。ボールを蹴ったり、試合をしたり、経験や年齢に応じて内容は変わるが、根底にあるのは「サッカーを楽しんでもらう」という考え方だと中村さんは話す。

教室は、コロナ禍で往来が困難になった2020年、2021年こそ開催できなかったが、2022年には島側から「こういう時だからこそ続けてほしい」という依頼があり、実施が決まった。コーチは船に乗船するまで何度も検査をし、陰性を確認する万全の体制で臨んだという。

中村さんは「皆さんから全ての感想を聞いているわけではないですが、毎年『今年も』とお願いしていただいていることを考えると、ニーズにお応えできているのかなと思っています」と話す。毎年参加者からは「楽しかった」という声が多いそうだ。

離島の子もクラブを近くに感じてほしい

府中市で行われたFC東京のサッカー教室。都会のなか、整備された環境でサッカーを楽しめる

もちろん、FC東京は公民連携制度「S-SAP(シブヤ・ソーシャル・アクション・パートナー)協定」を結んでいる渋谷区など都心でもサッカー教室を開催している。都心から離島まで、様々な環境の子どもたちとの関わりに取り組んでいるクラブだ。

「都心に住む子どもたちは色々なサッカー教室やサッカークラブなど、サッカーをするのにも無限の選択肢があります。それは都心の良さです。一方で、離島の子どもたちはそうした選択肢はないことに不便さがあるかもしれませんが、家の横ですぐにボールを思いっきり蹴られるような環境があります。これは都心ではなかなか難しく、ボールを蹴るためにサッカー教室に入るという子もいるでしょう。どちらがいいというわけではなく、どちらもそれぞれの特徴です」(中村氏)

ただ、離島では、プロクラブのサッカーに触れる機会はどうしても少なくなる。FC東京の教室はそのための補完の役割を果たしているようだ。

「それぞれの島に行けるのは年に1回ですし、その1回は正直微力だと思います。それでも島の皆さんのサッカー、スポーツに触れる機会に繋がってくれていればうれしいです。距離的に離れていても同じFC東京のホームタウン、東京都です。サッカー教室に参加してくれた子どもが大人になり、上京した時に『以前参加しました』と言ってくれたことがありました。その時はFC東京を身近に感じてくれているのだと本当にうれしかったです。これからも離島地域の都民からも身近なクラブであり続けたいです」と語った。

島と島、島と本州を結ぶ役割も

青ヶ島から見渡せる太平洋。どこまでも見渡す限り海と空が広がる

FC東京はこうした教室の活動以外にも離島との接点を強化している。

そのひとつが、離島地域の子どもたちを集めて行うフットサル大会や島の自慢を発表しあう「島じまん大会」など、様々なイベントが企画されている「愛らんどリーグ」への協力だ。

参加するのは、大島町・利島村・新島村(新島・式根島)・神津島村・三宅村・御蔵島村・八丈町・青ヶ島村・小笠原村(父島・母島)の11の島々の子どもたち。

開催地は基本的に島々の持ち回りで行われ、一か所に11の島々の子どもたちが一堂に集まる。この企画は離島間の交流にもつながっていると中村さんは話す。

「島の方々から伺いましたが、東京の離島は2つの航路に分かれているそうなんです。航路が同じ島々は交流があるそうですが、別の航路になってしまうとなかなか交流することはないそうなんです。そうした島々の交流にもつながっていて、子どもだけでなく、大人も楽しんでくださっているようです」

他にも2024年のホームゲームでは、離島地域のPRブース「東京愛らんど」が出店。地元の名産品が並び、来場者の関心を集めたそうだ。
また今年から、子どもたちの「体力」「スポーツに親しむ機会の向上」に焦点を当てた小学校の体育教材「あおあかドリル」をすべての島の小学校1年生に無償で配布を開始している。これも少しでも体験格差の是正に繋がればという取り組みだ。


同じ都道府県の中でも体験格差は存在する。日本の首都機能が集積している場所もあれば、本州から何百kmも離れた離島があるという東京都のケースはまさにそうだろう。その全市区町村をホームとし、全ての子どもがサッカーに触れられるようにしようという活動は格差をなくすという意味で非常に重要だ。子どもたちが自分の生まれた環境で夢を諦めないような活動を応援したい。

text by Taro Nashida(Parasapo Lab)
写真:FC東京

『小笠原諸島、青ヶ島でも開催!Jリーグ・FC東京のサッカー教室「離島も都心も、同じホームタウン」』