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Sports /競技を知る
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言葉よりも滑りで伝えるメッセージ。パラアルペンスキー・森井大輝はメダル逃すも前を向く

悲願の金メダルや6大会連続の表彰台には届かなかった。悔しい結果に終わるレースがいくつも続いた。しかし、最後は納得のいく滑りができたと胸を張ることができた。
ミラノ・コルティナ2026パラリンピック冬季競技大会。パラアルペンスキーの森井大輝は、現地3月15日に行われた最終種目の男子回転(座位)で4位になり、自身の全レースを終えた。
視界不良でも攻め続けた
初戦の滑降は途中棄権。スーパー大回転は11位。アルペン複合は5位。大回転は7位。そしてラストの回転は4位。これまで通算で7個のパラリンピックメダルを持つレジェンドにとってよろこばしい結果ではない。
それでも森井は、さばさばとした口調の中に安堵感を漂わせながらこう言った。
「最後の最後、多少なりともまともなレースができたと思うので、よかったです」
男子回転の2本目、トファーネ・アルペンスキーセンターは濃い霧に包まれ、上位選手のレースは視界不良の中で行われた。誰もが苦労する悪条件。森井は滑走面が見えにくい箇所でジャンプしてしまったことによってラインが膨らみ、緩斜面のつなぎでスピードを落としてしまう。だが、5大会連続でメダルを獲得してきたベテランにとってこれは言い訳にならない。
photo by AFLO SPORT
「そんなのは全部置いておいて、その中で本当に攻めて攻めて滑りきったレースだったので、仕方ないという思いです。たとえば霧で見えないからということで少し抑えてこの順位だったらモヤモヤがあるかもしれません。でも本当に全力を尽くして滑った上での成績。自分の中で納得しています」
見えない状況でも、可能な限りアタックし続ける。それはトップアスリートのプライドだ。結果よりも、全力を尽くしたかどうか。その点で、このレースは胸を張れるものだった。
また最終日に、ミラノ・コルティナ大会で自身最高順位を記録したことは、探究心旺盛で負けず嫌いな森井らしさでもあった。
フレームの性能をもっと引き出したい
今大会、森井が勝負のカギを握るギアとして強く意識していたのが、チェアスキーのフレームだ。所属するトヨタ自動車の開発チームが雪上合宿中の森井の元に足を運び、実際の状況を見ながら改良に改良を重ねてきたもの。「現地現物で本質を見極める」という所属先であるトヨタの理念通り、机上ではなく現場で一緒に考えてきた積み重ねが、操作性や安定性の高いフレームの完成を実現していた。だからこそ、森井はこう語る。
「正直、僕がこのフレームの性能を完全に引き出せなかったと思っています」
photo by REUTERS/AFLO
最高の道具を手にしながら、その力をまだ使い切れていない。森井はそうとらえているのだ。ただ、裏を返せば今大会のレースを通じて感じてきたこの悔しさは、新たな可能性が見えている証拠でもある。
今後について問われると、森井は迷いなく答えた。
「続けたいですね。もうちょっとこのフレームに神経を通わせたい」
やり残したことがある。フレームの性能をもっと引き出したい。チェアスキーの可能性をさらに広げたい。今大会の戦いを経てこの思いは膨らんでいる。
未来のチェアスキーヤーたちのために
そして、もう一つ、滑り続けたい理由がある。森井はこれまでも、言葉で教えるよりも「一緒に滑ることで伝える」ことを大切にしてきた。今は自分が滑り続けることがそのまま次の世代へのメッセージになると考えている。
次世代を担う若手候補が19歳の塚原心太郎だ。中学時代に行ったニュージーランド遠征で森井と初めて会ったという塚原は、「まずは体つきにびっくりしました。そして、なぜあんなに自由にスキーを操作できるのだろうと……見習いたいところばかりでした。自分と障がいの状態も似ているので、体幹の使い方など真似できるところは真似してみようと動画もたくさん見ました。今でも、用具や技術など、わからないことを教えてくれる頼れる先輩です」と語っている。
photo by REUTERS/AFLO
ミラノ・コルティナ大会の出場はかなわなかった塚原も、次こそはという思いがあるはずだ。その若手スキーヤーとも一緒に滑っていければチェアスキー界の未来はますます広がる。
挑戦をやめない限り、森井の未来は次世代の選手たちの未来にも重なっていく。45歳の目は未来を見据えている。
text by TEAM A
key visual by AFLO SPORT