波乱の1年過ごしたアルペンスキー・村岡桃佳、恐怖を乗り越えた「安堵の銀」

波乱の1年過ごしたアルペンスキー・村岡桃佳、恐怖を乗り越えた「安堵の銀」
2026.03.11.WED 公開

思う存分攻めぬいたわけではない。恐怖心と不安。使命感と野心。これからの競技人生。すべてに折り合いをつけて挑んだ先にシルバー色の光があった。

現地3月9日。ミラノ・コルティナ2026パラリンピック冬季競技大会のパラアルペンスキー女子スーパー大回転(座位)で村岡桃佳は銀メダルを獲得した。

「100%を出し切ったかというとそうではなかったので、正直、複雑な気持ちや悔しさの残るレースではありました」

タイムは優勝したスペインの選手より6秒以上遅かった。それ以上に、すべてをぶつけられなかったもどかしさがあった。けれども一息吸うと、潤みかかった目を前に向けて噛みしめるように言った。

「不安な気持ちもありながらスタートに立っていました。でも、まずはこのパラリンピックの舞台に自分が戻って来られたことがすごく嬉しかったです」

スーパー大回転(スーパーG)に出場した村岡桃佳
photo by AFLO SPORT

ギリギリ間に合ったパラの舞台

度重なるアクシデントを乗り越えてたどりついた自身4度目となる冬季パラリンピックの大舞台だった。

昨年4月、パラリンピック本番コースでの練習中に転倒して右ひじを脱臼。懸命なリハビリを経て、どうにか雪上に戻ることができたが、11月には再びイタリアでの練習中に転倒して左鎖骨を骨折した。以降は治療とリハビリが続いたため、雪上練習に復帰できたのは今年2月半ば。ミラノ・コルティナ大会開幕まで、ほとんど時間は残されていなかった。

開幕してからも不安は続いた。今年に入ってから鎖骨以外に腱板の損傷があったことが判明しており、痛みも残っていた。そのため、初戦のパラアルペンスキー女子滑降を苦渋の決断の末に棄権した。

人工コースではなく、岩山の狭間にある自然の地形をそのまま生かしたスーパー大回転のコースは、起伏が多くジャンプも多い難しい設計だ。しかも村岡は、昨年4月にジャンプで転倒し負傷した経緯がある。

難しいコースを滑る村岡桃佳
photo by AFLO SPORT

石井沙織ハイパフォーマンスディレクターも「ジャンプで怪我をしているので、本人の恐怖心、トラウマはかなりありました」と言い、その対処として専門家によるメンタル面のケアも行ってきたと明かす。最終的に出場を決めたのは、レース前日の夕方。石井ハイパフォーマンスディレクターは送り出す際にこう伝えたという。「メダルを目指さなくてもいいから、まずこのコースでフィニッシュすることを一番に考えていこう。(3連覇のかかる)大回転の練習のつもりでいいよ」

100%出し切れなくても笑顔の理由

そして迎えたスーパー大回転。ここでも村岡はスタート直前まで不安が渦巻いていたと吐露している。

「レースは1年ぶりという中で、ましてや一昨日(現地7日)の滑降レースを見て、私はこのコースを滑れるのだろうかと本当に不安な気持ちでインスペクションもしました」

だが、スタート地点に立ったとき、心が澄み切ったのを感じた。
「スタートからの景色を見てまたこれは忘れない景色だろうなと思いました」

レースでは現状に応じたライン取りを心がけた。旗門をなぎ倒す無茶はしない。ジャンプポイントでは慎重にスピードを抑える。攻めすぎず、しかし膨らみすぎない。長年世界のトップで戦ってきた経験が生んだ、リスクとスピードの絶妙なバランスだった。

それでも恐怖心は消えていなかった。

「怖かったです(笑)。このコースで、今シーズン初戦で、ましてや一年ぶりのレース。それでこのコースはちょっと酷いよと思いました(笑)。だからゴールできて本当に安心しました」

雪の上に戻れた喜び

フィニッシュラインを越えた瞬間、安堵感が広がった。
「ゴールできたことの安心感がありました。このコースは何があるかわからないというのが一番だと思うので、本当にゴールが見えてよかったなと心から思いました」

結果は銀メダル。本音を言えば複雑な心境だ。なぜなら全力を出し切ったわけではないという思いがあったからだ。けれども、「難しいコースだからこそ、きちんとゴールをしたらいいことがあるんだなと感じました」。快活な村岡らしく、笑みを交えながらそう振り返った。

冬季パラリンピックでは、自身10個目のメダルとなった
photo by SportsPressJP/AFLO

復帰初戦でつかんだ銀メダルは新しい物語の始まりだ。
「なんだかんだ言ってもやっぱりメダルが獲れたという安心感はあるので、これ以降は本当に楽しいレースができたらいいなと思います」

葛藤を抱えながら恐怖を乗り越え、再びパラリンピックのスタート台に立った冬の女王。村岡の挑戦は、続いていく。

edited by TEAM A
text by Yumiko Yanai
key visual by AFLO SPORT

  • Sports /競技を知る

    パラアルペンスキー

    時速100km超のスピードは迫力満点!

『波乱の1年過ごしたアルペンスキー・村岡桃佳、恐怖を乗り越えた「安堵の銀」』

波乱の1年過ごしたアルペンスキー・村岡桃佳、恐怖を乗り越えた「安堵の銀」