「熱気の波を、僕たちの舞台へ」パラ陸上競技・福永凌太が見たアジア大会開会式

2026.09.24.THU 公開

19日に愛知・名古屋で開幕した32年ぶり3度目のアジア大会。閉幕後には日本初開催のアジアパラ競技大会も開幕する。約1ヵ月後に本番を控える、アジアパラのパラ陸上競技日本代表福永凌太も、大会の先にあるものを思い描きながら開会式を見守っていた。

福永 凌太(ふくなが・りょうた)|パラ陸上競技
滋賀県野洲市出身。10歳で錐体ジストロフィーにより弱視となる。棒高跳び、十種競技を経て2020年からパラ陸上競技に参戦し、パリ2024パラリンピックの400m(T13)で銀メダルを獲得。中京大学の学生・職員時代を愛知県で過ごした。現在はクロストレーニングとして自転車競技(タンデム)にも挑戦している。セレスポ所属。

アジア大会開会式で訪れる、ゆかりの地・愛知

都内から新幹線で名古屋にやってきた福永。アジアパラ前の慌ただしいスケジュールのなか、取材に協力してくれた

9月19日、アジア大会の開会式会場となるパロマ瑞穂スタジアム。ここは陸上競技、およびアジアパラ競技大会で行われるパラ陸上競技の舞台でもある。最寄り駅の待ち合わせ場所に、サングラス姿の福永が現れた。

福永凌太(以下、福永): 今日はよろしくお願いします。開会式って式典ではありますけど、感覚としてはライブに近いものだと思っているんですよね。もともと会場の空間づくりや企画の演出自体に興味があって。3年前に東京へ引っ越してからはあまり行けていませんが、愛知にいた頃は年に数回、たとえばSUPER BEAVERや緑黄色社会などのライブに行きました。あの独特の雰囲気が好きなんです。誘われればアイドルのライブでも何でも行きますよ。だから今日はアスリートとしての視点というよりは、スポーツを盛り上げたい一人として楽しみたいと思っています。

駅からスタジアムまでは徒歩で10分ほどの距離だ。開式の3時間以上前に到着したものの、会場周辺はすでに多くの人で混み合っていた。各国の要人や天皇陛下が出席する影響からか、配置された警察官の数も多い。来場者は指定の迂回路を通って競技場へと足を進める。残暑の蒸し暑さが残るなか、福永もシャツの胸元をパタパタとあおぎながら、スタッフの案内に従って入場口を目指した。

開会式会場のスタジアムに向かう

福永: ボランティアの方々が本当に丁寧に対応してくれましたね。手荷物検査のときもきちんと声をかけて誘導してくれて、日本ならではの良さだなと感じました。最寄り駅から入場口まで、一度も滞ることなくスムーズに進めました。

大学時代から社会人最初の7年間を、愛知で過ごした福永。この地にいた頃の思い出について聞くと、お気に入りの場所や食の話を楽しそうに振り返ってくれた。

福永: 愛知で一番好きなスポットは豊田市美術館ですね。展示作品はもちろん、広々とした空間の使い方がすごく好きで。大きな部屋にポツンと作品が置いてあって、「どんな思いで配置したんだろう」と想像しながら観るのが楽しいんです。それと、赤味噌も愛知に来て好きになりました。自炊するときは万能のみそだれでお肉に味付けをしたりして。東京に住む今でも、遠征で羽田空港に行くときは味噌カツのお店に行くくらい甘い味噌だれは大好きです。ただ、お味噌汁だけは関西の出汁の方が落ち着きますけどね(笑)

入場口へ向かう道中、撮影スポットに立ち寄りスマホでパチリ

混雑した入場へのルートをとくに困る様子もなく歩いていた福永。弱視である福永は、なぜ人混みのなかをすたすた歩けるのだろうか。例えば駅などで迷ったときはどう対応しているのか。ふとした疑問が浮かんだ。

福永: 見えやすさは体調や天気にも左右されるんですよね。雨や曇りだったり、逆に眩しすぎたりと状況で変わるので一概には言えないのですが……。疲れのない普段の状態で明るい日中であれば、人が行き交う横断歩道もぶつからずに渡れます。歩いているくらいのスピードなら、とくに問題はありませんよ。ちなみに駅の出口などで迷ったときは、とにかく歩き回って自力で場所を探します。誰かに聞けば早いんでしょうけどね(笑)。でも、今回みたいなイベントやライブの帰りは楽ですよ。駅に向かう人の波に流されてついていけば、そのまま辿り着けますから。

そしてスタジアム内へ。2026年4月に今大会に向けてリニューアルされたスタジアムは、フィールドが近い1階席と、傾斜があって全体を見渡しやすい2階席で構成されている。今回は全体を俯瞰できる2階席のチケットを手配した。

福永: 陸上競技場って、選手と客席の距離がこんなに離れているんですね。実際に客席に座ってみると、自然と視線が下にあるトラックに向かうんだなと、改めて実感しました。

「色の差があることで、一段ずつがわかりやすく下りやすい」と福永

――一観客として過ごすなかで気になる、スタジアムのバリアフリー設備。福永にはどう映ったのか。

福永: 客席の階段の境目がはっきりと見えやすく色づけされているのが良かったです。勾配が結構急なので、しっかりとした手すりが設置されているのも助かりますね。一般的なスタジアムだと手すりが少ない場所も多いので、親切だなと感じました。ただ、トイレのピクトグラムはおしゃれなデザインを意識しているためか、男女のマークの違いが見分けづらくて……。実は以前、誤って入ってしまいそうになって焦ったことがあるんです(笑)

今回の座席近くにあったトイレのピクトグラム。「見えやすさを考慮して、マークはもう少し大きく分かりやすいと助かります」

2階席からフィールドを見渡す福永。一観客として、そして一アスリートとして、この大会のどこに注目しているのだろうか。

福永: 今回は残念ながらチケットが取れなかったのですが、カバディのようにマイナーと言われながらも魅力的な発信を続けている競技や選手たちにも、すごくリスペクトがあるんですよね。それと、自分が出場する陸上競技については、選手の導線まではここから見えないかもしれないですが、選手紹介の演出やグラウンドのコンディションなんかはしっかりチェックしておこうと思っています。

遠いものや細かいものは、スマホで拡大しながら確認する

16時からウォームアップステージが始まり、18時のカウントダウンとともに開会式が幕を開けた。

福永: カウントダウンで一気に始まった感じがありましたね。これまで行ったライブやコンサートなどは、1時間ほど前から少しずつBGMの音量を上げていって、観客の気持ちを自然と温めていく演出を感じることがよくあるんです。今回は直前の時間帯が静かで、急に本番へ突入した印象だったのでちょっと意外でした。開会式を見るのは初めてなのでこういう形が普通なのかもしれませんが、もっと段階的に観客の気分を高めていくような演出があってもワクワクするかもしれないですね。

2024年のパリパラリンピックでも調整を優先して開会式は不参加。「出たかったな〜」と本音を漏らす一幕も

「同じ日本代表」として受け取った温かい拍手

光や音、名古屋城を模した巨大なバルーンや花火で見せた。しかし福永には、演出の細部や遠くのモニター画面までははっきりと捉えられない。それでも、全身で感じ取るものがあった。

福永: 何が起きているか細かいところまでは見えないのですが、すごく好きな感じでしたね。とくに名古屋城が登場した場面は印象的でした。体に響いてくる重低音もすごく心地よくて。以前どこかで「人間って頭を上に向けると自然と気持ちが上がりやすくなる」と聞いたことがあるのですが、陸上競技場の上空や光をダイナミックに使っていて見ている側も引き込まれました。今誰にスポットライトが当たっていて、どこを見ればいいのかという主役の示し方がすごく分かりやすくて、映画監督が手がける演出ってこういう伝わりやすさがあるんだなと感じました。

日本代表選手団の入場行進も見守った

選手入場では、アジアの国と地域に続き、ホスト国である日本がラストの46番目でフィールドに姿を現した。

福永: 日本の選手団が入場した瞬間、会場全体が温かい拍手に包まれて「同じ国のアスリート」というだけでこんなにも応援してもらえるんだなと、なんだか嬉しい気持ちになりました。他国の入場時も拍手いましたが、日本チームへの声援にはどこか日本人らしい温もりやつつましさを感じましたね。海外の大会だと自国選手が登場した瞬間に割れんばかりの爆発的な大歓声になりますが、そうした盛り上がり方の違いも見ていて興味深かったです。

開会式終了後、余韻の残るスタジアムで記念撮影

式典はいよいよクライマックスの聖火点灯へ。旗手も務めた現役レスリング選手の藤波朱理が登場し、北島康介さんや高橋尚子さんらレジェンドたちが聖火をつないでいく。ハンマー投げの室伏広治さんと重信さん親子が観客席の一角に設けられた聖火台に点火した。

福永: レジェンドのアスリートたちが登場した瞬間、スタンドが一斉にどっと湧きましたね。室伏さんのような超人さはもちろんですし、北島さんのように名インタビューとともに記憶に残っている存在はやっぱり強いなと。アスリートとして結果を出すことはもちろんのこと、人々の記憶に残る言葉や姿を届けていくことの大切さもシンプルに実感しました。

アジアパラへつなぐエネルギーに

――アジアパラ競技大会は10月18日に開会式を迎える。1ヵ月後には、この舞台で歓声を受ける側になる。

福永: 前回(2023年)の杭州大会はパリパラリンピックへの調整を優先して出場しなかったので、アジアパラは今回が初出場になります。今年は国内開催ですし、自分にとっても今年一番大きな大会になる。2028年のロサンゼルスパラリンピックにもつながる大事なステップです。かつて住んでいた愛知での開催なので、知人が応援に来てくれたりメディアを通してニュースが届きやすかったりするのも嬉しいですね。今回は3種目にエントリーしているので、大きな爪痕を残せるような結果とパフォーマンスをお見せしたいです。

開会式がどんな演出になり、どれくらいのお客さんが来られるのかはまだ想像がつきませんが、今日のアジア大会開会式で生まれた素晴らしい熱気やエネルギーの波が、そのまま僕たちアジアパラの舞台にも波及してくれたら嬉しいですね。

福永は愛知ゆかりのアスリート。開会式ではアジアパラに向けて気持ちを高めた

text by TEAM A
photo by Yoshio Kato

『「熱気の波を、僕たちの舞台へ」パラ陸上競技・福永凌太が見たアジア大会開会式』