「楽しかった」から「試合を観に行きたい」へ。選手とファンをつなぐ場所
パラスポーツの楽しさを身近な場所に届け、選手と同じ目線でワクワクを分かち合う試みが広がっている。街の真ん中で行われたアスリートへのセレブレーション、そして誰もが親しみやすい運動会を通して競技を思いきり楽しむ取り組み。競技場を飛び出して選手と間近で触れ合える場は、その場の盛り上がりにとどまらず、「本物の試合を観に行きたい」という行動や、これからの応援を定着させる大切な第一歩としての大きな意味を持っている。
街中で選手と出会う「ONE HEART WORLD」
「愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会」の期間中に街中で開かれた「ONE HEART WORLD」の「アスリートセレブレーション」は、遊びに来た人にとっても、出場した選手たちにとっても忘れられない時間になった。アジア大会で行われた「ONE ASIA WORLD」同様に、メダルを首にかけた選手たちがサインや写真撮影を通して観客と喜びを分かち合う場だ。選手たち自身が自分の言葉で競技の面白さを伝え、離れた会場で戦っていた選手たちもこの場所に集まって、たくさんの拍手を受け取った。

photo by Atsushi Mihara
普段あまり一般メディアで見かけないような競技の選手にとって、街の中心で多くの人で自分たちの競技をアピールできる機会はめったにない。ゴールボール男子日本代表でアジアパラ史上初の金メダル獲得に大きく貢献した宮食行次は、セレブレーション会場でのにぎわいをこう振り返る。「思った以上に人がいっぱいでびっくりした。ふらっと立ち寄っている一般の人たちもいて、多分僕たちがゴールボールという競技の選手だとも分からず、『JAPAN』のスポーツウェアを着てることから注目してくれて『頑張ってね』と声をかけてくれました」と率直な驚きを語り、街頭での予想以上の温かな出会いに喜びをにじませていた。

photo by Atsushi Mihara
厳しい練習や試合会場では味わえない、街頭ならではの温かいねぎらいの言葉。選手との距離の近さや会場の熱気は、たまたま通りかかった人の心も一気に引き込み、ただの通りすがりから「これからも応援したいファン」へと変えていく。目の前でトップアスリートの圧倒的なかっこよさを目の当たりにした子どもたちも、「自分もスポーツをやってみたい!」と目を輝かせる。こうした純粋な気持ちの高ぶりが、未来のパラスポーツの仲間を増やしていくきっかけにもなるはずだ。
運動会で体感する「BEYOND STADIUM 2026」
一方、東京の地でも、選手とファンが同じ目線で楽しさを分かち合う試みとして、みんなで一緒に体を動かすプログラムを展開したのが「BEYOND STADIUM 2026 ~パラスポーツ大運動会~」だ。

photo by Michi Murakami
東京都では、2030年度までにパラスポーツに関心のある都民の割合を80%に高めるという政策目標を掲げている。パラスポーツ普及・ファン拡大プロジェクト「TEAM BEYOND」を主催する東京都の担当課長・仁平洋介さんは、イベントの狙いについて「最も期待しているのは、選手との出会いをきっかけに、一人でも多くの方にパラスポーツの魅力を感じ、ファンになっていただくこと。実際に選手のプレーを間近で見たり、一緒に競技を体験したりすることで、技術の高さだけでなく選手の人柄や思いにも触れて、より身近に感じてもらいたい」と語る。すでに応援しているファンはもちろん、これまで触れる機会が少なかった層にも親しんでもらうため、用意されたのが「おなじみの運動会種目」にパラスポーツの工夫を取り入れたプログラムだった。

photo by Michi Murakami
会場には車いすラグビーの橋本勝也をはじめとする最大で26人ものメダリストやパラアスリート、デフアスリートが集まり、参加者と一緒に競技を楽しんだり、ステージで会場を盛り上げたりした。たとえば宮食らが参加した「目隠し玉入れ」では、目隠しをして周りの音や声を頼りにカゴへ玉を投げ入れる。宮食は「目隠し玉入れのコーナーに来てくれた子どもたちには金メダルをしっかり触ってもらって、ゴールボールの導入としてすごく楽しんでもらえた。そこから『ゴールボールを見てみたい』という方にシフトしていってくれたらいいなと思いながら声をかけていた」と、体験を通じて未来のファンへ思いを届けていた。さらに宮食は「僕も見ために気を遣って金髪を維持してるので(笑)、街で声をかけてもらえるよう、ゴールボールを少しずつ広げていきたい」と笑顔で語った。

photo by Michi Murakami
実際に自分でやってみることで、参加者はパラスポーツ特有の工夫を凝らしたルールを知ると同時に、トップアスリートが披露する技術の高さや正確さに驚かされる。また、会場で配布されたパラアスリートシールについて仁平さんは、「触れ合っても名前をすぐ覚えてもらうのは難しい。名前が入ったシールをもらえれば記憶にも残るし愛着も湧く。今日知ったことや思い出を持ち帰ってほしい」と話す。

photo by Michi Murakami
最初は芸能人や人気キャラクターのステージショーを目当てにやってきた家族連れも、子どもと一緒に体を動かしたり、アスリートを知っていくうちに、すっかりパラスポーツに夢中になっていく。「あー楽しかった!」で終わるだけでなく、「次は本物の試合を見に行ってみたい」「あの選手をもっと応援したい」という気持ちが、自然と芽生えていくのだ。

photo by Michi Murakami
「観に行く」応援へつなげる
東京2020大会から5年が経った今、大切にしたいのは有形のバリアフリー設備だけではない。仁平さんが「残したものは一過性のものではなく、その後に脈々と続くものこそが意義。ボランティア文化やスポーツを観戦することなど、みんなでいかに続けて発展させていくかに力を割くことで、5年後も10年後も『やって良かった』と思えるようになる」と語るように、大会の真価は閉幕の後にこそ問われる。特別な日の興奮を一過性のものにせず、日々の暮らしの中で競技や選手を応援し続ける土壌をどう育むか――それこそが、メガイベントが残すべき本当の役割と言える。

photo by Michi Murakami
「ONE HEART WORLD」と「BEYOND STADIUM 2026」が教えてくれたのは、街の広場や体育館といった身近な場所で、選手と直接言葉を交わし心を通わせる楽しさだ。
その温かな交流は、次のロサンゼルスパラリンピックへ挑む選手たちにとっても確かな力となり、応援する側の日々にも元気や活力を届けてくれる。スタジアムを飛び出して生まれたたくさんの笑顔をきっかけに、パラスポーツが日常のスポーツとして広く深く根付いていくことを期待したい。

photo by Michi Murakami
text by Asuka Senaga
key visual by Atsushi Mihara






