【東京2020から5年】大会を知らない世代へも届くレガシー。IPCパーソンズ会長が見た、パラスポーツが変える子どもたちの未来

【東京2020から5年】大会を知らない世代へも届くレガシー。IPCパーソンズ会長が見た、パラスポーツが変える子どもたちの未来
2026.09.11.FRI 公開

東京2020パラリンピックから5年。IPC(国際パラリンピック委員会)のアンドリュー・パーソンズ会長らが都内施設を巡る視察を行った。未来を担う子どもたちが幼少期から多様性に触れることは、共生社会という大会レガシーを育む最大のカギだ。取材したパラサポWEBも、パーソンズ会長と子どもたちの温かな交流を通じて、パラリンピックやパラスポーツが次世代に問いかけるメッセージを感じた。

車いすバスケットボールの若きアスリートたちと交流

3日間でスポーツ施設、特別支援学校、交通機関などを巡ったパーソンズ会長。有明アリーナを訪れた際は、車いすバスケットボールのジュニアアスリートや地元の小学生と直接対話する機会が設けられた。

視察当日、特別仕様で実施された車いすバスケットボール体験会に参加したのは、アリーナがある地元江東区の有明西学園に通う夏休み中の小学生だ。車いす操作の難しさや競技の楽しさを実感したという子どもたちに対し、パーソンズ会長はパラリンピックの意義を伝えるとともに「今後もぜひスポーツを続けて楽しんでほしい」と呼びかけた。

大賀さんは週4回、車いすバスケットボールに励んでいるほか、勉強も頑張っている、と話した
photo by Takamitsu Mifune

パーソンズ会長は、埼玉県出身の高校1年生・大賀勝翔さんや中学3年生の尾作誠英さんと親しく言葉を交わした。尾作さんは、東京2020パラリンピックで日本代表チームが銀メダルを獲得した試合に強く感動し、本格的に競技を始めたと英語で語った。これに対しパーソンズ会長は、自身も当時会場で日本を応援していた内緒話をしつつ、その英語力を称賛した。さらに、競技への熱い情熱を抱くジュニアアスリートたちに「2032年のブリスベン大会などでメダルを獲得したら、私が表彰式で首にメダルをかけてあげます」と約束を交わし、固い握手とハイタッチ。将来の再会を誓い合った。

宇宙飛行士を目指して英語を学んでいるという尾作さん
photo by Takamitsu Mifune

この日公開された体験会は、東京ベイエリアを中心に活動するプロバスケットボールチームと車いすバスケットボールチーム、大手飲料メーカーが連携して2022年9月から継続的に実施しているもの。パーソンズ会長は、行政主導のイベントにとどまらず、地域住民や民間企業が一体となって障がいの有無を超えた交流の場を創出している点について心を揺さぶられた様子。「東京大会のレガシーが素晴らしい形で生き続けている」と感想を述べた。

また、子どもたちには無限の可能性があり、重要なのは必ずしもパラリンピアンを目指すことだけではなく「生涯を通じてスポーツと接触し続けることだ」と強調した。

障がい当事者の意見を踏まえて整備されたトイレなどアクセシビリティ設備を視察したパーソンズ会長
photo by Takamitsu Mifune

未来を担う子どもたちへの期待

その後、都庁で行われた小池百合子東京都知事との談話でも、東京大会が子どもたちに与えたインパクトについて話題に上げた。パーソンズ会長は「未曾有の大変な状況の中で開催された大会から5年が経った今も、共生社会をもたらすためになされたいろいろな進歩はまさに世界トップレベル。東京は素晴らしい先例を示してくれた」と語った。

小池知事に東京2020大会開会式の写真パネルを贈呈するパーソンズ会長
photo by Takamitsu Mifune

2日目は、東京2020大会時に活躍したボランティアによる特別授業「ボ学」夏休みスペシャルへ。会場には多くの子どもたちが参加し、アイマスクを着けて点字ブロックの上を歩く体験や、「ありがとう」などの手話の習得に挑戦した。IPCのパーソンズ会長は、東京大会を知っている世代やその家族はもちろんのこと、大会当時に生まれていなかった子どもたちがレガシーを体験し学ぶ姿を高く評価した。

「パラリンピックは、大会に関わった人だけでなく、何世代にもわたって社会に影響を与える」とパーソンズ会長
photo by Parasapo

続いて、江戸東京博物館に場所を移し、東京都のパラ応援大使との意見交換が行われた。都内の学校では教材を通じた理解促進が進み、子どものころから多様性に触れることで未来を支える意識の醸成が期待されている。また、体験イベントなどを通じて次の世代へ夢をつなぐ姿に、人から人へつながるレガシーの実感が語られた。

パラ親善大使である(左から)根木慎志さん、三浦浩さん、葭原滋男さんら
photo by Takamitsu Mifune

最終日。特別支援学校の視察に姿を現したパーソンズ会長は、「パラスポーツ・レクリエーションひろば」を視察した。開放された体育施設では、パラeスポーツのエキシビションマッチの観戦やパラ射撃をはじめとするパラスポーツ体験が行われ、参加した児童・生徒たちの活気あふれる姿が見られた。

競技団体の共同プロジェクト「P.UNITED(ピー・ユナイテッド)」がパラスポーツの体験・展示イベントを実施した
photo by Jun Tsukida

ボッチャ体験には、分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」が登場。離れた場所にいる子どもたちもランプオペレーターと会話しながら一緒にプレーに興じた。

分身ロボットOriHimeを介してリモートで交流
photo by Jun Tsukida

パラフェンシングのブースで体験者の相手を務めた篠原悠輔選手は、子どもたちが笑顔で楽しむ姿に、大きな喜びを感じていると語った。東京大会開催当時は健常者としてテレビで競技を観戦していたが、趣味のスノーボードでケガをし、26歳でパラフェンシングを始めた。現在は、将来のパラリンピック出場を目指して日々練習に励んでいる。見る側から伝える側へと回った選手の存在は、パラスポーツが着実に広がっていることを物語っている。

photo by Jun Tsukida

今回の訪問を見守った多くの人が再確認したのは、東京2020大会が残した最大のレガシーが単なるインフラ整備にとどまらないことだ。大会に触発された子どもたちが未来のアスリートとして育ち、障がいの有無にかかわらず共にスポーツを楽しみ互いを尊重し合う心が、今、次世代へと確かに受け継がれている。

3日間で多くの子どもたちと交流した
photo by Jun Tsukida

text by TEAM A
key visual by Takamitsu Mifune

『【東京2020から5年】大会を知らない世代へも届くレガシー。IPCパーソンズ会長が見た、パラスポーツが変える子どもたちの未来』

【東京2020から5年】大会を知らない世代へも届くレガシー。IPCパーソンズ会長が見た、パラスポーツが変える子どもたちの未来