もし大型複合施設にいるときに災害が起こったら? 阪神・淡路大震災を経験した車いすユーザーが、サンシャインシティで伝えた“生き残るための選択肢”

2026.10.28.WED 公開

池袋のサンシャインシティ。水族館、展望台、人気キャラクターのテーマパークやショップ、レストラン……連日多くの人で賑わい、年間3,000万人以上の来街者を迎える大型複合施設だ。そんな場所に出かけているときに、突然災害が起こったら?

そんな災害への備えの一環として、株式会社サンシャインシティが社内の防災研修で向き合ったのは、「DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)」というポイントだ。
老若男女、障がいのあるなしもさまざまな、多様な人が訪れる大型施設で、「すべての人が生き残る選択肢を持つこと」が大切だと言うのは、研修「あすチャレ!Academy」防災編の講師を務めた神戸出身のパラアスリート・山本恵理さん。研修の様子から、防災にとって大切なことを探ってみた。

小5で阪神・淡路大震災を経験。だからこそ、伝えたい

研修には、お客様対応を業務とするスタッフも含め、さまざまな部署やグループ会社から参加者が集まった

「防災の日」を翌日に控えた8月31日、株式会社サンシャインシティは、「大型複合施設の防災のあり方と災害時の“DEI”を実践的に学ぶ」と題し、グループ社員と施設で働くスタッフを対象とした防災研修の一環として、「あすチャレ!Academy」防災編を実施した。
あすチャレ!Academyは、日本財団パラスポーツサポートセンターが提供する、パラアスリートを講師としたDEI研修プログラム。今回行われた「防災編」は、福祉防災学を専門とする同志社大学の立木茂雄名誉教授と、現役パラパワーリフティング選手の山本恵理さんが共同開発したものだ。

神戸市出身の山本さんは、小学5年生の時に阪神・淡路大震災を経験している。先天性の二分脊椎症のため、物心ついたときから車いすユーザーである山本さんは、研修の中で、当時のことをこう振り返った。

「私は須磨区の実家で震度7の揺れを体験しました。家は一部損壊し、私は両親と一緒に避難所となっていた体育館に逃げることになりました。一方で、東灘区にあった祖父母の家は全壊し、周囲の家も潰れ、みんな生きているのかどうかもわからないような状況でした。なので、両親は祖父母の家に助けに行きたかったはず。その時に私は思いました。『きっと家族は私の面倒を見なくてはならない、私をかばわなきゃいけなくなる。誰かに迷惑をかけるくらいなら、ここに置いていってほしい』と」

大勢の人が集まる避難所で、車いすで過ごす場所を確保したり、段差やトイレなどさまざまな問題を解決するのは難しいだろうし、車いすユーザーの自分を連れて避難することで家族に迷惑をかけたくない、と小学生の山本さんは考えた。
しかし、制約があったとしても、誰もが生き残る方法を考え調整していくことはできるし、誰も取り残さず、自分も含めてみんなで生きのびる、という視点を持ち続けることが大切なのだ。当時抱いた感情と、当時は思い至らなかった考えの両方があるから、今こうして防災について伝えている。

「もう、誰にも、あの時の私のような気持ちになってほしくないんです。平時では自分なら逃げられるだろうと思っている人も、災害時は何が起こるかわかりません。だからこそ、みんなに、自分も生きるんだ、みんなで逃げるんだ、自分も生き残るんだと思ってほしい、誰にも諦めてほしくない。だから『みんなが生き残る防災』をみんなで考えたいと思います」

「障がい」について伝える理由

参加するスタッフ・社員と言葉を交わしながら、一緒に考えていく

研修の前半、山本さんはこう問い掛けた。

「私自身が感じている『障がい』ってなんだと思いますか?」

参加者たちは「段差」「階段」「高いところにあるボタン」など、車いすユーザーにとっての物理的な障がいをあげていった。しかし、山本さんの答えは意外なものだった。

「選択肢が狭まること」

たとえば、行きたいと思っていたカフェやレストランの入り口に段差や階段があるために、行くのを諦めてしまう、といった場合がそうだ。物心ついた時から車いす生活を送っている山本さんにとって、歩いたり走ったりできないことよりも、このように選択肢が少なくなることが「障がい」なのだという。

では、選択肢を増やすにはどうすればいいのか。段差をなくしたり、エレベーターをたくさんつけるのは、時間もお金もかかり、場合によっては実現が難しいかもしれない。

「でも、今すぐ、私が感じている障がいをなくす方法があります。それは、皆さんが選択肢になるということです」

段差があってお店に入れない車いすユーザーがいたら、直接手助けをすることもできるし、車いすを持ち上げるのを手伝ってくれそうな人を呼んでくることもできる。一声かけるだけで、自分が誰かの選択肢のひとつとなり、「障がい」を減らすことができると山本さんは語りかけた。

災害時にリスクになるのは、障がいだけではない。老い、病気、生活困窮や孤立なども同じだ

山本さんが防災の研修で「障がいとは何か」という話をしたのには、理由がある。それは、「障がい」と「災害リスク」の構造がとても似ているからだという。自分が誰かの選択肢になることで「障がい」を減らすことができるように、「災害リスク」もまた、お互いがお互いの選択肢になることで減らすことができる。それは「すべての人が生きる選択肢を持つ」ことにつながると山本さんは訴えた。

大型複合施設で働く一員として、防災を考える

学んだ視点を、自分が働くこの場所でどう活かせるか。グループで真剣に考える中で、防災が自然と自分ごとになっていく

研修では、この後、発災から100時間以内に想定される困りごとを記載したリストをもとに、その対処法を考えるグループワークなどが実施された。参加者たちは、自分たちが働くサンシャインシティには、水族館等のアミューズメント施設やショッピングセンター、オフィスなどさまざまな機能があり、そこには多種多様な人々が訪れることを想定しながら問題解決に取り組んでいた。

今回は山本さんが講師を務めていることをきっかけに、車いすユーザーがサンシャインシティ内で避難する場合を想定しシミュレーションをしたグループが多く見られた。

「排泄に関することができない」という困りごとをテーマに避難生活を考えたグループは、「多目的トイレはあるが、実際に車いすユーザーが避難生活を送るとなると、この数で足りるのだろうか。通常のトイレも使用できる可能性はあるのだろうか」など、より深い視点で考えていた。

より具体的に考えようと、同じフロアのトイレの設備を確認しにいった

普段の備えについて確認するきっかけになったという声もあった。「歩行や自力での移動ができない」をテーマにしたグループは、食事に関して話し合う中で、各拠点に備蓄を設ければ、移動ができない場合の解決策になるのではというアイデアが出た。メンバーの中からは、「(自分の職場の)備蓄品の保管場所をちゃんと把握できていなかったと気づいたので、自分もスタッフも把握しておくことが大切だと感じました」という感想が上がった。

改善を考える中で、現在の備えをしっかり把握する大切さにも気づく。実際の業務と近い視点で防災を考えるきっかけになった

サンシャインシティは地上60階の高層フロアもあり、有事の際は全館の状況を細かく把握するのが難しいケースも考えられる。ゆえに、頼りになるのは現場で対応する従業員だ。そんな従業員たちに、今回「DEI」という視点から防災研修を実施できたことに、研修を企画した株式会社サンシャインのコミュニケーション部チーフリーダーCXチームの久保木裕子さんも、手応えを語った。

「障がいのある方だけではなく、妊婦の方や高齢者の方、インバウンドの外国人観光客の方などの対応も現場ではあり、様々なとらえ方を学ぶきっかけになったと感じています。参加したスタッフや社員の表情をみていると、皆何かしらの気づきがあり、(防災やDEIが)自分ごとになったのではないでしょうか。研修で出ていたことを、参加した人だけではなく(現場に持ち帰り)広めてもらって、今後の防災計画や避難訓練などに少しずつ取り入れることができればと思います」

受講後、「自分の家には小さい子どもがいる。家族でも改めて防災について話し合ってみます」という参加者もいた。自分ごとになったことで、職場でも家でも、これからのアクションにつながっていく可能性が感じられた。


終了後、山本さんは今回の研修をこう振り返った。

「自分が阪神・淡路大震災を経験していることもあり、行く先々で『今ここで災害が起こったらどうしよう』と考えることが多くあります。そんな中、今回サンシャインシティで働く方々に、生き残る選択肢をすべての人に、というメンタリティを共有していただけたことは、何よりも大きなことだと思います。これをどんどん社会に広げていっていただけたら嬉しいです」

防災をみんなが自分ごととして考え、お互いがお互いの選択肢になっていく。「みんなが生き残る防災」に企業が取り組むことの意義は、とても大きいのではないだろうか。

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https://www.parasapo.tokyo/asuchalle/academy/trial/

text by Parasapo Lab
photo by Haruo Wanibe

『もし大型複合施設にいるときに災害が起こったら? 阪神・淡路大震災を経験した車いすユーザーが、サンシャインシティで伝えた“生き残るための選択肢”』