日本車いすフェンシング協会が2020年東京パラリンピック強化プランを発表。ゴールドパートナー契約締結の会見で選手らが意気込み語る

2017.05.24.WED 公開

5月19日、日本財団ビルでNPO法人日本車いすフェンシング協会が、住友三井オートサービス株式会社とオフィシャルゴールドパートナー契約をしたことを発表。2020年東京パラリンピックに向けた強化プランも明かした。

競技普及、選手強化、大会運営をサポート

自動車リース事業などを世界的に展開する住友三井オートサービスは、2017年度から2020年度まで日本車いすフェンシング協会(JWFA)とオフィシャルゴールドパートナー契約を締結したことを発表した。予算は4年間の総額で2000万円。年間約500万円が協会のサポートに充てられる。

住友三井オートサービスの川越代表取締役副社長は、「1対1で行うフェンシングは選手の頑張りが素直に表れる点に魅力を感じる」と話した

記者会見に登壇した同社の川越弘三代表取締役副社長は「様々な競技団体と面談したうえで、車いすフェンシング競技にはサポートがついておらず、一役買いたいと思った。競技の普及、日本代表の強化、協会主催大会のサポートを中心に支援していきたい」と語った。

2020年度以降の契約も検討しており、「車いすフェンシングによって、より充実した人生を送れる人が増えてほしい」と契約に託す願いを話した。

16歳のとき、交通事故で左膝下を失った加納。世界ランキングはフルーレ40位、サーブル45位

これに対し、日本代表の加納慎太郎は「16歳のときの交通事故で障がいを負った私は、車いすフェンシングに出会って、夢を持てるようになった。支援してくれる人たちのためにも2020年にメダルを獲りたい」と語った。

同じく日本代表の櫻井杏理は「サポートしてくださる方が増えることでモチベーションが上がります。まだまだ強豪には及びませんが、結果という形でお返ししたい」と決意を述べた。

“メダル4個”の目標に追い風

日本車いすフェンシング協会の小松真一理事長からは、2020年東京パラリンピックに向けた目標と強化プランも発表された。

「東京パラリンピックには3種目への出場を目指している。メダルはフェンシングの基本となるフレール(胴体のみへの突き)で男女1個ずつ、さらにエペ(上半身への突き)、サーブル(上半身への突きと斬り)で1個ずつ、合計4個以上を獲得したい」

このように小松理事長が大きな目標を掲げた理由として、昨年より強化態勢が整いつつある現状を説明している。

JWFAの小松理事長

「昨年10月、シドニーとアテネパラリンピックの金メダリスト馮英騏(フン・インキィ/香港出身)さんがヘッドコーチに就任しました。さらに今年2月は京都の小学校だった場所が車いすフェンシングのナショナルトレーニングセンターとして認可され、強化の本拠地もできました。もちろん、今回のオフィシャルゴールドパートナー契約も大きく、『何としてもメダルを』という気運が生まれています」

なお、ここ20年で日本がパラリンピックの車いすフェンシング競技に出場したのは、2000年のシドニー大会、2004年のアテネ大会、2008年の北京大会までの3大会のみ。2012年のロンドン大会、2016年のリオ大会には出場できなかった。

小松理事長によると、この原因は資金面での課題が大きい。これまで日本選手は国際大会に自費で参加するしかなく、日本車いすフェンシング協会には多くの選手やスタッフを派遣するだけの十分な資金がなかった。パラリンピック出場ための世界ランキングを稼ぐワールドカップは、ヨーロッパを中心に年間5大会あり、パラリンピックに出場するためには、各大会でベスト8以上に入る必要がある。

「今後は国際大会への積極的な派遣も可能になり、強豪国に近づきたい」(小松理事長)

さらに競技人口を増やすことも急務の課題だ。現在、日本国内の競技人口は約50人。この1年で倍に増えた。しかし競技力向上のためには愛好者はもちろん、指導者の数も増やさなければと、小松理事長は述べている。

「今後は体験会などを実施し、車いすフェンシングを始めたいという人を増やしたい。また、車いすフェンシングの指導者の育成も必要。たとえば、選手を強くするために健常者にコーチになってもらうこともできますが、車いすの選手の特性を知らないために、練習をやりすぎて褥瘡(床ずれ)を作ってしまい、復帰まで半年もかかってしまう場合もある。車いすを使用する選手の特性を知る指導者を養成する必要があるのです」

今年2月に櫻井杏理がW杯で銀メダル

日本の若きエース・櫻井は「強敵の中国に勝ちたい。まだまだ勉強することはたくさんありますが、頑張ります」

このように課題が少なくないとはいえ、劇的に強化態勢が整いつつあることで早くも結果は出始めている。競技歴2年半の櫻井杏理は、今年2月のハンガリーワールドカップのエペで銀メダルを獲得した。エペでの世界ランキングは日本最高の16位だ。

現在、京都に在住する櫻井は、平日は3時30分まで仕事をし、その後はナショナルトレーニングセンターで練習を積む毎日を送っている。

「他の人はなかなか練習に来られないので、ほとんどフンコーチにつきっきりで教えてもらっている。とことん突き詰めて世界でやってきた人なので、技術だけでなく、競技者としての姿勢など、一つひとつが勉強になります。ただ、私も言いたいことを言うので、よくケンカしますが(苦笑)」

そんな櫻井を含む日本の強化選手6人について、フンコーチはこう話す。

「みんなこの競技が大好きで、心がしっかりしているのが強み。だから課題は選手というより強くなるための組織作り。選手同士で頻繁に集まって練習する機会が少なすぎます。まずは京都だけでなく、東京にも練習拠点を作る必要があるでしょう。2020年以降も継続できる強化システムが構築できれば、コンスタントに勝てるようになれるはずです」

なお、今年10月に行われる日本車いすフェンシング選手権には、アジア諸国から選手を招へいする予定。さらに2018年には日本初のワールドカップを開催する。多くの日本選手が強い選手と戦う機会を増やすことで、強化につなげていく狙いだ。

text&photos by TEAM A

『日本車いすフェンシング協会が2020年東京パラリンピック強化プランを発表。ゴールドパートナー契約締結の会見で選手らが意気込み語る』