加熱する都市型スポーツ。ストリートサッカーが未来の一流選手を育てる?

2021.10.11.MON 公開

近年、ストリートサッカーを始め、スケートボードやダンスといった都市型スポーツが人気となっている。サッカーは、世界の競技人口が約2億6000万人とも言われている人気スポーツだが、ブラジルやヨーロッパでは多くの一流選手が、幼少の頃から路地裏でボールを蹴りに興じていたという。そんなサッカーの原点ともいえるストリートサッカーが注目を浴び、現在では世界大会が実施されるまでになっているのをご存知だろうか。そこで今回は、ストリートサッカーの魅力と都市型スポーツのこれからについて、日本ストリートサッカー協会代表理事の畑中崇氏にお話を伺った。

日本はサッカーをする場所も出会うチャンスも少なすぎる

欧米では路上で子どもたちがサッカーをしているのは、日常の風景 ©︎Shutterstock

都市型スポーツとは、広い場所を必要とせず、少人数でもできる、都市住民にうってつけのスポーツ。種目は自転車BMX(フリースタイル)やスケートボード、スポーツクライミング、パルクール、インラインスケートなど多岐にわたり、競技人口が増えているという。昨今、都市型スポーツが広がりを見せる背景にはどのような理由があるのだろうか。

例えばストリートサッカーは欧米では子どもの頃から親しむ身近なもので、サッカー界の世界的スター、ネイマールやメッシも、路上でサッカーボールを蹴って遊んで育ったという話は有名だ。しかも畑中氏によると、サッカーが文化として定着している欧州では路上だけでなく、整備された環境にそのフィールドが移り、公園や専用コートなどでプレーすることができるそうだ。一方日本を見てみると、公園ではボールを蹴ることが禁止され、子どもたちが自由に遊べる空き地もほとんどない。まして路上でボールを蹴っていたら、間違いなく「危ない」と注意されるだろう。

「日本の子どもたちのサッカー事情を見ると、サッカーは遊びではなくて習い事になってしまっています。ボールを蹴る場所がないので、サッカーをしたければ地域のクラブに所属したり、学校の部活に入ったりするしかないんです」(畑中氏、以下同)

かつては「ボールひとつあれば出来るスポーツ」と言われ、どんなに貧しくても一流選手になるという夢を持てたサッカーが、今やエリート競技化してしまっているのだ。 また畑中氏がイベントで訪れたある高校では、サッカー部員が3学年で30人程度しかいなかったという。これでは学年ごとの大会や新人戦はできない。少子化の影響もあるが「このままでは日本のサッカーは盛り上がらない」と感じた畑中氏は、サッカーの裾野を広げるにはどうしたらいいかを考えた。そして思い至ったのが「そもそも子どもたちがサッカーに触れる場や機会が少なくなっているからではないか」ということだった。その点、ストリートサッカーは狭い場所、少ない人数でもプレーできる。そこで畑中氏は、クラブなどに所属している子どもだけでなく、誰でも自由にサッカーを楽しめる場所、サッカーに触れるチャンスを作るため、日本ストリートサッカー協会を立ち上げたのだ。

ストリートサッカー世界大会で14歳の日本人が優勝

世界大会「Pannahouse Invitationals 2018」のU-15部門で優勝した森川獅大君(当時14歳)

競技として行われるストリートサッカーは1対1、あるいは3対3で対戦するものなどいくつか種目があり、世界大会も行われている。 たとえば「PANNA(パナ)」と呼ばれる1対1で行う種目は、直径約5mの囲いの中で得点を競う個人競技で、試合時間は3分と短い。しかも、極端なフィジカルコンタクト(身体的接触、体同士のぶつかりあい)が禁止されているため、体の使い方や足技などのスキル、駆け引きが勝敗の鍵となる。

「PANNAの面白さのひとつが、体格差や体力がハンディになりにくいという点です。サッカーの試合では、欧米の選手に比べて体が小さい日本人は、フィジカルコンタクトで跳ね飛ばされることや、歩幅の短さがハンディになることがあります。でもPANNAならば、体格差や年齢に関係なく、子どもが大人に勝つことも、世界でトップを目指すこともできるんです」

実際、2018年にデンマークで行われたPANNAの世界大会では、15歳以下の部門で日本人の14歳の少年が優勝を果たしている。

都市型スポーツが社会問題を解決する?

協会が開催するイベントには子どもから大人まで、毎回多くの人が参加する

「サッカーが好きな子、うまい子は黙っていてもサッカーに興味を持ってプレーをするんです。でもそれだけではサッカーの裾野は広がりません。私達はそうじゃない子にも、勝ち負けやしがらみにとらわれず、サッカーって面白いと思ってもらいたいんです」

そのため協会では、あえて「スクール」にはせず「スタジオ」として場所を提供して自由にプレーしてもらったり、地域のイベントに参加してワークショップを開いたりしている。そうすることで、子どもから大人まで多くの人にストリートサッカーを楽しむ場を提供し、サッカーを文化として定着させようとしている。 そうした活動を続けてきた結果、最近では商店街の空きテナントや、街中の空地をPANNAのコートとして利用しないかという提案を受けるようになった。

「シャッター商店街や空地は防犯的にもよくないですから、社会問題にもなっています。そうした場所にコートを作って子どもにとっていい環境ができれば、街づくりや少子化問題の解決に繋がるかもしれません。それにスクールで教える人がいなくても、今はネットでプロサッカー選手のすごいプレーも、プロではないけれど凄い技を持っている子どもの動画も見ることができます。スクールで技を教えてもらうんじゃなくて、YouTubeで見たカッコいいプレーを自分もやってみたいと思って、真似をして、どんどんのめり込んでいく。ネット上では世界中のプレーヤーと繋がることもできます。それがスケートボードやダンスのような現代の路上スポーツの根源になっているし、ストリートサッカーもそうやって発展していったらいいなと思います」

2021年8月に足立区の「スペシャルクライフコート」で行われたイベント

最近、協会ではストリートサッカーの裾野を広げる活動の一環として、年齢や性別、障がいの有無にかかわらず、誰もが一緒に楽しめる「インクルーシブサッカー」の活動を行っている。オランダでは、サッカー界のレジェンドと言われたサッカー選手、ヨハン・クライフ氏が設立した「ヨハン・クライフ財団」が「スペシャルクライフコート」という多目的広場を世界各国に設置。誰もが安心してスポーツを楽しめる場所となっている。そしてアジア圏初の「スペシャルクライフコート」が、2020年11月、東京都・足立区にオープンした。日本ストリートサッカー協会では、8月22日にこのコートで行われたイベントに参加。今後はインクルーシブサッカーの普及にも積極的に取り組んでいきたいそうだ。

多様化が進み子どもをとりまく環境がめまぐるしく変化している今、スクールや指導者がいなくても、場所さえあれば誰でもスポーツに興じることができる。人種や性別も関係なく楽しめるスポーツがある。こうして時代に合わせてスポーツが柔軟に進化していけば、ストリートサッカーも、いずれスケートボードのようにオリンピック種目になる日がくるかもしれない。

日本ストリートサッカー協会は、この競技のバリューとして「NO BORDER ※多様性を受け入れる社会づくり、一緒に楽しむ/出会い(仲間)を大切にする/共に夢や憧れを追う(挑戦する)」という言葉を掲げている。それは、まさにPANNAのような、体格差や年齢、性別、国境をも越えて楽しめる新時代のスポーツならではの価値と言える。「こうでなくてはいけない」という既成概念に縛られず、誰でも気軽に始められて、楽しいと思える。そんな現代人が忘れかけていたスポーツの原点が、都市型スポーツにはあるのではないだろうか。

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)

『加熱する都市型スポーツ。ストリートサッカーが未来の一流選手を育てる?』