知的障がい選手による日本最高峰の大会・2018日本ID陸上競技選手権を沸かせた選手たち

2018.08.07.TUE 公開

8月4日、5日の2日間、岐阜メモリアルセンター長良川競技場で行われた「2018日本ID陸上競技選手権」。知的障がいのある選手による日本最高峰の大会で、今年で23回目を迎えた。今回は、大会を通して35度以上の暑さに見舞われたが、10月に開催されるアジアパラ2018競技大会(インドネシア・ジャカルタ)の日本代表推薦選手15人を中心にトップ選手が躍動。大会記録14、日本記録3、アジア記録1つが誕生した。東京2020パラリンピックの採用種目である400m、1500m、走り幅跳び、砲丸投げの注目選手を紹介する。

競争激化の1500mを制したのは……?

手に汗握る接戦が展開されたのがトラックの1500mだ。注目されたのは、大会記録保持者で全日本チャンピオンの安西伸浩と、7月のジャパンパラ競技大会で4分01秒29の日本新記録を樹立した赤井大樹。このふたりの勝負は、ラストスパートに成功した19歳の赤井に軍配が上がった。

1500mで大会新記録を出した安西伸浩(左)と赤井大樹(右)

敗れた安西は、悔しそうにレースを振り返る。
「最後の300m、不意打ちで出てきた赤井さんについていこうと思ったんですが……。自分の筋力不足で上半身が反ってしまい、追い抜くことができませんでした。ジャパンパラから負けていて悔しいので、次は勝ってそこから負けないようにしたいです」
3年前に全国障害者スポーツ大会に出場したことをきっかけに、本格的に取り組むようになった。「2年前より、みんな強くなっている」とライバルを意識する。現在、21歳。アジアパラではこの日の悔しさをバネにさらなる記録更新を狙う。

驚異の19歳がベテランを脅かした男子走り幅跳び

リオパラリンピック日本代表で、知的障がい者陸上のスター選手といえる山口光男が登場した走り幅跳びも白熱した。

走り幅跳びで優勝した山口光男

「常に(未踏の)7mを目標にしています」と言う山口だが、この日の記録は自己ベストの6m77に及ばない6m60。「調子は良く、跳べる感覚はありました。今シーズンは、波があった助走も安定してきたし、スピードが出てすべてがハマれば7mは確実に出る」と確かな手ごたえを感じている。

その山口にあと一歩と迫る6m58をマークしたのが、19歳の小久保寛太だ。身長176㎝のダイナミックな跳躍は見ごたえがあり、強みは「スピードを活かした踏切」と本人談。順位は2位だったが、「助走も前よりよくなっています」と笑顔で語り、自信をのぞかせる。

伸び盛りの19歳・小久保寛太

アジアパラにも内定している小久保は、福祉施設で介護の仕事に従事しながら週6日、出身高校のグランドで練習に取り組む。「東京パラリンピックに出たいので、次の大会でまず6m70、来年には7mを跳ばないと……」と視線はしっかりと世界に向いている。

小久保の登場でますます活気づいた男子走り幅跳び。先に7mを跳ぶのは山口か小久保か。ふたりの戦いから今後も目が離せない。

女子は1500mでアジア新が誕生!

今季好調の実力者・蒔田沙弥香

女子の1500mは、序盤から他を寄せつけない走りでリードしたリオパラリンピック日本代表の蒔田沙弥香が4分49秒26でアジア新記録を樹立した。ゴール後にガッツポーズで喜びを表現し、「記録が出た瞬間は、嬉しかった」。暑さ対策も万全だったようで、(短い距離の練習など)きつい練習をこなしてきたことが好記録につながったという。

今後は、アジアパラなど国際大会にも出場し、「一番になって新記録を出したいです」と意気込みを語ってくれた。

蒔田から遅れること約12秒、2位でフィニッシュしたリオパラリンピック日本代表の山本萌恵子は今大会800mで優勝。本命は1500mで、アジアパラの金メダルを目標に掲げる。「気持ちで負けず、がんばりたいです」と意欲は十分だ。

リオパラリンピック日本代表の20歳・山本萌恵子

400mで群を抜く外山&接戦を制した松本

大会1日目に200mで日本新をマークした外山愛美は、400m でも予選で1分00秒79、決勝で1分00秒88の大会新記録を樹立した。「(拠点の)宮崎よりも暑く、タイムが思っていたより伸びずに、少し悔しい気持ちです」。アジアパラに向けては「暑さに慣れることと、太ももの筋力をつけることが課題。アジア新を出したい」と力強くコメントした。

また、男子1位の 松本隆寛 は「予選よりタイムが上がったのがうれしい」と自身の走りを振り返り、調整がうまくいったと話してくれた。「スピードをスムーズに上げられるようになっている。レベルが上がっているし、もっといい記録を目指したいです」

軽快な走りを見せる期待の若手・外山愛美
ライバルたちに勝利した松本隆寛(中央)

女子走り幅跳びは十代が大会新!

女子の走り幅跳びは、わずか1本の跳躍で4m82の大会新をマークした十代茜が優勝した。今大会は、走り幅跳びの競技中に行われた100mの予選に出場したこともあり「一本集中」をテーマに挑み、「助走でしっかりスピードを出し、無の状態で跳び、うまく身を任せられた」。練習に裏打ちされた自信があり、本番に強い。「東京パラリンピックに出場して、練習を支えてくれているコーチなど周りの人に恩返しをしたいです」。今後の試合で5m以上を跳び、夢の舞台に一歩ずつ近づいていくつもりだ。

走り幅跳びで優勝した27歳の十代茜

綛谷と中田がパワーで圧巻した砲丸投げ

男子の砲丸投げは、身長181㎝、体重110㎏の綛谷和也が10m77で連覇。だが、目標の12mに届かず、喜びは控えめだ。「1投目は力が抜けたような感じになり、5投目は回転のスピードが遅かった」と冷静に分析した。12歳から競技を始めて、現在30歳。「大地のパワーを吸い上げるようなキレのあるフォームができれば、2020年も夢ではない」と話し、今後の成長を誓った。

一方、女子優勝の中田裕美は10m54で大会新。「楽しく投球できました」と充実の表情で振り返った。東京パラリンピックは「まだ目標とは言えない」と中田。肩回りの筋力アップに力を入れ、フォームを磨き、まずは記録更新を目指す。

男子砲丸投で優勝した綛谷和也
女子砲丸投げで大会新記録の中田裕美

text by Asuka Senaga
photo by X-1

『知的障がい選手による日本最高峰の大会・2018日本ID陸上競技選手権を沸かせた選手たち』