ブラインドサッカーからコミュニケーションを学ぶ体験型プログラムとは?

2015.12.21.MON 公開

人間は外界からの情報の約8割を、「目」から得るといわれる。ブラインドサッカーは、その目をアイマスクで覆い、見えない状態で行うスポーツだ。だからこそ、声のかけ合いなど仲間同士の密なコミュニケーションや信頼関係、目標に対し一丸となって挑むチームワークなどが重要になる。

こうしたブラインドサッカーの特徴を生かして行う体験型プログラムが、「OFF TIME(オフタイム)」だ。参加者はアイマスクを着けた非日常の環境のなかで、課題を与えられ、見ず知らずの仲間たちと試行錯誤するうちに、たくさんの“気づき”を得る。

講師には日本代表クラスの選手も加わり、ブラインドサッカーの肝である、音声の聞きとり方や言葉かけの効果的な方法なども伝授する。オフタイムは、単なるブラインドサッカー体験を超え、コミュニケーションや信頼関係の築き方なども学べる点からも注目されているプログラムだ。

コミュニケーションの“くせ”が見えてくる!

視覚をオフにし、言葉でコミュニケーションを図る参加者たち

プログラムは3つのパートに分かれている。最初のパートは体と心の準備運動だ。初対面同士で二人一組になりストレッチを行うのだが、ひとりがアイマスクをつけるので、講師の動きを正しく再現するには、もうひとりが分かりやすい言葉で伝えなければならない。

例えば、膝の屈伸などは名称を言えば伝わるが、腕のストレッチは名称もなく、動きも少し複雑だ。それを言葉でどう表現すべきか苦労する人が多かった。アイマスクを交代し、また別のストレッチに挑戦する。

こうして何度か繰り返し、体も頭も少し温まったところで、自己紹介タイム。「見えないことは、すごく不安」「言葉でのコミュニケーションは大切だけど難しい」など、ストレッチ体験の感想も話すことで、「オフタイムの重要なポイント」を参加者が改めて意識できる時間になっていたと思う。

2つ目は本格的に動くパートだ。全員がアイマスクをつけ、いくつかのワークを行いながら、コミュニケーション力を磨き、課題達成を目指す。例えば、「血液型で4組に分かれる」という課題では、大きな声で、「A型の人~!」と呼ぶ人やじっと動かず聞き役に徹する人など、各自のコミュニケーションの“くせ”が見えてくる。これもオフタイムの魅力のひとつだ。あとから振り返ることで自分は何が得意で何が苦手かなどに気づき、コミュニケーション上の課題を浮き彫りにする。

3つ目のパートはボールを使ったブラインドサッカー実践編だ。2組に分かれ、パスやシュートなどの課題に取り組む。チーム対抗戦なので作戦タイムも与えられ、各チームが工夫を凝らし、勝利を目指す。

ボールを使う時間が少ないように感じるかもしれないが、実はパート1や2で身につけたコミュニケーション力や信頼関係もブラインドサッカーのベースとなる重要な要素だ。アイマスクをつけていきなりボールを扱っても、恐怖心も強く、動けない人が多かっただろう。「仲間の声に従えば大丈夫」と思えるステップを踏んでいるからこそ、勇気をもってボールを追いかけることができるのだ。

ゲーム感覚で進行するプログラム
コミュニケーションの基礎を学んでからボールを蹴る

初めての人も、リピーターも。新しい自分に会える

2014年2月の初開講以来、何度も講師を務めてきた寺西一選手は、「ブラインドサッカーという激しいスポーツをもとにしているので、アイマスクをつけた参加者を『動かす』ことを意識してプログラムをつくっている。そうすることで、コミュニケーションの大切さをより強く感じてもらう」という。また、「毎回、参加者が違うので、雰囲気も変わる点もオフタイムの面白さ。リピーターでも、新鮮な体験ができる」と話す。

参加者にも感想を聞いてみた。初参加だという徳永留里香さんは仕事で体の不自由な人と関わることもあり、当事者の気持ちを理解する手がかりを求めて来たという。

「目が見えないだけで、こんなに世界が違うんだと感じたし、想像以上に大変さがあることも分かりました。そんな時に頼りになるのは周りの人の思いやりであることも分かった。今日の経験を日常生活にも生かしたいです」

度目の参加という斉藤佳子さんは、前回に比べ、コミュニケーションが難しかったという。「もしかしたら、体調の良し悪しが音声の理解力に影響するのかもしれないと思った」そうだ。

斉藤さんはまた、最近、エスカレーターの前で困っていた全盲の人と出くわしたが、声を掛け、腕をとり、ちゃんと道案内ができたという。「前回、講師の寺西さんと交流して視覚障がいの方とのコミュニケーション方法を知れたことで、積極的に声を掛けられた。『慣れ』は大事ですね」と、オフタイムの効用を話してくれた。

初めての人もリピーターも、それぞれの立場で楽しめ、新たな発見もあるオフタイム。18歳以上の社会人や大学生を対象に新宿NPO恊働推進センター(東京都新宿区高田馬場)で毎週木曜日に開かれている。興味をひかれた方はぜひ一度、ご参加を。新しい仲間とともに、「新しい自分」にも出会えるはずだ。

text by Kyoko Hoshino
photo by X-1

オフタイムの公式サイトはこちら

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