世界最強のタイと日本代表も参戦! ボッチャ「無差別級」を制したのは?

2022.04.15.FRI 公開

ボッチャの日本代表「火ノ玉JAPAN」と一般のチームが対決できる唯一の大会「ボッチャ東京カップ」。4月9日と10日に行われた大会は、東京2020パラリンピックのレガシーにするため、例年より規模を拡大して開催された。芸能人やオリンピックの金メダリストらも含めた27チームが集結。選手たちの奮闘ぶりに、東京体育館に足を運んだ観客が沸いた。

都心で気軽にパラスポーツを見に行ける! 東京体育館は最高の立地だ

著名人もボッチャに夢中!

真壁刀義らレスラー軍団による「新日本プロレス」、ハンドボール男子で東京オリンピックの日本代表主将を務めた土井レミイ杏利の「ジークスター東京」らとともに、会場を盛り上げたのが田村淳(ロンドンブーツ1号2号)のオンラインコミュニティ「大人の小学校」。

ロンドンブーツ1号2号の田村淳ら有名人もボッチャを楽しんだ

テクノロジーでプレーできる「サイバーボッチャ」を購入していて、すでにボッチャを経験済みの田村は、本格的な投球フォームを見せるも、ペナルティなどで活躍できず。悔しさをのぞかせながら、「チームメートに支えてもらった」と振り返り、ボッチャの楽しさを実感した様子だ。

「僕は運動神経がある方ではないけど、ボッチャならできる感覚がある。これからも続けたいスポーツです」
と笑顔で語り、次回以降の“リベンジ”を誓った。

タイと日本代表の豪華対戦が実現

今大会はボッチャの強豪として知られるタイ代表チームも参戦。海外チームとして初の参加チームとなった。

タイといえば、東京パラリンピックのボッチャBC1-2チーム戦で日本代表の決勝進出を阻止し、金メダルに輝いた最強チームであり、BC2個人戦で金メダルを獲得した杉村英孝とワッチャラポン・ウォンサが頂点争いをした、いわば盟友だ。

東京パラリンピック金メダルの杉村の投球は会場を沸かせた

「兄弟みたいな間柄」という両者だが、9日に行われたエキシビジョンマッチ(4エンド制)は緊張感が漂った。見どころは、クリエイティブなボッチャをするタイに、投球精度の高い日本代表が太刀打ちできるか。これまで白いジャックボールをショートレンジに置いて戦うスタイルだったタイは、ロングで日本代表の意表をついた。日本代表は選手層が厚い。1月にBC1クラスで初めて日本一になり、このエキシビジョンでチーム戦デビューした仁田原裕貴のパワフルな投球で流れをつかみ、3対2で勝利した。

昨夏の東京パラリンピックは無観客だったため、応援したくても来場できなかったボッチャファンが今大会に多数訪れた。観客が見守る中、世界トップレベルの投球技術を披露した両チーム。日本代表も杉村が白いジャックボール球にぴったり寄せる、ビッタビタのショットで観客を沸かせていた。

ロングが得意な仁田原裕貴(左)は「チームの勝利に貢献できるようがんばりたい」

試合後のインタビューで「最強のチームと東京で再戦できてうれしい」と笑顔を見せた日本代表キャプテンの杉村。東京大会以降、ルール改正でチーム戦の構成が変わったため、「もうできなくなった(男子3選手との)対戦が実現でき、エキシビジョンとはいえ勝ち切れてよかった」と感慨深げに振り返った。

今大会はインクルーシブな社会の実現を目的としているが、日本国内では今大会の実施に見られるように、障がいの有無や年齢、性別にかかわらず、誰もが参加できるユニバーサルスポーツとして裾野を広げている。健常者のボッチャのプレーヤーが増えれば、選手たちの練習相手も増え、好循環が生まれるように思うが、強豪国のタイではどうなのだろうか。

海外チームとして初の参加となったタイ代表のワッチャラポン・ウォンサ(右)

タイ代表のキャプテンで、国内で知名度も高いというウォンサは明かす。

「日本ボッチャ協会のインスタグラムをフォローしているので、日本で健常者の方もボッチャをやることを知っているし、うれしいと感じています。残念ながら、タイでは健常者の中で発展しているわけではありません。将来的にそうなるといいなと思っています」

どうやら世界ランキング1位のタイより日本のほうが健常者のプレーヤーはいるらしい。

大阪公立大学など大学生も多数参加

一方、日本では日本代表の活躍もあり、日本ボッチャ協会によると知名度は50%に迫る勢いだという。澤邉芳明代表理事が開会式で「オリンピック種目にするのが夢」と述べ、杉村も「そうなったらすごいし、うれしく思う。その実現に向けて東京カップは大事な大会になる」と話しており、日本のボッチャはパラスポーツの枠を越え、より発展させるために、新たな段階に進み始めたように感じた。

そんな中、一般チームの強豪として知られる「NECボッチャ部」が旋風を巻き起こした。決勝トーナメントの初戦でタイ代表に2対1で勝利すると、「大阪公立大学」を下したのち、「火ノ玉JAPAN B」に3対0で勝利し、4エンド制の決勝でも「火ノ玉JAPAN A」に7対1で勝利。予選リーグから全勝で初優勝を決めた。

3年前の決勝で火ノ玉JAPANに敗れ、この日、勝つために特訓してきたというNECボッチャ部。キャプテンの田村和秀は「念願がかなってうれしい」と喜び、「投げる場所をシュミレーションした上で、ヒットする人、アプローチする人、寄せる人というそれぞれの役割を決めて臨み、それがかみ合った」と勝因を語った。

NECボッチャ部は2017年に発足し、今では部員は35名に上る。毎週1回、港区で4時間、試合形式の練習を25エンド行う。そんな練習の成果もあって「今日は、重要な場面でミスをしなかった」(野津崇)。

さらに、日本のボッチャ界のレベルアップにも寄与したい考えだ。

巧みなヒットで会場を沸かせたNECボッチャ部の山本武洋

杉村率いる火ノ玉JAPAN Bとの準決勝で、いきなりジャックボールを外にはじき出すパワーショットを成功させ、会場をどよめかせた山本武洋は、「中国やタイなどヒットが得意なチームもある。日本のボッチャの技術向上のため、これからもがんばりたい」と語る。

杉村も「火ノ玉JAPANの強化のために合同練習をしたいし、個人としてもつながりを持ちたい」と話し、選手たちは互いに連絡先を交換していた。

東京パラリンピックのチーム戦で銅メダルの廣瀬隆喜

「選手たちは一般のチームに負けないと思っていたのではないか」。火ノ玉JAPANの両チームの敗因は気持ちの隙と対策不足だと指摘するのは、東京パラリンピックで金銀銅のメダルを獲得した日本代表の村上光輝監督。日本選手権の各クラス優勝者で構成された火ノ玉JAPAN Aの廣瀬隆喜は、「一般のチームのレベルが高くなり、刺激になる。今回はリモートでミーティングしたのみで合同練習はできなかった。今後、NECに勝つためにはどうしたらいいのか考えて臨む必要がある」と力を込めた。

2日間にわたりボッチャのトップ選手の攻防を多数の観客が目撃し、ABEMAの中継は最大3.8万人が視聴した

text by Asuka Senaga
photo by Haruo Wanibe

『世界最強のタイと日本代表も参戦! ボッチャ「無差別級」を制したのは?』