「パラスポーツのことを知りたい!」
そんな方、まずはここから。動画を見て、合わせてこの記事を読めば、パラスポーツの面白さがバッチリわかるはず。
今回は「車いすラグビー」編。動画に登場するのは、車いすラグビーで活躍する選手たち。日本車いすラグビー連盟の峰島靖さんの細かすぎる解説と共にお送りします!
まずは、動画をみてみよう!
今回解説いただくのはこちらの方です!
峰島 靖(みねしま・やすし)さん
みなさん、こんにちは。
車いすラグビーチーム「AXE」の背番号12番 キャプテンの峰島 靖です。
車いすラグビーを始めたのは、国立職業リハビリテーションセンターに入寮しているときに、部活動として参加したのがきっかけでした。
参加初日に強烈なタックルを受けたのですが、その衝撃に虜になってしまい、そこから現在も所属している「AXE」のメンバーとなり、選手として競技を続けながら、現在は日本車いすラグビー連盟広報委員会のメンバーとしても活動を行っています。
日本代表チームが金メダルを獲得した、パリ2024パラリンピックでは、NHKの中継で解説を務めさせていただきました。
そして、4月12日から放送が開始されるドラマ、TBS系日曜劇場「GIFT」では、各選手の所作・競技シーンの監修として携わる機会をいただき、制作に協力させていただきました。
今回は“細かすぎる解説”と紹介されちゃいましたので、好き放題に語らせていただきたいと思います! どうぞ最後までお付き合いください。よろしくお願いいたします。
タックルOK!2種類の競技用車いす
車いすラグビーは、手と足に障がいのある人がプレーするスポーツ。
2チームで対戦して点を取り合い、最後に得点が多い方が勝利する。
車いすラグビーで使う競技用車いす・通称「ラグ車」は、大きく分けて2種類ある。
ひとつは、攻撃型の車いす。
細かいターンや動きができるよう、コンパクトなつくりになっている。
主に障がいの程度が軽い(持ち点が大きい)選手が使用する攻撃型
もうひとつは、守備型の車いす。
相手の動きをブロックするため、バンパーが突き出しているのが特徴的。
主に障がいの程度が重い(持ち点が小さい)選手が使用する守備型
そして、車いすラグビーは、車いす同士でのタックルが許されている!
激しいタックルにも耐えられるように、競技用車いすは頑丈なつくりになっている。
ひっかかる部分を減らすために、タイヤにはスポークカバーが装着されているのも特徴だ。
ラグ車は強度を増すために骨格のパイプが太かったり、何本も補強パイプが入っていたりするので、車体は重たくなります。ただ、攻撃型のラグ車については、この“重さ”も実は重要なんです!
速さ×重さ=タックルの強さ となるため、軽すぎると当たり負けしてしまうんです。
世界最高プレイヤーと言われる、オーストラリア代表のライリー・バット選手がチタン製の軽いラグ車を試していた時期がありましたが、すぐに断念し、アルミ製のラグ車に戻したと言う話は、選手の間では有名なエピソードです。
ですので、選手は重たい車体を物ともせず、1試合(1時間から1時間30分)を走り切れる体力をトレーニングで身に付けているんです!
1チーム4人。選手には障がいに応じて持ち点が!
コートでプレーする選手は、1チーム4人。
選手には、0.5~3.5まで、障がいの程度に合わせた「持ち点」が与えられる。
障がいの程度が重いほど点数は低く、軽いほど高くなる。
持ち点は、0.5、1.0、1.5……と0.5刻みになっている。
そしてポイントは、コート上の選手の持ち点の合計を8.0以下で構成する、というルールがあること!これにより、障がいの程度の軽い選手だけでなく、障がいの程度が重い選手にも試合に出る機会が生まれる。
持ち点の合計の上限の中で、選手をどう組み合わせるかが、車いすラグビーの重要なポイントのひとつだ。
車いすラグビーはタックルが許されている非常に激しい競技ですが、実は男女混合競技なんです!
点数制は障がいの差だけではなく、男女の差も取り込むことができてしまいます。
障がいの軽い女子選手(3.5〜2.0)は1人につき1.0、障がいの重い女子選手(1.5〜0.5)は1人につき0.5を、チームの8.0に加算して編成することができます。
例えば、3.0の女子選手が1人入った場合、9.0まで組むことが出来るので、3.0(男子)、3.0(女子)、2.0(男子)、1.0(男子)という組み合わせも可能です!
これによって、これまでとは違ったパワーバランスの編成が生まれたり、戦術にまで影響を及ぼすかもと、未知数な可能性が秘められているんです。
現在、障がいの軽い女子選手の育成に、世界各国が力を入れて取り組んでいるので、近い将来、ゲームチェンジャーとなる女子選手が現れるかもしれません。要チェックや〜!
ラグビーボールではなく、専用のボールを使用!
車いすラグビーは屋内で行う競技。
コートの大きさは、バスケットボールのコートと同じ、28m×15m。
両側に「トライライン」があり、ボールを持った選手がこの線を越えると「トライ」となり、得点が入る。
車いす「ラグビー」という名前だが、使うボールは楕円形のラグビーボールではなく、バレーボールをもとにした専用のボールを使う。
かたちは丸く、直径は約21cmだ。
車いすラグビーのボールは、バレーボールの5号球に専用の皮を貼り付けたものになるのですが、専用の皮には非常に細かいシワが加工されていて、少し滑りにくくなっています。それによって、手に障がいのある選手が扱いやすいボールになっています。
滑りにくさはラグ車を漕ぐ時にも重要です! 怪我を防止すると言う目的もありますが、選手は必ずグローブを使用しています。手のひらの全面がゴムで加工されたグローブを使用し、その摩擦力でラグ車を漕いでいます。
選手によっては、ゴムの摩擦力だけでは足りず、固形タイプの松ヤニをグローブやタイヤに塗り込んで、強力な粘着力を味方にパフォーマンスを上げていたりもします。
なので、グローブをした選手と不用意に握手をしてしまうと、手がベタベタになる危険性があるので、お気を付けください(笑)。
ボールをもってトライラインを越えれば、トライ!
いよいよ試合開始!
試合は、8分間の「ピリオド」を4回行う。第4ピリオドが終わって同点の場合は、勝負が決まるまで3分間の延長戦を繰り返す。
最初はレフェリーのトスからスタート。
「トライ」により得点を重ねていく車いすラグビー。
オフェンス側の選手は、40秒以内にトライをしなければならない。
また、ボールを持っている選手は、8秒以内に1回ドリブルをするか、味方にパスをしなければ反則となり、相手にボールの所有権が移ってしまう。
オフェンスはトライラインを目指して、ボールを持って車いすを漕ぎ、ディフェンスを抜いたり、パスをつないだりしながら、前へ前へとボールを運び得点を目指す。
ディフェンスはボールを奪ったり、相手をブロックし攻撃を時間切れにさせたりして、得点を防ごうとする。
ボールをもった赤チームが、前にいる味方へパス!
健常のラグビーでは、ボールを前に投げることは反則になる。
しかし、車いすラグビーでは反則にはならない。
ボールをもらった選手がドリブルしてボールを運び……
さらに前方にいた選手へパス!
ボールをキャッチした選手が、トライラインを越えて、見事トライ!
車いすには実は車輪が6つあるのだが、前方の小さなキャスターと大車輪の4輪のうち、2輪がトライライン上に達するか、通過することでトライとなる。
1つのトライにつき、1点が入る。
ちなみに、後方の小さなキャスターは「転倒防止用キャスター」と呼ばれていて、プレーにはカウントされないタイヤなのだ。
スピーディーな点の取り合い。ロングパスによる速攻も!
得点が入った後は、得点をとられた側のチームの攻撃でプレー再開。
ボールをもった青チームは、ハイポインターの選手にボールを渡して……ロングパス!
高く上がったボールを追いかけて、赤チームはパスを防ごうと、青チームはパスを取ろうと、激しく競り合って……
青チームの選手が見事にキャッチし、トライ!
こうした速攻を繰り出すことも。
激しい攻防の中で、スピード感と緊張感に溢れたプレーが繰り広げられる!
車いすラグビーでは、各選手のパフォーマンスや役割によって、コートにいる4名をNo.1からNo.4のナンバーで認識し合い、戦術などを共有しています。
基本的にNo.1プレーヤーはそのメンバーの中でパフォーマンスが高く、ボールや試合をコントロールする役割を担っています。
オフェンス側のチームに注目する時は、まずはNo.1プレーヤーが誰なのか予想しながら、観戦してみてください!
得点を挙げる要になっていたり、ピンチの時に打開するプレーを見せてくれたり、迫力のあるプレーを追うことができると思います。
逆に、ディフェンス側のチームに注目する時は、個人のプレーヤーよりも全体を見ることが出来るようになると良いですね。
ディフェンスは連携力が要となるので、ボールを持っている選手にプレッシャーがかかった時、“他のプレイヤーがいかにパスコースを抑えているか” を見れるようになってきたら観戦上級者ですよ〜。
もうひとつ大事なのが時間です。トライを取らせない粘りのディフェンスが続いたら、すかさず40秒計をチェックしてください!このタイマーが0になったらディフェンス成功!ターンオーバーとなります。
40秒計をチェックできるようになって、タイムリミットが迫るギリギリの攻防をお見逃しなく!
選手もスタッフも、チームで協力!
激しいぶつかり合いが繰り広げられる車いすラグビーでは、試合中にタイヤがパンクすることもある。
パンクした選手はタイムアウトを要求し、それをレフェリーが認めるとプレーが中断され、メカニックのスタッフがタイヤを交換する。メカニックは、車いすラグビーに欠かせない存在だ。
試合中の選手交代は何回でもできる。選手交代には、試合の中で戦術を変えるためにメンバー変更をしたり、期間の長い大会の中ではスタミナを温存させるなど、さまざまな意図がある。まさにチーム一丸となって戦っているのだ。
自転車のタイヤを細い金属で思い切り叩いたらパンクしますよね?
車いすラグビーのタイヤは、基本的な構造は自転車のタイヤと同じなので、コート上ではそんなことが繰り広げられているんです。非常に激しくぶつかり合う中でパンクは日常茶飯事です。
選手も予備のタイヤを2本は持っていますが、それを超えるパンクが起きてしまうことも稀にあります。それでも選手がプレーを続行できるように、メカニックは尋常じゃないスピードでパンク修理を完遂してくれます。それ以外にも、ラグ車の不調からセッティングから、ラグ車に関わることなら、何から何まで相談に乗って最適解に導いてくれるのがメカニックなんです。
メカニック以外にも選手を支えるメンバーがいます。その中でも試合の勝ち負けを左右する役割を担っているのがヘッドコーチです。
選手の編成や交代するタイミングはとても重要で、選手の体力温存を計算しつつ、相手チームのメンバー交代に対して、即座に対抗できる編成に組み換える対応力や統率力も求められます。
そして、トレーナーの存在も欠かせません。障がいの種類や程度も違う選手は、コンディションの整え方もそれぞれ違います。その一人ひとりのコンディションに合わせ、適切なサポートをしてくれています。
例えば自律神経の失調により汗がかけない選手には、霧吹の用意やこまめなアイシングを施したり、筋疲労のケアから怪我の治療、コート外では栄養管理のアドバイス、アンチドーピングのサポートまで多岐に渡ります。
その他にも、様々なメンバーがチームを支え、その力を受けて戦っているのがチームスポーツであり、車いすラグビーなのです!
相手をブロックして味方をサポート!
プレーの中では、ボールをもっていない選手が大きく貢献することも!
ボールをもった赤チームの選手が前に進むのを防ごうと、青チームの選手がぴったりついているところ……
赤チームの別の選手が前に出てきて、青チームの選手をブロック!
激しくぶつかったが、ボールをもった赤チームの選手が進む道ができた!
空いた進路をぐんぐん駆け抜けて……
悠々とトライ!
連携の中で光る、献身的なプレーにも注目だ。
No.1プレイヤーの動きが追えるようになってきたら、ステップアップして、特に守備型のラグ車に乗るローポインター(障がいの重い選手)に注目してみましょう!
ローポインターは障がいの重さゆえ、ハイポインター(障がいの軽い選手)と比べると、トップスピードは劣りますが、先を読む力が群を抜いています。
ボーラー(ボールを運んでいる選手)の進む先、それを追うディフェンスの動きを予測してコースに割って入り、身を挺してボーラーをトライに導く!そんな姿を幾度となく目撃することでしょう。
そうしたローポインターのプレーを理解し、信頼しているからこそ生まれる連携プレーが車いすラグビーの真髄ではないかと思います。
ハイポインター、ミドルポインター、ローポインターがそれぞれの強みを生かし、たった4人ですが、コートを広く使い、それを支配できる連携力を持ったチームはプレーが美しいんですよね〜。
ときに転倒するほどの激しさ。大迫力のタックル!
たくさん見どころのある車いすラグビーの中でも、なんといっても注目はタックル!
競技用車いすがぶつかり合うと、「バン!」と大きな音が会場に響き渡る!
激しいタックルで、選手が転倒してしまうことも。
完全に転倒した場合、自力で起き上がることは禁止されているので、チームのスタッフがコートに出てきて、選手を起こす。選手を起こすときには、床を傷つけないよう、マットを使用する。
激しいタックルをものともせず、選手は勝利を目指してプレーを続ける。
前に進もうとし、それを防ごうとし、ぶつかり合う姿は、まさに「ラグビー」だ!
タックルの衝撃や衝突音の凄まじさは、ぜひ会場で体感してみてください。不意にその衝突音に見舞われた際は、思わず体が硬直するほどの迫力があります!
当の本人たちは、そのタックルの衝撃がやみつきにさせる要因だと言ってのけます。私もその1人ですが、試合中のハイなテンションの中で、相手を吹き飛ばすこともあれば、その逆もあって、互いの全身全霊をぶつけ合うことができる。それが僕たちにとってのタックルなんだと思います。
普段の日常生活用の車いすでは、ちょっとした段差で転倒してしまうこともあれば、人やものにぶつからないように、常に気をつけながら生活をしている。そこから一気に解放される空間が車いすラグビーのコートなんだと話してくれた選手もいました。
大会によっては、ラグ車の乗車体験を実施していることもあります。体験会ではもれなくタックルを体験することができると思いますので、ぜひ臆せずにデトックスだと思って参加してみてください(笑)。
車いすラグビーの面白さをもっと味わおう!
大迫力の試合を観れば、一気に惹き込まれること間違いなし!
2026年4月からは、車いすラグビーのテレビドラマもスタート。
もっと車いすラグビーについて調べて、体験して、試合もみてみよう!
車いすラグビーは点数制などのルールや、攻撃型・守備型と言う車いすのレギュレーションによって、障がいの違い、障がいの重さの違い、男女の違いを包括して、同じコートで戦うことができる競技です。そして、ここで重要なのが、全てのプレイヤーが全力で挑める競技だということです。
障がいの軽い選手が障がいの重い選手に合わせて、力を抜いてあげるなんていう世界ではないのです。そんなことをしたら、確実に狩られる側になります。
メンバーそれぞれのパフォーマンスを理解し、尊重し、連携することでチームとして力を発揮する。そして、ライバルのチームたちと全力でぶつかり合う。
それを体現しているスポーツが車いすラグビーなんです!
タックルの迫力、タイムコントロールをする選手の冷静さ、戦略の緻密さ、ルールの奥深さ、全力で挑む人の凛々しさ。挙げていけばキリがないほど魅力の詰まったスポーツだと自負しております。
そんな車いすラグビーをぜひ会場で観戦いただき、生の迫力を体感いただきたいと思っています。
1人でも多くの方が、心を掴まれてファンになっていただけるよう、選手を筆頭にチームメンバー、連盟スタッフも含めて、全力のプレーでお迎えいたします!
<ご出演いただいた皆さま、ありがとうございました!(50音順・敬称略)>
選手:池崎大輔、今井友明、壁谷知茂、岸光太郎、島川慎一、乗松隆由、横森史也、若山英史
レフェリー:加藤いずみ、中村奈津美、早田佑佳子
メカニック:川﨑芳英、三山慧
もっと知りたい方はこちらもどうぞ!
text by parasapo