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Sports /競技を知る
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車いすラグビーを題材にした日曜劇場『GIFT』はこうして作られた! 平野俊一監督が明かす舞台裏

「宇宙物理学者×車いすラグビー」という異色の設定と、豪華キャストが話題のドラマ『GIFT』(TBS系)。これまでにないリアリティを追求したパラスポーツ・人間ドラマはいかにして生まれたのか。企画・原案・演出の平野俊一監督を直撃し、車いすラグビーとの出会いや作品に込めた熱い思い、撮影の舞台裏を詳しく聞いた。
企画をつなぎ止めた一枚のチラシ
『GIFT』は、原作なしの完全オリジナル作品として、ゼロから練り上げられたドラマだ。どのようなきっかけでドラマ化に至ったのだろうか。
平野俊一監督(以下、平野監督):初めて車いすラグビーを題材にしたドラマの企画を出したのは、2018年のことでした。東京2020パラリンピックを控えていた時期で、パラスポーツを題材にドラマを作りたいと思ったのがきっかけです。
後から知ったのですが、TBSではちょうど翌年に、ラグビーを題材にした池井戸潤さん原作のドラマ『ノーサイド・ゲーム』の放送を控えていたこともあり、そのときは残念ながらドラマ化は叶いませんでした。
福山雅治主演の『ラストマンー全盲の捜査官ー』シリーズなど、数々のヒット作を世に送り出してきた平野監督。そんな彼にとっても、車いすラグビーを本格的に描くことは大きな挑戦だった。一度は消えかけた企画が、再び動き出したきっかけは何だったのか。
平野監督:新型コロナウイルスの感染拡大により東京2020大会も延期になり、「もうドラマ化の機会はないだろうな」と思っていました。ところが、ある日小学生の息子が学校から一枚のチラシをもらってきたんです。それは『渋谷区長杯車いすラグビー大会』の観戦を呼びかけるものでした。
ちょうどTBSからも「また車いすラグビーの企画を出してみたら?」と言われていた時期でもあり、実際に会場へ足を運びました。そこで改めて感じた、胸に迫るような“エモさ”をどうにかしてドラマ化したい、もう一回挑戦してみようと、改めて火がつきましたね。
その後、正式にドラマ化が決定。日本代表がパリ2024パラリンピックを控える中、選手たちには企画を伏せた状態で、2024年初頭から緻密な取材が開始された。
平野監督:日本選手権や地域予選、国際親善試合、合宿など、あらゆる現場に足を運びました。そこで日本車いすラグビー連盟の皆さんにさまざまなお話を伺いながら、物語を構築していったんです。
たとえば第1話で、山田裕貴さん演じる宮下涼の日常が出てきます。涼のお母さんは、実際にいらっしゃるある選手の明るいお母さんをイメージしました。また、事故後にキッチンをリフォームして調理台を低くしたというエピソードなども、取材で聞いたお話をそのまま取り入れています。
不自由を強調したくなかった
数々の話題作を手がけてきた平野監督にとっても、ともすれば重いテーマとして捉えられがちなパラスポーツを題材に据えることは、大きな挑戦であったはずだ。とりわけ車いすラグビーの醍醐味であり、同時に理解の難所でもある「障がい別のクラス分け」をいかに映像へと落とし込んだのか。
平野監督:本作では、最初からクラス分けなどの複雑なルールを説明したり、障がいを強調したりすることは避けています。まずは純粋にスポーツとして、そして人間ドラマとして楽しんでもらいたいと考えたからです。
序盤は、車いすアスリートと主人公の伍鉄さん(堤真一さん演じる宇宙物理学者)、そしてアスリート同士のぶつかり合いにフォーカスしました。物語が進む中で、ふとした瞬間に、四肢障がいゆえの不自由さが見えてくる。そうした構成にすることで、自然にキャラクターの過去や現在を見せて感情移入してもらえるのではないかと考えたのです。
平野監督が何よりも重きを置いたのは、あくまで「スポーツ」として描くことだった。
平野監督:障がいの経緯を描くのは、あくまで物語に必要な最小限に留めています。「苦難を乗り越えてアスリートへ」というステレオタイプな構成にするイメージは、最初から毛頭ありませんでした。
根底にあるのは、私自身がまず一ファンとしてこの競技に魅了されたという事実です。タックルの衝撃や洗練されたチェアスキル。そうした純粋なスポーツとしての凄みこそが、この作品の入り口であってほしいと考えました。
学生時代はラグビーに熱中していたという平野監督だが、当初は、芝の上のラグビーとは外見もルールも異なる車いすラグビーに対し、戸惑いもあったという。
平野監督:屋外ではなく屋内で行うし、ラグビーなのにスクラムがない。でもタックルはある。だからラグビーなのか!と。車いすラグビーのルールは、アイスホッケー、アメフト、バスケットなど、いろんなスポーツの要素を取り入れているんだなと思って。考えた人すごいなと思いましたね。
車いすラグビー日本代表はパリで見事金メダルに輝いたが、世間一般にはまだ競技特性が広く認知されているとは言い難い。選手たちも、このドラマを通じて競技の名前とその魅力が浸透することを切に願っている。平野監督の目には、この競技のどんな点が魅力的に映ったのだろうか。
平野監督:手に障がいがないと試合に出場できない、というルールを知ったのは大きかったですね。プレーを見ている最中は全くそれを感じさせないのですが、よく見ると手にも障がいがある。そこには大きな気づきがありました。
障がいの程度に応じたクラス分けがあり、コート上の合計を8点以内に収めなければならない……そこまで緻密に考えられているんですよね。当然、ラグ車の種類も違えば、それを支えるメカニックのスタッフもいる。転倒した選手の元へメカニックが駆け寄る姿を見たときは、「これはF1だな」と直感しました。
そうやって知れば知るほど、興味が尽きなくなっていったんです。今はもっと詳しくなりたくて、審判の資格を取りたいと思っているほどです(笑)
リアリティを追求した役者たちの所作は、車いすラグビー関係者が唸るほどの完成度だ。
平野監督:スポーツとしての醍醐味を描く一方で、試合の合間や終了後に、競技用から日常用の車いすに乗り換えたり、ドリンクを飲んだりする際に見える不自由さもしっかり描かなければならないと考えました。そこは実際の選手の動画を参考にしたり、連盟の皆さんに演技指導をしていただいたりして突き詰めていきました。
また、撮影前から選手と一緒に練習を重ねたのですが、ローポインター役の役者はローポインターの選手と、ハイポインター役の役者はハイポインターの選手とお弁当を囲む中で、フォークの持ち方ひとつ取っても、実際に見聞きして演技できるようにしていきました。そうした選手との交流を通じて、役者自身がキャラクターを完成させていったプロセスも非常に良かったと感じています。
劇中には、伍鉄がコーチを務める『ブレイズブルズ』のローポインター、君島キャサリン秋子のプレー中の目線も描かれている。
平野監督:日本代表の倉橋香衣選手がパリパラリンピックで、オーストラリアの最強選手ライリー・バット選手を止めたシーンをヒントにしています。女性のローポインターが、あの屈強な選手を止める……テレビで見ていて、思わず感動しちゃいましたね。
おかげで今は、最初とは全然試合の見方が変わってしまって。ボールを追うのではなく、ローポインターの動きばかりを目で追っているんですよ(笑)
平野監督:まずは車いすラグビーを知っていただきたいというのが一つ。もう一つは、2回、3回と繰り返し見ることで、一つひとつのセリフの意味が初見時とは違って感じられるはずなので、そこに注目してほしいですね。
たとえば第1話で、常勝チーム『シャークヘッド』の監督が「絶対に勝てません」と叫ぶシーン。何度か見ると、それが自分に向けられた言葉に聞こえたり、あるいは社会全体のことを指しているように感じられたりするかもしれません。
性別や国籍、障がいの有無、年齢……そうした違いを越えて、全員が一つのチームになって戦っていく姿を描いています。これからの日本において「共生」という意識は不可欠ですが、キャラクターたちのやり取りを通じて、未来の日本を自然に考えるきっかけになれば嬉しいです。そういう意味でも、ぜひ“おかわり”して何度も楽しんでほしいですね。
text by Asuka Senaga
photo by Michi Murakami