【共に戦うパラスポーツギア】激しくぶつかり合う車いすラグビー、激闘を支えるタフな<ラグ車>の存在

【共に戦うパラスポーツギア】激しくぶつかり合う車いすラグビー、激闘を支えるタフな<ラグ車>の存在
2026.05.29.FRI 公開

パラスポーツの土台には、「失われたものを数えるな。残されたものを最大限に活かせ」という“パラリンピックの父”の教えがあります。そこで重要な役割を果たすのが用具。ときに選手の身体の一部ともなって、最高のパフォーマンスを引き出す力になります。今回は激しいタックルの応酬にも耐えられる、車いすラグビーの競技用車いす「ラグ車」を深堀りします。


激しい衝突に耐えるタフな作り

車いす同士の激しいタックルが許されている車いすラグビー。競技で用いられる車いすは「ラグ車」と呼ばれ、ほかのどの競技とも違う独自の進化を遂げています。その特徴は一言でいえばタフであること。パラリンピック競技の中でも唯一車いす同士のぶつかり合いが許されているので、その衝撃に耐えられるだけの強度と耐久性を持った作りになっているのです。

選手が用意する用具の例
ラグ車
グローブ:手に障がいのある選手が車いすを操るため、滑り止めのついた軍手のようなものを使用します。
・体とラグ車を固定するベルトテーピングテープなど。

ラグ車には攻撃型と守備型がありますが、写真は攻撃型。小回りが利いて相手のタックルをすり抜けやすいコンパクトな作りになっていることと、ウィングと呼ばれる装備が特徴です。

競技で使われる車いすには小回りが利く攻撃型と、相手の動きを封じるためにバンパー(突き出た金属製のパーツ)が装着された守備型の2種類があります。攻撃型は主に障がいの程度が軽い選手(持ち点が大きい=ハイポインター)が、守備型は障がいの程度が重い選手(持ち点が小さい=ローポインター)が使用します。

攻撃型(右)と守備型があり、見た目も大きく違います

共通するのは金属パイプを組み合わせた強固な作りになっていること。素材はアルミが主流ですが、パイプ同士を溶接すると熱の影響でもろくなってしまう部分が発生するため、溶接が終わった後に全体を釜に入れて熱を加え、その後に冷やすという工程が取られています。そうすることでアルミの組織が一定になり、全体の強度が増すためです。

溶接部にはパイプよりも強度のある素材が用いられます。熱を加える工程を終えたことを示すステッカーが貼られています

もっと詳しく
ラグ車の価格は素材によって異なり、熱処理を加えていないアルミ製で80万円くらい。熱処理済みは110〜120万円程度になります。チタン製になると150万円を超えることも。チタン製は軽いことがメリットで、障がいの程度が重いローポインターの選手に選ばれています。逆に車体が軽いと当たり負けしやすいため、障がいの程度が軽いハイポインターの選手でチタン製でプレーしている人はほとんどいません。

形は無限! こだわりの詰まったバンパー

激しいぶつかり合いによるパンクに備え、タイヤをすぐその場で取り外せるようになっているのもラグ車の特徴です。車軸の部分を押すことで簡単に着脱ができ、片輪を外した状態でも走行することが可能です。車体の後方にも、転倒を防止するためのキャスターが装備されているためです。

片輪を外した状態のラグ車。前後ともに小径のキャスターが付いているので、この状態でも走行できます

ラグ車を見たとき、真っ先に目が行くのは守備型の車いすに付いているバンパーでしょう。この部分にも多くの工夫が凝らされています。まず、素材は激しくコンタクトする部分なので、丈夫な鉄製。ただ、鉄は重くなってしまうデメリットもあります。サイズや形状については、高さや幅などの規定がありますが、相手の車いすにひっかけて止められるように先端は選手のオーダーに合わせた形状で、ひとつずつハンドメードされています。

複雑な造形となっている守備型のバンパー。選手ごとにフルオーダーで作られています

攻撃側のウィングの部分にひっかけるため、高さはどれくらいで角度は何度にしようというように細かい部分までオーダーして作られます。「あのチームの、あの選手を止めるために」というレベルで煮詰めていくので、形状は無限に存在するとも言えるほど。逆にひっかけたくないときにひっかかってしまわないように、先端の広がった部分を付けない選手もいます。

このように相手選手の車いすにひっかけて止めたり、押して車いすを回したりするような使い方をします

日本製のパーツも

ラグ車を作っているメーカーは世界でも4〜5社程度。圧倒的なシェアNo.1はニュージーランドの会社で、日本製はありません。選手それぞれの要望を細かく聞き、それに対応したものを作ってくれることと、前に書いたように熱処理を自社でできることが強みです。

とはいえ、パーツで見ると実は日本製のものも少なくありません。例えば車輪の外側に付くスポークガード。激しい接触の中でスポークが折れることを防ぐパーツなので強度が必要ですが、重くなるのも避けたいので、強度があって軽いものを日本独自で開発しました。東京2020パラリンピックに向けて秘密で開発されたものですが、今は海外に向けても販売されています。

ホイールの外側に装備されたカーボン調のスポークガード。実は日本で開発・製造されたものです

アルミ製のハンドリム(手でホイールを回す部分)も、日本で独自開発したものです。強度が落ちる原因となるつなぎ目を減らし、スポークガードを装着する部分まで押し出し製法で作っているため、強度があって潰れにくいのが特徴。こちらも、現在はスポークガードと合わせて海外にも販売しています。

もうひとつ、東京パラリンピックに向けて開発されたのがキャスター。転がり抵抗を極力抑えるために尖った形状とし、硬さも最適な素材を選んでいます。硬すぎると抵抗は少ないが割れやすくなるためです。大学の研究室で潰す試験を繰り返して生まれたもので、東京大会のレガシーのひとつと言えます。現在では他の車いす競技でも使われるようになりました。

多くの種類のキャスターを潰す実験を繰り返し、誕生した理想の硬さと形状を追求したキャスター

教えてくれた人

三山 慧(みやま・けい)
日本車いすラグビー連盟強化部メカニック。2008年の北京大会から東京大会までパラリンピック4大会連続で日本代表に帯同。現在は各種車いすの販売や修理などを手がける会社K3代表。「日本製パーツ開発にも関わりましたが、細かい部分のこだわりは日本ならではだと思います。そのパーツを世界中で使ってもらって、競技のレベルが上がったらうれしいですね」


text by TEAM A
photo by Atsushi Mihara

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