「地方だから無理」を信じない。元Jリーガー・ガイナーレ鳥取社長が語る“地域を変える力”

鳥取県をホームタウンとするプロサッカークラブ・ガイナーレ鳥取が、地元で廃校となった小学校を中学・高校年代のアカデミー生の活動拠点として活用している。前編ではその実現までの軌跡を紹介した。しかし、構想は単なる廃校復活にとどまらない。
後編では、地元の認知度100%のサッカークラブチームが、地域を活気づけるために考えている未来について、ガイナーレ鳥取の運営会社である株式会社SC鳥取・代表取締役社長の塚野真樹氏に伺った。
廃校が生まれ変わり、地域に広がり始めた好循環
今日はできなくても明日にはできるかもしれない、来年はもっと上のレベルにまで達しているはずだ……。そんなスポーツマインドの下に進んだ結果、廃校を利用した“ガイナーレ誠道アカデミー”は2025年4月に無事開所された。現在15名がここで生活をし、日々練習に励んでいる。
「目の前が天然芝のグラウンドですから、メンバーは大好きなサッカーに思う存分打ち込むことができて楽しそうです。近くに境港公共マリーナという、セーリングの世界大会も行われるようなマリーナがあって、先日は日本セーリング連盟さんがそこを利用する際に、“ガイナーレ誠道アカデミー”にゲスト宿泊してくれました。『教室を改装してベッドは二段ベッドと、どこにでもある宿泊施設と変わりありません。ただし食事は、地元の食材が豊富なので美味しいですよ、こんなところでよろしければ』と言ったところ喜んでいただけたようで、リピートしてもらっています」
ガイナーレ鳥取なら、廃校活用を任せてもいいだろうと首を縦に振ってくれた地元の人の反応も上々なのだという。
「グラウンドが天然芝で綺麗になっていいねと言って立ち寄ってこられる方も多いですね。不思議なことに、芝生には人が自然と集まってくるのです。練習などで使用している時以外は、ルールはきちんと守った上で地域の方に使用していただいて構わないと申し上げています」
本当の地域密着とは? 地元に愛されるクラブの姿勢
ガイナーレ鳥取は、Jリーグのクラブの活動の中から特に社会に幅広く共有したい活動を表彰する“Jリーグシャレン!アウォーズ”を2020年度から2023年度まで4年連続で受賞している。塚野氏の言葉にもあるように、何事に対しても諦めることなく前に進んできた結果と言えるだろう。
「僕は変わった社長なのだと思います。サッカーのことじゃなくて、境港市や芝生の話ばかりしていますから。もちろんサッカーも大事ですが、地域のみなさんにとっていいクラブになることが最も重要。サッカーに興味がない人にも“ガイナーレ鳥取があってよかったね”と言ってもらわないと、本当の意味での地域密着にはならないのです。頭を下げてお願いしますと言って他県から来てもらっても、本当の意味での交流人口にはなりません。“ガイナーレ鳥取と付き合うと気持ちいい。周りのみんなも楽しそうにしてるね”と言っていただきたいのです」
可能性の広がりは「自分でブレーキを外す」ことから始まる
人口が減り活気を失っていく地域の現状を見て、ここには何もないから仕方ないのだと諦める人は少なくない。しかしそれは、自分で自身の身体のサイドブレーキを引いて行動を制限し、色眼鏡をかけて、地元の魅力をきちんと見ようとしないからだと塚野氏は語る。
「スポーツでは、強くなるために筋トレを行うことがあります。タンパク質を摂って筋肉をつけ、ベンチプレスで筋肉を大きくする。それで筋力はつきますが、実は筋肉は通常持っている能力の3割程度しか使っていないそうです。“火事場の馬鹿力”という言葉があるように、いざというときには100%の力を発揮しますが、そうすると筋肉自体がボロボロに痛んでしまうので、普段は自らブレーキをかけている。でも、スポーツをやっていると、サイドブレーキを下ろして思いもよらないような好プレーができることがあります。ものすごく感動するし、気持ちいい瞬間ですが、結局サイドブレーキを上げているのは自分なのだと知る瞬間でもある。こんな地方では人を呼ぶことができない、自分には何かを変える力などないとみなさんはおっしゃいますが、そう言ってサイドブレーキを上げているのは自分、そのブレーキを下ろすことができるのも自分なのです」
次なる“地域を動かす構想”。弓ヶ浜半島全域を視野に
今、塚野氏の頭の中には街を活気づけるための次の構想が既にイメージされている。“ガイナーレ誠道アカデミー”には天然芝のグラウンドが1つと宿泊施設があり、近隣のYAJINスタジアムには天然芝のピッチが2面。これらは幅4キロ、長さ20キロの弓ヶ浜半島に点在しており、半島の先端には“水木しげるロード”があって多数の観光客が訪れる。そして、鉄道のJR堺線がこの地と米子市を結び、両端に観光地があるという構図だ。
「この近くには、サッカーの強い米子北高校があって、アカデミーも練習試合をするなど仲良くしてもらっています。サッカーをしている子たちはスポーツマンらしく颯爽としていて格好いい。うちのユースチームと、米子北高校、境高校を合わせればサッカーに携わる生徒は総勢200人ほどになります。こういう子たちが鉄道や自転車で元気にあっちこっち移動したりしてキラキラ輝いていたら、面白いですよね。周囲を見回してみれば、キラキラしているものはたくさんあります。そんな地域に魅力を感じ、楽しそうだと思ってここにやって来た人には、折りたたみ自転車を用意して廻ってもらったら、それだけで地域が活性化すると思うのです。これこそ本当の交流人口の増加に繋がるのではないでしょうか」
“さかなと鬼太郎の街”として知られる境港市は、江戸時代中期から明治初期まで伯州綿という綿の一大産地だったため貿易も盛んだった。そんな歴史的背景もあってか、境港の人々は外から来た人に対して非常にオープンなのだそう。
「“ガイナーレ誠道アカデミー”から車で3分のところには、米子鬼太郎空港があり羽田のほか、香港、ソウル、台湾と飛行機の便が行き来している。これからは海外とのつながりも求めていきたいと考えています」
「自分は“らしくない”クラブチームの社長だ」と塚野氏は語ったが、その胸にしっかりと根ざすスポーツマインドこそ、“地域のため”を第一に考え、ブレること無く社会を変える大きな原動力となっているのだろう。廃校活用から始まった地域のための取り組みは、もったいないからといったリサイクル的な活動にとどまらず、その先を見据えたプラスアルファの広がりを見せている。サイドブレーキを上げるのも下ろすのも自分だという言葉が、深く心に残った。
PROFILE 塚野真樹
1970年10月、鳥取県米子市生まれ。早稲田大学を卒業後、本田技研工業サッカー部を経て1995年にヴィッセル神戸入団。1997年のJリーグ昇格で鳥取県出身者初のJリーガーに。2007年、ガイナーレ鳥取の運営会社「SC鳥取」の社長に就任。
text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
写真提供:ガイナーレ鳥取