「仕事のミスを引きずる日もある」フジテレビ社員でラクロス女子日本代表。藤田瑠奈が「どちらも諦めない」と決めた理由

平日はフジテレビ社員として働き、夜と週末は日本代表選手として、足にあざをつくりながらゴールを守る。
ラクロス女子日本代表の主将・藤田瑠奈選手は、仕事か競技か、その二択を選ばなかった。
2026年には日清食品 2026 WORLD LACROSSE 女子世界選手権大会が東京で開催され、2028年にはロサンゼルスオリンピックで6人制の「SIXES」が正式競技として実施されるなど、ラクロスは今注目を集めている。
大学から競技を始め、日本代表まで上り詰めた藤田選手が選んだのは「どちらかを諦める」のではなく、「どちらも続ける」という道だった。
仕事も競技も続けることで見えてきた景色とは。藤田選手に、その思いを聞いた。
「大学から始めても日本一になれる」その一言で始まった
藤田選手がラクロスと出会ったのは、慶應義塾大学に入学したときの新入生を対象とした部活動の勧誘、いわゆる「新歓」だった。
「(ラクロス部の)先輩に声をかけていただいて、部室でビデオを見せてもらったんです。その時に『大学生から始めても日本一になれる競技だよ』と言われて。私はそれをうのみにして(笑)。その後に実際にクロスを持った体験会ではすごく楽しかったので、そのまま入部しました」
中学まではソフトボールをしていたが、ラクロスとはプレースタイルも全く違う。
「ソフトボールでは、打つときも守備をするときも止まっている状態から動くことが多いんです。でもラクロスは、バスケやサッカーと似ていて動き続けなくてはいけない。経験者なら感覚でできることが、私には全然分からなくて。映像を見ないと理解できないことが多々ありました」
最初はフィールドの選手として始めたが、途中でゴーリーへと転向した。
本人いわくゴーリーに選ばれた理由は、ソフトボール経験が大きかったという。
「ソフトボールではキャッチャーをやっていたので、怖がらずにボールに向かって行けるところが見られていたのかなと思います。キャッチャーって体に当ててでも止めることがあるじゃないですか。そこはゴーリーと近かったのかもしれません」
とはいえ、最初から楽しかったわけではない。
「ゴーリーはシュートのボールが体に当たることがしょっちゅうあります。最初は痛いとか怖いという感情の方が大きくて。足はあざだらけになるし、なんて大変なんだろうと思うことがありました」
それでも少しずつ変わっていった。
「クロスがうまく出せるようになったり、上手い先輩のシュートを止められるようになったりすると、体のどこかに当たってでも止めてやる、みたいな気持ちに変わっていきました。褒めてもらったり、小さな成功を積み重ねたりすることで、だんだん楽しくなっていったんです」
屈託のない笑顔やチームを大きな声で盛り上げるキャプテンシー(チームを統率していく力)を見ていると、藤田選手はなんでも積極的に行動する性格かと思いきや、自分の性格を「そうではない」と話す。
「保守的な方だと思います。初めてやることは結構慎重で、考えてからやる方です。でも負けず嫌いなので、相手に勝てるようになると気持ちも乗ってきますね」
ゴーリーの面白さも、そこにあるという。
「ラクロスは、基本的にゴールしやすいスポーツです。でも、あえて『ここに打ってこい』という感じでコースを開けて、そこを止める。そういう駆け引きがうまくいったりすることで、どんどん楽しくなっていきました」
「会社員だから諦める」は選択肢になかった
藤田選手は現在、フジテレビの報道局に勤務している。
「将来的には記者やプロデューサーになりたいという思いがあります。テレビ局を選んだのも、社会を良くしたいという気持ちがあったからです」
平日は会社員として働き、仕事後や週末に練習へ向かう生活は決して簡単ではない。けれども日本代表として世界を目指すことを続けて行きたいと話す。そのために日本代表としての活動が本格化する際に会社と相談し、競技との両立をしやすいバックオフィスで働いているという。
藤田選手にとって、仕事は競技の妨げではない。むしろ別の視点を与えてくれるものでもある。週末にラクロスをすることで、仕事の失敗を切り替えられることもある。
「仕事でミスしたことを夜まで引きずることもあります。でもラクロスの時はラクロスだけを考えて練習をするので、良い気分転換になっています。すごく集中力を使うし、疲労もあるけれど、また仕事を頑張れる状態になるのは大きいです」
また、仕事の中でも、ラクロスで培った姿勢が活きていると感じることもあるという。
「私は多分、見て真似るのがすごく苦手なんです。教えられた動きも、すぐにはできないことが多い。だから独学というほどかっこいいものではないんですけど、目の前の人にどう対応するのが良いか、自分で探す感覚に近いです。ゴーリーのシュートコースの駆け引きと似ているかもしれません」
仕事とラクロス、どちらもあるから今の自分がある。藤田選手の姿からは、そんな実感が伝わってくる。
ゴールを守るだけじゃない。主将としてチームを導く
ゴーリーは最後の砦だ。自分が止めなければ点が入る。世界の強豪国と対戦すれば、セーブできる本数は限られる。だからこそ、メンタルの保ち方が問われる。
「全部を止めるのは無理なんです。これは入ってしまうシュートで、これは止めるべきシュート。その見極めをどれだけできるか。全部自分の責任だと思いすぎると苦しくなるので、どこを改善するかが大事になります」
日本の強みは、個の強さだけではなく、チームの規律にあるという。
「アメリカやカナダ、オーストラリアといった強いチームは個の力がすごいんですけど、日本は攻守において連携することが強みです」
その「規律」は、藤田選手自身が慶應義塾大学のラクロス部で学んだことが大きいという。
「私は帰国子女で高校までブラジルに住んでいました。その影響もあって時間を守るとか、基本的なことに対する感覚が日本とは全然違っていたんです」
大学のラクロス部に入った時もそのことで同期や先輩に何度も怒られたという。
「最初に教わったのは『時間を守ったり忘れ物をしないとか、基本的なことができなければラクロスはできないよ』ということでした。私のことを根気よく何度も怒って教えてくれたから、今はそれが大事だと理解できています。ちょっと抜けちゃう時もあるんですけど(笑)。でもその経験がなければ多分日本代表にもなれていないし、社会人としてもやっていけなかったと思います」
その経験は、今の日本代表での声かけにも生きている。
「今は主将として、規律を守ってみんなで一つのチームになろうということを言っている立場です。まさか自分が、という感じなんですけど(笑)。でも、大学時代の学びはすごく生きている気がします」
大切にしているのは、試合に出る選手だけのチームにしないこと。
「一番大事にしているのは、どんな立場であっても、最後に自分がフィールドに立っていたとしても、立っていなかったとしても、『自分がこのチームを勝たせた』と思ってほしいということです」
日本代表には、世界大会を何度も経験している選手もいれば、初めて代表に入る高校生もいる。世代も経験も違う。だからこそ、藤田選手は「同じ方向を向くこと」と「同じ方法を強制しないこと」を分けて考えている。
「目指す場所は同じでも、個性を活かしたプレーをしてほしいです。個のスタイルを尊重するブラジルの経験が大きいのかもしれません」
自分が進むだけでなく、次の挑戦者への道をつくる
2026年、女子ラクロス世界選手権が東京で開催され、2028年のロサンゼルスオリンピックでは6人制のラクロスが120年ぶりに実施される。
藤田選手が2028年のオリンピックに関わるかどうかはまだ分からない。それでも、目線の先には日本ラクロスの未来がある。世界の強豪国との差も感じている。
「アメリカ、カナダ、オーストラリア、イングランドは本当に強いです。小さい頃からラクロスをやっている選手が多い。日本だと大学から始める人が多いので、そこに追いつくのは本当に大変なんです」
だからこそ、競技の普及にも思いを込める。
「自分がもっと早くやっていたらよかったと思ったような気持ちを、次の世代にはさせたくないんです。日本でラクロスが普及して、子どもたちが将来ラクロス選手になりたいと思えるようになったらいいなと思います」
仕事も続け競技も続ける。諦める理由を探すのではなく、続ける方法を探す。
藤田選手の挑戦は、特別なアスリートだけのものではない。働きながら、夢を持つ人、複数の役割の間で迷う人に、「両方あるから見える景色もある」と教えてくれる。
text by Akihiro Ichiyanagi(Parasapo Lab)
photo by Shunichiro Kai