記憶力が高まる!? 「真っ黒なノート」の秘密とは?

2019.12.16.MON 公開

ノートと言われたときに多くの人が思い浮かべるものは、白い紙に罫線が引かれている、いわゆる大学ノートのようなものだろう。しかし、今、とある“黒いノート”が「見やすい」、「勉強しやすい」と話題になっている。一体、通常のノートと何が違うのか……。今回は、その黒いノートを開発した株式会社19の安藤将大さんと浅野絵菜さんに、黒に隠された秘密を伺った。

『黒地×白文字』は、実はすんなりと頭に入りやすい!?

TONE REVERSAL NOTEBOOK B5サイズ

その黒いノートの正体とは、こちらの「TONE REVERSAL NOTEBOOK」。同社が手掛けるTONE REVERSALシリーズのひとつで、ノートの他にも手帳やメモ帳などがある。いずれも黒い紙に、白に近いグレーのインクで罫線が印刷されているのが特徴だ。

白やパステルカラーのペンで文字を書き込むと、なんでもない言葉も黒板アートのような楽しさがあり、ちょっとした特別感が味わえるのも魅力。 早速、開発者の安藤さんとデザインを担当した浅野さんに、黒いノートの秘密について話を聞いた。

より多くの人が使いたくなるモノやコトをお客様と共にデザインしていく株式会社19。
代表取締役 社長の安藤 将大さん(左)と、取締役の浅野 絵菜さん(右)

―――普段、白いノートに見慣れているので、黒いノートはとてもインパクトがありますが、聞くところによると暗記用のノートにも優れているとか?

浅野さん(以下、浅野):よくある白いノートだとどうしても単調になってしまうのですが、黒いノートはコントラストがはっきりしているので、大人も子どもも楽しみながら飽きずに使うことができると思います。いつもより字がきれいに見えるからどんどん文字を書きたくなるとおっしゃる方もいらっしゃいますね。

安藤さん(以下、安藤):以前、個人塾でTONE REVERSAL NOTEBOOKを使用してもらったんですが、生徒たちの学習意欲が向上したんですよ。特に、LD(学習障がい)やADHD(注意欠陥・多動性障がい)などの発達障がいがある生徒にはとても好評でした。発達障がいには、『感覚過敏で白いノートに眩しさを感じる』、『文字を絵として認識してしまう』、『どうしても文字に集中できない』といった場合があるのですが、黒いノートは脳への刺激が抑えられるので、読み書きしやすくなるようです。

―――ノートを白黒反転させると、そんな効果もあるんですか?

安藤:もちろん、全員が全員、必ず黒地がいいというわけではありませんが、黒地に白い文字は、視覚的にも印象に残りやすいようです。 私は生まれつき視力障がいがあり0.03しか視力がないのですが、街中の黒板にチョ―クで書いてある看板などは見やすいですし、白い文字のほうが脳裏に焼き付きます。私のような弱視以外にも、老眼で文字が見づらいという人、パソコンで目が疲れている人など、一時的に見づらさを感じる人たちにとっても見やすいようです。このノートが生まれた背景には、おしゃれで楽しいけど、実は目に優しいというメリットがあるんですよ。

誰もが使いたくなる、ユニバーサルデザインって?

―――そもそもこの白黒反転シリーズが生まれたきっかけとは、何だったのでしょうか?

安藤:「知り合いに無類の手帳好きがいまして、オリジナルの手帳を作りたい、と相談されたことがはじまりです。どうせ作るなら、通常の手帳とは違うものを作ろう!と。そこで思いついたのが、普段文字が見えづらい人でも使いやすい白黒反転の手帳でした。当時、ちょうど私と浅野でユニバーサルデザインを提案する会社を一緒にやろうと話していた時だったので、白黒反転の手帳は、まさにその象徴になるのではないかと。それで、当社のスタートアップとしてTONE REVERSALシリーズを製品化することにしました」

―――なるほど。ちなみにお二人が考えるユニバーサルデザインとは?

安藤:初めは、障がい歴が長い私が普段感じていることや知っていることを商品に落とし込めば、自ずとユニバーサルデザインになっていくのではないかと思っていたのですが、浅野にダサいものは使いたくないと言われまして(笑)。

浅野:私は中途の視覚障がいがあるのですが、初めて福祉系のグッズを見たときに、機能性重視でデザイン性も低く、正直使いたくないと感じたんです。私がこれまで使っていたものはもう使えないのかな…と。なので、私と同じように福祉系のグッズを手に取ることに抵抗がある人に向けて、デザイン性のある製品を作り、中途障がいに対する落ち込みのようなものを払拭するきかっけをつくりたかったんです。

安藤:世の中にあるユニバーサルデザインの多くは、『みんなが使える』という“できるかできないか論”で作られていますが、本来は『使える』ではなく『使いたい』と思えないといけない。そのためには、機能だけでなくデザイン性も重要だということに気づきました。

大きな文字も書きやすい!散りばめられた様々な工夫

―――お二人の感覚やセンスを融合させることで誕生した黒いノートですが、他にも色々とこだわりがあるとか

安藤:まず、リング式ノートを採用しているので開きやすく、360度折り返せることですね。弱視の人は、文字を見る際に顔をノートにすごく近づける時があるのですが、その際、中綴じノートだと折りたたみにくいので、外光を遮ってしまうことがあるんですよ。リング式だと折りたためるので、光が入りやすく読みやすいんです。

浅野:顔をノートに近づけた時に、ノートの角で眼を傷つけないよう、隅を角丸にしているのもポイントですね。

安藤:それから、色や手触り、紙の厚さなどの上質さにもこだわっていますが、一番の特徴は明度の違う罫線を交互に配置した2行1段式であること。薄い線も濃い線もそのまま使うと通常の大きさの文字を書くことになりますが、濃い線のみを意識して使うと大きい文字を書くことができます。

ユニバーサルデザインは誰もが同じように使えなくてはならないと思われがちですが、それぞれの使い方で使えればいいかなと。それがこのノートのキーになっているところですね。

浅野:自由度が高いので、濃い罫線に英文を書いて薄い罫線に日本語訳を書いている人もいますよ。それから罫線が真っ白ではないところもポイントです。

安藤:そう、罫線が真っ白だと白い文字と被って読みづらくなるので、ややグレーにし、書いた文字がちゃんと強調されるようにしています。私どもの公式ショップでも白いペンを販売していますが、文具店などでもさまざまな色や太さのペンが売られているので、見やすいものを選んでもらいたいと思います。自分で好きなものを選べる、ということもすごく大事ですから。

東京2020公式ライセンス商品も!

東京2020公式ライセンス商品「D&Iコレクション」
左から、便箋(5枚入り):点字器を使用したときに点字が罫線上に乗るようにするなど、細かい設計が施されている/D&I卓上カレンダー:文字の視認性を損なわないよう高い技術で印刷されている/D&Iスケジュール帳:安全性と持続性に配慮した角丸仕様。シルバー印刷で文字が読みやすい

―――東京2020公式ライセンス商品『D&Iコレクション』の開発にも参加されたそうですね。

浅野:『D&Iコレクション』とは東京2020大会を契機に多様性を尊重した社会を実現することを目的としたコレクションで、私たちは視覚障がいのある人でも使いやすい便箋、点字卓上カレンダー、スケジュール帳のアドバイザリーを担当しました。

安藤:便箋は点字も打つことができる紙を使用しています。今まで点字用紙は1種類しかなかったので、便箋用に作られた紙は画期的なアイテムと言えますね。それから便箋は受け取る相手がいるので、黒ではなく温かみのあるチャコール系にしています。

浅野:19メンバーにも実際に触ってもらって、これだったら手紙としてもらったときに嬉しいと思える紙を選びました。

安藤:透明のニスで点字を印刷したカレンダーは、1枚であらゆる人の読みやすさを担保しているデザイン。点字の勉強ができたりと、我々らしい物事をユニバーサルなデザイン視点で入れています。

ユニバーサル視点で社会が大きく変わる

―――最後に、株式会社19では、ユニバーサル視点で様々な企業や自治体、さらには商業施設や観光などにもコンサルティングをされていると伺いました。 これからの社会は、世界的にもD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)が推進されていきますが、お二人が考えるD&I社会に必要なものとは?

浅野:私は当事者ですが、社会がちょっと過保護かなと思うことがありますね。

安藤:これまでの日本は、高齢者や障がい者を『支える』、『守る』という福祉的な考え方が主流で、どうしても『〜してあげる』という意識が働いてしまっていたと思います。高齢者や障がい者側にも、『守ってもらえる』という甘えが少なからずあるのかもしれません。 でも、本当の意味でのD&Iを進めていくには、社会と当事者の視点が対等であることが重要。例えば、同じ職場で一緒に仕事をするなら賃金をもらう以上、それなりの価値を返さないといけない。当事者も他の人たちと対等に渡り合うだけの知恵と力をつけないといけないと思います。
そして、もう一つ。D&Iを考える時に、考え方の主軸を『障がい者だから』『高齢者だから』といった特定の人に絞るのではなく、ユニバーサルデザインと同じく、あらゆる人を対象にしていくことがポイントではないでしょうか。

浅野:実は、TONE REVERSALシリーズの特設サイトでも、ユニバーサルデザインであるといったことは、特に表記せず、ただの商品として販売しています。障がいのある人でも使えるようにできていることは後から知ってもらえればいいかなと。

安藤:実際に使った人が扱いやすいと感じたときに、障がい者の知恵からできているんだと気づいてもらえる。そういう発見もおもしろいんじゃないかと思います。

日本がこれからD&Iに変わるということは、一人ひとりが違いを認め合い、誰もがイキイキと活躍できる社会になるということ。その過程には、今回の黒いノートのように画期的なアイデアがたくさん生まれてくるはずだ。 「ユニバーサルデザインということを意識せずに、TONE REVERSALシリーズを使って欲しい」と語っていた安藤さんと浅野さん。まずは黒いノートを実際に使って、その楽しさと使いやすさを体感してみるというのはどうだろうか。

text by Uiko Kurihara(Parasapo Lab)
photo by Tomohiko Tagawa

『記憶力が高まる!? 「真っ黒なノート」の秘密とは?』