東京も金メダルだ! ウィルチェアーラグビー世界選手権、日本代表が世界の頂点に

ウィルチェアーラグビー世界選手権・日本代表が初の頂点!
2018.08.17.FRI 公開

8月5日~10日、真冬のオーストラリア・シドニーで開かれたウィルチェアーラグビーの世界選手権。決勝の舞台で、この競技で6年間世界に君臨しているオーストラリアに土をつけたのは、2年後に自国開催のパラリンピックを控える日本代表だった。

“信じる気持ち”が生んだ土壇場の逆転劇

4年に一度の世界選手権は、東京2020パラリンピック前、最後の世界一決定戦。リオパラリンピックで銅メダルを獲得した日本(世界ランキング4位)は、全勝で決勝に勝ち上がったオーストラリア(同1位)と決勝で対戦した。序盤から息を飲む展開が続いた試合は、第3ピリオドでリードしていた日本が最終ピリオドで逆転されたものの、残り3分から日本が逆転。今大会MVPを獲得した池崎大輔のスチールで加点した日本が62-61で競り勝ち、初優勝を飾った。

MVPの池崎(右)と最年長47歳の岸(左)

日本がパラリンピック、世界選手権を含める国際主要大会で世界一になったのは初めてで、世界選手権の過去最高成績は、2010年のバンクーバー大会の銅メダル獲得だった。

逆転されても、突き放されない。地元オーストラリアを応援する声援も「自分たちの応援に思えた」(池)。そこには、これまでになく粘り強い日本チームの姿があった。

勝利の要因は、キャプテン池透暢の言葉に集約されている。
「もう一回、逆転できる。何度も追い詰められたけど、メンバーを信じてやり続けられた。チーム全員でフォローして勝ち取った世界一だと思います」

コートの中でもリーダーシップを発揮したキャプテンの池

苦戦した予選があるからこそ

振り返れば、12ヵ国が出場した同大会の2グループに分けられた予選は2位通過だった。予選は初戦で初顔合わせのアイルランド(世界ランキング19位)に勝利したものの、3戦目のスウェーデン(世界ランキング6位)に苦戦。「日本がうまくディフェンスできないようなトランジション、パスの精度に優れていた」(岸光太郎)。終盤のハードなディフェンスが功を奏して勝利したが、日本対策を練られていることが露呈した。ダブルヘッダーだった予選最終戦のオーストラリア戦も、パスの出どころである池をマークしたオーストラリアに力の差を見せつけられた。13点差の敗北。世界一を目指し、東京パラリンピックに弾みをつけたい日本にとっては痛恨の敗戦だった。

だが、挑戦者としてのスピリットを忘れなかった日本代表はここから奮い立った。

「コートで起きたことは、コートに置き去れ」
日本代表のケビン・オアーヘッドコーチ(HC)は、準決勝のアメリカ戦だけに選手たちがフォーカスできるよう言葉をかけた。

出番の少ない選手も、選手たちの心身のケアをするスタッフらも、決してネガティブな言葉を口に出さず、翌日の準決勝に向ける雰囲気づくりに徹した。それぞれが役割を全うし、「準備段階からチーム一丸になっていた」(島川慎一)。

正念場だったアメリカ戦では、コート上のコミュニケーションがうまくいった。池崎も自信をのぞかせる。
「オーストラリア戦でできなかった、ラインディフェンスのポジションの取り方も修正できた」
ミスマッチをつくらせない、日本のディフェンスがアメリカの攻撃を封じ、相手エースを消耗させた。

51-46で勝利。歓喜のあまり涙した選手たちは、「チャンピオンになって帰りたい」と口々に述べた。

さらに「明日はみんなとたくさん話して挑みたい」と話した倉橋香衣の言葉は、チームの団結力が高まっていることを感じさせた。

そんな波を乗り越えてたどり着いた決戦の朝。今年度のチームがスタートした4月、戦うスピリットについて選手たちに十分に話したというオアーHCは、この日は簡潔にミーティングを行っただけで大部分は選手に託した。選手たちは、最高の雰囲気で決勝を迎えたのだった。

金メダルを胸に写真に納まるウィルチェアーラグビー日本代表 ©Asuka Senaga

進化の途にいる“未完成”の日本代表

かくして世界一を成し遂げた日本代表は、今大会、これまで強化合宿やジャパンパラ大会などで取り組んできたコート上4人のラインナップ(障がいのレベルの異なる選手たちの組み合わせ)の充実、さらには攻撃のバリエーションの増加を世界に示した。

「今日はダメなとこともあったけど、なんとかチームに貢献したいなと思ってプレーしていた」
そう話したのは、バイスキャプテンの羽賀理之だ。

バイスキャプテンの羽賀(右)

アグレッシブなプレーでチームを支えた乗松聖矢は、「この大舞台で勝ち切れた経験は、必ず2年後、金メダルを獲るのに大きなアドバンテージになる」と力強く語る。

日本チームの中心にいるエースの池崎は言う。
「今日の試合でチームとしての絆が深まった。これからは追われる立場になるけれど、プレーの精度を高めていき、“ジャパンスタイル”を作り上げていけたらと思っています」

東京パラリンピックの金メダルへ。日本代表の挑戦は、頂点から再び始まる。

日本代表、世界選手権金メダルの軌跡!

世界選手権 金メダルまでの道のり

<予選>
8/5 日本〇 57-37 アイルランド
8/6 日本〇 56-37 ニュージーランド
8/7 日本〇 48-46 スウェーデン
8/8 日本〇 52-42 デンマーク
8/8 日本● 52-65 オーストラリア

<準決勝>
8/9 日本〇 51-46 アメリカ

<決勝>
8/10 日本〇 62-61 オーストラリア

text by Asuka Senaga
photo by Takao Ochi

『東京も金メダルだ! ウィルチェアーラグビー世界選手権、日本代表が世界の頂点に』