Bリーグ茨城ロボッツが大学生の車いすバスケチームと連携。一緒だからこそ取り組める、社会課題解決のカタチ

2025.05.14.WED 公開

プロスポーツチームにとって、本拠地とする地域との結びつきは重要だ。プロバスケットボールBリーグの茨城ロボッツも地域に貢献すべく、「B.LEAGUE Hope × 日本生命 地域を元気に!バスケACTION」の活動としてさまざまな取り組みを行っている。そのひとつが、茨城県立医療大学の車いすバスケットボールチーム「ROOTs」との連携だ。

障がいのある人だけでなく、競技用車いすに乗れば誰もが楽しむことができる車いすバスケットボール。そんな車いすバスケットボールの力で茨城に「心のバリアフリー」を浸透させようと、茨城ロボッツとROOTsによる「車いすバスケ体験会」が2月に実施された。車いすバスケットボールに親しむ大学生たちと、「茨城県のチーム」として地域に貢献しようとする茨城ロボッツに、連携の意義と思いを伺った。

障がいの有無にかかわらず楽しめる車いすバスケ

初めての体験者でも戸惑うことがないように、学生たちが上手くリードして体験会を進める

2025年2月に、茨城県内で車いすバスケ体験会が行われた。8日は茨城県立医療大学の体育館、23日はM-SPOユードムアリーナに、下は10代から上は60代までの老若男女のべ222人が車いすバスケ体験会のために集まった。パラリンピックを見て興味を持った人や、元々茨城ロボッツのファンだった人など、参加理由は様々。
ROOTsのメンバーの指導の下、車いすに乗ってみる参加者たち。すると、なかなか思い通りに操作できなかったり、車いすを動かしながらボールを操るのが意外に難しかったり、皆最初は困惑していた。

しかし、バスケットボールの経験の有無はともかく、車いすに座れば、背の高さも年齢も関係なく、誰もがほぼ同じ条件になる。初心者でも楽しめるようにルールを変えたり、ゴールを低めにしたり、様々な工夫もあって、参加者たちは徐々にドリブルやシュートといった動作にも慣れ、シュートが決まれば大きな喜びの声を上げるなど笑顔溢れる体験会になった。

茨城ロボッツが大学生と連携する理由

カップ戦に勝利した参加者に景品を渡す、進行担当の大学生

この体験会は、茨城ロボッツが2024年8月に茨城県立医療大学と連携協定を締結し、その一環として行われたもの。そもそもなぜそうした協定が結ばれることになったのだろうか。

「水戸を中心として茨城県全体を盛り上げようという”水戸ど真ん中プロジェクト”があり、その一環として茨城ロボッツは“地域のアイコン”の役割を担っています。ですから、バスケットボールの振興のためだけではなく、地方創生が使命のひとつ。つまり、バスケットボール、エンターテインメントを通じて地方創生の魁(さきがけ)モデルになるというミッションを帯び、企業、地域団体、自治体、学生、ファン・ブースターなど地域の皆さんをつなぐために存在するのだという哲学を持っています。その考えの下、学生たちに活動機会の提供をすることを目的に協定を締結しました」

そう語ってくれたのは、茨城ロボッツで地域連携を担当とする春日結汰さんだ。茨城県立医療大学には、健常の学生も含めて活動する車いすバスケットボールチームの「ROOTs」があり、茨城ロボッツとの活動はROOTsの学生たちと共に行っていくかたちで進んでいくことになった。

ROOTsは、茨城県立医療大学のサークル「障害者スポーツ研究会」による車いすバスケットボールチーム。全国車いすバスケットボール大学選手権大会の優勝経験もあり、パラリンピック出場選手やクラブチームで活躍する選手も輩出している。OBOGも含め、メンバーは障がいのある選手に限らず、サークルへの加入をきっかけに車いすバスケットボールのプレーを始めた健常者のメンバーが数多く在籍する。

今回の車いすバスケ体験会を開催するにあたり、春日さんはROOTsのメンバーと準備のためのミーティングを重ねた。時には、週に何度も大学に足を運んだという。大学サークルの一員として活動をしていたROOTsのメンバーは、プロバスケットボールチームの茨城ロボッツとそのようなイベントを開催するという話を聞いて、どのように思ったのだろうか。健常者で車いすバスケットボールチームに所属するメンバー3名に聞いた。

「こんな体験会を開催するなんて初めての経験でしたし、本当に自分たちがやれるのだろうか? という感じだったのですが、とにかく車いすバスケの良さを多くの人に伝えられたらいいなと、プラスに考えて取り組みました」

と当時を振り返ったのは、同大3年生の渡辺健佑さん。入学当初は車いすバスケのサークルに自分が入るとは思ってもいなかったが、先輩に勧められてやってみたら、すっかりハマってしまったという。同じく同大3年生の原秀羽さんは、

「どんなイベントにするかという企画を立てるのも大変でしたし、参加者が目標人数に達するのかがとにかく不安でした。でも、茨城ロボッツの集客力もあり、どんどん集まってホッとしました」

と語る。原さんは元々バスケットボールの経験があったが、サークルの体験会に参加して競技用車いすに座ってみると視点が全く違うことに新鮮さを覚え、新しい世界に魅了されて入ることに決めたという。同じく同大3年生の安東和香さんは、最初マネージャーとしてチームに加わったが、ゲームを見ているうちにプレーをしている方が楽しそうに感じてプレーヤーに転向したひとり。

「私も、自分たちがこんなに直に関わることに不安はありました。普段から、私たちROOTsのメンバーは障がいのある方々に関わる機会がしばしばありますが、そうではない方たちにも車いすバスケに触れる機会を作るイベントに自分たちが関わっているんだという手応えがすごく感じられて、とても良い体験ができたと思います」

この安東さんの言葉通り、参加者からは「障がいのあるなしにかかわらず楽しめるスポーツなのだということがわかった」という感想が多く寄せられたという。茨城ロボッツが掲げる「心のバリアフリープロジェクト」の一環として行われた今回のイベントだが、車いすバスケットボールを通して、心のバリアフリーにつながる思いが参加者に芽生えたのではないだろうか。

活動を通した学生たちの成長も「地域貢献」のひとつ

老若男女、誰でも同じところから始められるのが車いすバスケットボールの魅力

茨城ロボッツと茨城県立医療大学との連携協定は、学生たちに活動の機会を提供する狙いがあったと春日さんは語っていた。この活動を通して、学生たちにはどんな学びがあったのだろうか。

「今までのROOTsの活動は、練習をして大会に参加するという活動ばかりだったのですが、この体験会は、どんな会にするか企画を立てて目標を設定し開催するというプロセスが今までにはない経験で、大きな学びになりました。今後就職して社会に出ても、自分は何のために働いているのかということを忘れないように生きていこうと思いました」(渡辺さん)

「僕はこういう企画を進めるには、コミュニケーションが大事なのだということを実感しました。僕たち3人と春日さんとで、当日本当にこれで大丈夫かどうかなど、問題点をあげて何度も何度も見直しをしたので、そういうきめ細やかなコミュニケーションを取る力というのが身についたような気がします」(原さん)

皆でいろいろ話し合いを重ねる中で渡辺さんが提案したあることが心に残っていると語るのは安東さんだ。

「とにかく“参加者をひとりにしない”ということを意識するようにしました。これは渡辺君が言ってくれたのですが、ほとんどの参加者は初めて車いすバスケを体験することになります。不安なことも多いはずで、常にメンバーが最低でも一人は参加者のそばについて、車いすに乗ることのサポートだけではなく、“じゃあ、こうやって動いてみましょう”とか“ボール持ってみますか?”とか声を掛けてあげることによって、その時間が楽しいものになるし、その瞬間を大事にしてほしいと思うんです。そういったことも含め、私はメンバー全員を見ながら、どういう風に指示をして、どのように動いてもらうかといった指示出しの重要性を学ぶことができたと思います」(安東さん)

この学生3人をリーダーとするROOTsの体験会での活動を見て、春日さんはそれぞれの“当事者意識”が成功に導いたと振り返る。

「まず、なぜこの体験会を自分たちがやるのかをメンバーは皆、当事者として一生懸命考えていました。それぞれの背景、たとえば初めて車いすに乗って楽しかったとか、誰かと一緒にシュートを決めて嬉しかったとか、自分たちがこれまでの体験で得たことが、イベントの参加者に伝わるという経験ができたんだと思います。この体験会を通して3人は、自分たちが作り出せる価値、自分たちだけにしか作り出せない価値を見つけられたし、ひいては自分たちだけが幸せにできる人がいるということがわかったのではないでしょうか。この企画の立ち上げ当初は、実はロボッツが先頭に立って全部進めていくという選択肢もありました。でも、彼らは自分たちがボールを持って自分たち主導で進めていくんだという意識を持ち続けてくれたので、全部任せたんです。それが彼らの成長に繋がった一番の要因ではないかと思います」(春日さん)

心のバリアフリーを社会に広めるだけでなく、関わる地域の学生たちにも実践と経験の場をつくることは、将来にさらなる可能性をもたらす、「地域貢献」のひとつのかたちとなっているといえるだろう。

さまざまな人をつなげる接着剤となって社会課題を解決する

慣れない車いすバスケットボールに取り組むうちに、自ずとチームの結束も強まっていく

“車いすバスケ体験会”と聞くと、参加者がどんな気づきを得るかに目が向きがちだが、4人の話を聞いていると、どうやらそれだけではなさそうだ。参加者、主催者、みんなにそれぞれの恩恵がもたらされる“和=輪”のようなものを感じる。

「ロボッツの役割を説明するときにいつも例に挙げるのが“ボンド”と“アンプ”です。社会課題の解決は、自分たちだけでは無理なことが多いですから、ロボッツが自治体、企業、大学、学生、NPO法人、ファン・ブースターの皆さんなど、さまざまな人の真ん中に入って皆を繋ぐボンドの役割を果たす。そうして皆が繋がると、今までなかなか注目されなかった社会課題の認知がどんどん広がっていく。つまり(音を大きく広げ届ける)アンプのような効果がもたらされて、広まっていくわけです。そういう意味で今回の体験会はこのシステムのモデルにもなり得るぐらいうまくいったなと感じています」(春日さん)

春日さんの語るアンプの効果として、ROOTsの3人は今後この体験会を茨城県の各地で開催して、茨城と言えば車いすバスケが盛んな地域として知名度が上がっていくようにしたいと考えているという。車いすバスケを通して障がいのある人の視点を感じ考え、理解を深めていくことができれば、社会はもっと変わっていくに違いない。

「今後はロボッツとしてもこの動きを横に展開して、茨城県全域に体験会を広めて行きたいと思っています。このような社会貢献を単なるボランティアに終わらせるのではなく、社会的価値には支援が広がるという経験を学生たちにしてもらいたいと考えているので、学生自身がスポンサーを探しお金を集めていくという体験をしてもらえたら良いなと思っています」(春日さん)

ROOTsの3人は大学卒業後は医療関係の仕事を目指すそうだ。この活動、将来も含めてそれぞれどんな思いをいだいているのだろうか。

「今年度からは、僕たちの次の代、2年生が中心となってこの活動を続けていくことになるので、スポンサー探しなどの経済的なサポートもそうですが、僕たちがこの体験を通じて得たこと、改善した方が良いことなど、さまざまなことを伝えていきたいですね。車いすバスケットボールの楽しさを、普通のバスケットボール・立ちバスをやっている人たちにももっと広げていければいいなと思っています」(渡辺さん)

「さっきコミュニケーションの話が出ましたが、僕は今渡辺君が言ったように、いすバス(車いすバスケットボール)も立ちバスも、みんなが車いすに座ってプレーを楽しむことによって新しいコミュニケーションができると実感しました。社会貢献もひとつの目的ではありますが、車いすバスケはどんな人でも自分の可能性を見つけられるものだと思っているので、今後もいろいろな場所で関わっていきたいと思います」(原さん)

「私も自分が感じた楽しさをもっと多くの人に体験してもらうために、自分が学んだことを下の代に伝えていくのはもちろんなのですが、卒業して医療従事者として働き始めたら、車いすバスケに限らず同じようなバリアフリーだったり、障がいのある人との共生に関するイベントなどに出会う機会はあると思います。そんなときには、積極的に参加して行きたいと思いますし、運営などに関わることがあれば、自分の経験を活かしたいなと考えています」(安東さん)


茨城でさまざまな人をつなげ、地域をよりよくするハブを目指す茨城ロボッツ。同じ「バスケットボール」でつながるROOTsの大学生たちとの活動には、単なる連携にとどまらない、同じ地域で共に成長していこうとするあたたかいつながりが感じられる。
春日さんはこの企画の立ち上げ当初、自分の好きなもの、好きなことを見つけ突き詰めていってほしいと考えていたそうだ。それを大事にしていくことは希望になり、社会に出て行く際には確かな力になると。3人の言葉からは確かにその力が感じられる。
大学生たちの成長と共に、心のバリアフリーの浸透を目指す「立ちバス」と「いすバス」のコラボレーション。今後さらに発展し、“茨城と言えば車いすバスケ”と言われるのも、そう遠くないことかもしれない。

text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
写真提供:茨城ロボッツ

『Bリーグ茨城ロボッツが大学生の車いすバスケチームと連携。一緒だからこそ取り組める、社会課題解決のカタチ』