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Sports /競技を知る
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世界ランキング1位・車いすラグビー日本代表が国際大会でテーマにした“弱点の強化”

パリ2024パラリンピックで金メダルを獲得した車いすラグビー日本代表を象徴する、池透暢の高さ、乗松聖矢のディフェンス力、ベテランの牽引力……。それらの武器を3年後のロサンゼルスで活かすために、今は強みに頼らず、“弱点”を潰すことだ。
7月24日から26日まで行われた、3ヵ国による国際大会「JPSA設立60周年記念2025ジャパンパラ車いすラグビー競技大会」。日本代表は、若手中心のチーム編成で挑み、チームの強化に励んだ。

個々も弱点克服を図る
11月にタイで開催される2025 WWR アジア・オセアニア チャンピオンシップ(AOC)に始まり、車いすラグビーのロサンゼルスに向けた戦いがいよいよ本格化する。代表入りを狙う若い選手にとっては代表入りをアピールする絶好の機会。中谷英樹ヘッドコーチ(HC)は「経験の浅い選手にどれだけ(海外の選手に)通用するか試してみて」と呼びかけていた。

若手選手の育成を目的としたSHIBUYA CUPを除き、初めて代表になった選手も。チームでウィングスパンが一番長い188㎝の川口健太郎、伸びしろのある河江大輝は、国際試合の経験を積んだ。
4月のSHIBUYA CUPで障がいのクラスが1.0から1.5に変わった草場龍治は、6月のアメリカ遠征と今大会でAOCや来年行われるアジアパラ代表入りに向けてアピールした。パリパラリンピック金メダルメンバーである草場といえど、日本代表に選ばれること自体がこれまでよりも難しい。同じ1.5クラスにチームの主軸である乗松がいるからだ。
草場は前を向く。
「(乗松と)普段一緒にトレーニングしているが、以前よりもいっぱい吸収しようという気持ち。いずれは同じぐらい安定したプレーがしたいと思うし、ライバルというよりも一緒に強くなっていきたい思いが強い」

1.0から1.5に変わったことで役割も変化。コートの外からボールを入れるインバウンドの場面が増えた。
「インバウンドは、自分が今まで苦手にしていた部分。(今大会で)世界を相手にどれだけやれるか、たとえミスしても引きずらないように、取り返す気持ちで挑んでいる」
どの方向にパスを出すか瞬時の判断力を磨き、パスの精度を高めるために上半身の筋力も強化中。車いすラグビーを始めて5年目の草場はまだ成長の過程にいる。
ミッドポインターの強化
日本代表の長年の課題“ミッドポインターの底上げ”にも取り組んだ。中谷HCは今大会に2.0の河江を選出したほか、2.5クラスの選手を3人選び、競わせながら底上げを図った。チーム最年少20歳の青木颯志は、アグレッシブなプレーで心身ともに成長した姿を示した。

「(オーストラリア・フランス・イギリスが来日した、2月の)前回大会とは相手のレベルが違う」としながらも、「クラブチームを移籍して心構えもトレーニング方法も変わった。(クラブチームでの)出場時間が増えて、どう試合を作っていくか考えるようになった」と自身の中で変化があったと明かす。
一緒にコートに出るラインがあり、今大会で小川仁士と共同キャプテンを務めた橋本勝也は、若い選手が意見を言いやすいチームづくりに努めており、「颯志がどうしたいのかを確認したりして、そこからチームとして合わせることを徹底した」という。

若手の躍進を熱望するチームの中にいる青木。2.5クラス間での戦いを制して代表に生き残る自信は「今は、まだない」としつつも、今大会でトライを重ね、成長の証を残した。

トランジションを強化
フォーカスしたのは、弱点だけではない。重点を置いたのは、トランジションの強化だ。今大会では、日本代表のローポインターが2人がかりで相手のキーマンを素早く抑え、相手チームが攻撃から守備へ切り替えるのを遅らせてターンオーバーを奪うシーンもあった。
「有利なオフェンス、ディフェンスをするためにトランジションを早くしようと口酸っぱく言っている。それができている時間帯とできていない時間帯があった」と中谷HC。

一方の橋本は、「トランジションでうまく自分たちがやりたいマッチアップができなくても、コミュニケーションを取ってカバーできていた部分もあった」と収穫を語った。
3ヵ月後のAOCではニュージーランド、韓国に加え、強豪オーストラリアとも対戦する。新しい日本代表がどんな戦いを見せるか楽しみだ。

text by Asuka Senaga
photo by X-1