地方メディアに聞く! わが町ジマンのパラアスリート

2019.09.03.TUE 公開
東京2020パラリンピックに向かって各地で汗を流している選手たち。そんな彼らの“原点”を知る、地方メディアの記者&アナウンサーに注目選手を聞いてみた。
私のイチオシ
鳥海連志選手(車いすバスケットボール)
KTNテレビ長崎 入社11年目 報道局 大村咲子 アナウンサー

初めての取材で感じたオーラ

2014年、地元・長崎県で開催された全国障害者スポーツ大会。大村アナウンサーが後に日本代表になる鳥海連志(車いすバスケットボール)を初めて見たのはこの大会だった。長崎県選抜メンバーの最年少としてコートにいた少年は、特別なオーラを放っていた。

球技では、どうしてもシュートする選手に目がいきがちだ。しかしシュートとは関係なく彼の存在感は際立っていた。

「ものすごいスピードと鋭い目つきでした」

翌年、大村アナウンサーが担当する番組で、鳥海の最初の特集が組まれることになった。「世界で通用するプレーヤーになりたい」――高1だった鳥海は目標をはっきりと、そう口にした。「高校生にして長崎を飛び越えて世界を見据えている……いったいどんな選手になるのだろうとワクワクしました」

そして、2016年に最年少17歳でリオパラリンピックに出場(日本代表の成績は9位)。その後、神奈川にキャンパスがある日本体育大学に進学したのも、世界で活躍するためにはどうしたらいいかを考えた上での選択だった。

パワースポットは高校!?

日本代表の常連になった川原凜(左)

そんな鳥海のパワースポットは、彼が1年間通った長崎明誠高校だ。同校は、2つ年上で同じ長崎出身の車いすバスケットボール選手・川原凜とともに車いすバスケットに没頭した、思い出の場所なのだそうだ。

いつもマイペースな2人は、よく冗談を言い合っていて仲がいい。

健常者のスポーツも含めて、チームスポーツの日本代表で同じ県出身の選手2人がコートで活躍するのは稀有なこと。「2人がコートで躍動している姿を見ると私もうれしくなりますね」

これから東京パラリンピックに向ける重要な大会、選考、本番と続く。世界で活躍する鳥海、そして川原の姿は県内の多くの人にパワーを与えるはずだ。「ケガだけには気をつけて突っ走ってもらいたい。鳥海選手も川原選手も常々、自分たちの活躍を通じて県内の障がい者スポーツを盛り上げたいと話しているので、私もしっかり伝えていきたいと思っています」

☆長崎ゆかりのパラリンピアン
木谷隆行(ボッチャ)、副島正純(陸上競技)、初瀬勇輔(柔道)

私のイチオシ
佐藤和樹選手(柔道)
北海道新聞 入社29年目 編集局運動部 弓場敬夫 編集委員

自転車に出会って急成長!

車いすラグビー“世界一”の日本のエース・池崎大輔、リオパラリンピック陸上競技400m銅メダリストの重本沙絵ら人気選手の出身地である北海道。

「競技をやりたいと思ってもなかなか環境がない。そんななかで周囲に導かれるように道を拓いていく選手が何人もいます」

そう語るのは、北海道新聞でパラスポーツを担当する弓場敬夫記者だ。

なかでも弱視の木村和平(自転車)は、札幌視覚支援学校時代、ブラインドマラソン強化指定選手の羽立祐人教諭の計らいでタンデム(二人乗り自転車)を体験し、それがきっかけで競技を始め2年後、インドネシア2018アジアパラ競技大会で2冠を達成するまでに成長。

「もともと木村選手が熱中していたブラインドサッカーは全盲の選手(フィールドプレーヤー)しかパラリンピックに出場できない。ですが、自転車に出会ってから短期間で成長し、東京の会社でアスリート採用されるまでになりました。そして、いよいよパラリンピックへの道も見えてました」

「なんて劇的な競技人生でしょうか」
ブラインドサッカーから転向した視覚障がいの木村和平(左)

最重量級の新星は高校全道チャンピオン

そして、もうひとり激動の人生を歩む道産子が佐藤和樹(柔道)だ。健常者の柔道のエリートコースを歩み、高校時代に全道大会の100㎏超級で優勝。天理大に進んだ後、教員となるが、2018年6月に脳出血で弱視になった。同年、12月に視覚障がい者柔道の全国大会に出場して日本代表入りを果たし、一躍期待される存在になった。

佐藤は、同階級で大学の先輩でもあるロンドンパラリンピック金メダリストの正木健人にまだ勝利したことはないが、「とにかく性格がまっすぐな男。最短コースでパラリンピックに行けるか、注目していきたい」。

☆北海道ゆかりのパラリンピアン
藤田征樹(自転車)、久保恒造(陸上競技)、小野智華子(水泳)

私のイチオシ
杉浦佳子選手(自転車)
静岡新聞 入社6年目 運動部 青木功太 記者

競技にかける思いも一流

東京パラリンピックの自転車会場(ロードは富士スピードウェイ、トラックは伊豆ベロドローム)がある静岡県。

静岡新聞の青木記者は、静岡県掛川市の出身であり、東京パラリンピックのロード種目で金メダルが期待される杉浦佳子(自転車)のインタビューを行った。

杉浦は、2016年に自転車の落車事故で大ケガを負い、高次脳機能障害が残ったが、報道陣の質問にいつも丁寧に答えてくれる。

「言葉の一つひとつから、負けん気や芯の強さを感じますね」

オンとオフの“ギャップ”も魅力だ。「話しているとすごく優しい。でも話題が自転車になるとアスリートの表情になる。競技への思いの強さは、さすが世界チャンピオンだと感じました」

オリンピック・パラリンピック担当の青木記者は、ふだん健常のアスリートも取材しているが、「4年に一度の大舞台を目指す選手たちの競技にかける思いはオリンピックもパラリンピックも同じだと感じる。パラアスリート取材の面白さは、家族など“支える人”も一緒に取り上げることができることでしょうか」

“世界一”車いすラグビーの選手も

さらに、地元へ恩返ししたい強い思いにも心を打たれる。リオパラリンピック銅メダリストで若山英史(車いすラグビー)は沼津市在住で、県内で行われたパラリンピック1年前イベントや体験会などにも姿を見せる。「若山選手は『支えてくれている人たちのためにも結果を出したい』といつも話していて人情味がある。ぜひ注目してほしい選手の一人です」

「若山選手はとても気さくで礼儀正しいアスリート」(青木記者)

その他、鈴木孝幸(水泳)、佐藤友祈(陸上競技)ら金メダル候補を生んだ静岡県。一年後に一面を飾るのはどの選手だろう。

☆静岡ゆかりのパラリンピアン
杉村英孝(ボッチャ)、藤本怜央(車いすバスケットボール)、佐藤圭太(陸上競技)

東京パラリンピック一年前。だれに注目していいかわからない方は、地元や同郷の選手を探してみては?


text by Asuka Senaga
photo by X-1

『地方メディアに聞く! わが町ジマンのパラアスリート』