異言語で謎解きって?? 新感覚の脱出ゲームが面白すぎる!

2020.06.24.WED 公開

ちまたでは、数年前から体験型のエンターテインメント「謎解きゲーム」が人気となっていますが、「異言語脱出ゲーム」という、ちょっと変わった謎解き脱出ゲームがあるのを知っていますか? チームの仲間と一緒に謎を解きながら楽しく遊べると同時に、新しいコミュニケーションの形を体験できると注目を浴びています。そこで、このゲームを開発、運営している異言語Lab.を取材しました。

異言語を使った謎解きゲームとは?

「異言語脱出ゲーム」とは、複数のメンバーで構成されたチームでさまざまな謎を解きながらゴールを目指す、謎解きゲーム。他の謎解きゲームと違い、チームは異言語を使うメンバーで構成されているのが大きな特徴です。

ここで言う異言語とは「音声言語(日本語の音声)」と「視覚言語(日本の手話)」のこと。チームのメンバーは、手話を使う「ろう者・難聴者」と、音声日本語を使う「聴者」が一緒になるように組み合わされます。そして解くべき謎も、手話や音声、日本語で書かれた文字や絵などを使って出題されます。

つまり、手話のわからない聴者は手話が分かるろう者の仲間に、音が分からないろう者は音が聞こえている聴者の仲間に協力を求めないと謎が解けない仕組みになっています。

たとえばモニター画面に映し出された人物が、音声と手話を交えて出題をします。聴者は音声の意味は理解できますが手話の部分は理解できません。反対にろう者は手話の意味はわかっても音を聴き取れない。そこでまずはお互いに理解できた部分を同じチームのメンバーに伝えて、出題の全体像を知る必要があります。
聞こえない相手、手話のできない相手とどのようにコミュニケーションを取るのか、その想像力や発想力が試されるというわけです。

仲間とのコミュニケーション自体が謎解き

このゲームを考案した菊永ふみさん

自身もろう者である異言語Lab.の代表・菊永ふみさんは、このゲームの面白さはメンバーがお互いの強みを生かして協力し合あうところにあると言います。
聴者の強みとは聞く力があるということ。音声で伝える力が優れているということ。そしてろう者の強みは見る力があるということ。手話ができることと、ジェスチャーなどを読み解く力や表現力が優れているということ。

実際のゲームシーンを見ていても、ろう者の参加者は、普段から手話のできない聴者を相手にコミュニケーションをとっているため勘がよく、聴者よりも早く相手の伝えたいことを察知します。

ろう者はろう文化という、手話を基礎とし、視覚や触覚を重視する生活文化を持っています。例えば遠い場所でこちらに背を向けて座っているろう者のメンバーに何かを伝えたい場合。聴者は大声を出しますが、当然ながら聞こえません。ろう者は床を叩いて振動で伝えたり、その人の近くまで物を投げたり、電灯を消したり付けたりして知らせます。また目と目を合わせないと会話が始まりません。聴者にはない文化です。文化の違いを垣間見られるのも、このゲームの楽しみの一つ。

謎やゲームのストーリーを考えるメンバーは、ろう者、難聴者、聴者の異言語を使うチームで構成されているそうです。最近は手話を知らない聴者もメンバー入りしているのだとか。
「このゲームは聴者の人たちにも好評です。手話はろう者にとっては言語ですが、それは視覚的に物事を捉えて、手、指の動き、表情、視線、身体を使って表現していく言語です。目に浮かぶイメージを身体で作り出した言葉に、聴者は想像力を働かせる。手話の分からない聴者にとっては謎解きの一種みたいなものなんだと思います。その非日常的な感覚と謎解きゲームがマッチしているので聴者にも楽しんでもらえているのではないでしょうか」と菊永さん。出題だけでなく、コミュニケーションを取ること、出題の意味を理解すること自体も謎解きの一部なのです。

ゲームに必要なのは目の前の人と向き合うことと想像力

菊永さんがこのプログラムを思いついたのは、聴覚障がい児の入所施設で働いているときのある出来事がきっかけでした。

「施設にボランティア活動で来てくれる企業の人たちに施設で過ごすろうの子どもたちが手話を教えたら、聴者も一生懸命覚えてくれて、子どもたちも自分の言語である手話を自信持ってどんどん教えるようになり、とても有意義な時間を過ごしました。その後、一緒にお昼ご飯を食べることになったんですが、気づいたら聴者の社員とろうの子どもたちが自然にふたつに分かれてしまっていたんです。せっかく仲良くなったように見えたのに、どうしてだろうと、もどかしくなりました。それは私自身の幼い時の過ごし方とも同じだったわけです。聴者の学校、ろう者の学校、二つの社会を行ったり来たりする人生の中で、二つの世界があることを感じていました。言語が異なるために聴者の世界に入りたくても入れない経験を何度もしてきました。どうやったら、ろう者と聴者というふたつの世界が一緒になって、本当にわかり合えるのかをずっと考えていました。そんな時に聴者の友達に誘われた謎解きゲームに参加したことがきっかけで、園長に話してみたら『交流会でやればいいじゃない?』と。それを先ほどの交流会で軽くやってみたら大好評で、それがどんどん広がっていきました。偶然の産物だったと思います」

試行錯誤の上に誕生したゲームによって、今までボランティアの聴者がろう者を助けるという一方通行だった関係が、お互いの持っている能力、得意なことを活かして協力する対等な関係に変わったのだそう。

こうした、ダイバーシティ社会を先取りするような発想がどこから生まれるのかと菊永さんに尋ねたところ「シンプルに目の前にいる人と向き合うこと。あとは想像力でしょうね」とのこと。難しいことを考えるよりも、言語や文化、性別が違っても、まずは目の前にいる人と向き合い、想像力を働かせてわかり合おうとすることが大切なのだと教えてくれました。

ダイバーシティ社会のヒントがここにある

このゲームを始めた当初、菊永さんはろう者と聴者の間にある壁をとっぱらおうとしていたそうです。でもゲームを何度も開催するうちにその考えは変わったのだそう。

「ろう者にはろう者の文化、聴者には聴者の文化があり、それは人が自分らしく生きる上で大事なことだと思います。その文化の違いからくる壁をとっぱらうことはできないし、ろう者と聴者の間に見えない壁があるのは自然なことです。今は壁を無理に壊そうとするのではなく、お互いに壁の向こうに別の世界があるということを認めて、その上でどう壁を乗り越えるか、すり抜けるか、低くするか…、あるいはその世界を体験してみるか…。いかにして異言語に楽しく向き合っていくか、の気持ちでこのゲームを制作しています。何よりも、『障がい』や『福祉』の見方ではなく、コンテンツとして『楽しい』『面白い』ものであることが非常に重要だと思っています」

異言語脱出ゲームは「多様性のある社会」をテーマにしたNHKのテレビ番組で取り上げられたほか、企業の研修で利用されるなど、広がりを見せています。ゲームを考案した当初は、まさかここまで注目されるとは思っていなかったそうですが、多様化が進む社会の中でこのゲームのような、新たなコミュニケーションの方法が求められるのは必然だったのかもしれません。最近では手話と音声日本語だけでなく、音声言語の琉球諸島の方言を使った謎解きゲームを実施して好評を得たそう。菊永さんたちの活動からますます目が離せそうにありません。

異言語脱出ゲーム
http://igengo.com/igengoescapegame/
※現在は新型コロナウイルス感染予防の為、オンラインイベントのみ開催中。詳細は上記HPにてご確認ください。

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
photo byKazuhisa Yoshinaga

『異言語で謎解きって?? 新感覚の脱出ゲームが面白すぎる!』