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Sports /競技を知る
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【共に戦うパラスポーツギア】ハウスにストーンを届ける! 車いすカーリングの<デリバリースティック>は長くてしなやかな頼れる相棒

パラスポーツの土台には、「失われたものを数えるな。残されたものを最大限に活かせ」という“パラリンピックの父”の教えがあります。そこで重要な役割を果たすのが、選手の最高のパフォーマンスを引き出す用具です。ここでは、ミラノ・コルティナ2026パラリンピック冬季競技大会の注目競技「車いすカーリング」で神業を生む「デリバリースティック」にフォーカス。どんな工夫が隠されているのでしょうか。
車いすカーリングはショットが命
カーリングは、氷の上でストーン(ハンドルの付いた石)を投げて滑らせる対戦型競技です。約30m離れたハウスと呼ばれる円の中心に、ストーンを近づけて得点を競います。 車いすカーリングに出場するのは、足に障がいがあり、車いすを使用する選手。座った姿勢でもストーンを押し出しやすいように工夫が施された、棒状の競技用具を使用します。
・車いす:日常用車いすを使用している選手もいれば、競技用の車いすを使用する選手もいます。
・デリバリースティック
・ストップウォッチ:ストーンがハウスに届くまでのスピードを測り、氷の状態を把握します。
・カイロなど防寒グッズ:寒いリンクで長時間試合をするので防寒対策はばっちり!
オリンピックで目にする一般のカーリングとは違い、車いすカーリングでは投球した後に氷をこする「スウィーピング」が禁止されています。一度、ストーンを離したら調整できないため、手の代わりになるデリバリーステックでいかに正確なショットを繰り出せるかが勝敗を左右します。
日本のゴルフクラブメーカーも製作
長さは、最大2m45㎝。長さを自由に加工しやすいアルミや カーボンファイバー製で、持ってみるととても軽いんです。
以前は、アルミで作られたカナダ製のデリバリースティックが主流でしたが、現在は、日本選手のほとんどが国内メーカー(グラファイトデザイン)のデリバリースティックを使用しています。ゴルフクラブを製作しているメーカーによるデリバリースティックは、カーボンファイバー製で軽いのが特徴。柄の部分は健常者のカーリング選手が氷の表面をシャカシャカとこする「スウィープブラシ」と同じパーツが使われています。
伝わる力がブレないようにつなぎ目(ジョイント部分)は1箇所。デリバリースティックは、できるだけ空気抵抗を受けないように細くてスリムな形状になっています。
長さは、健常者のスウィープブラシの約2.5倍。長いほうが遠くの目標に向かって狙いを定めやすいと言われていますが、規定で上限が決まっています。
選手の体格や障がいの状態に合わせて長さを変えられるよう、カットしやすいカーボンファイバーでできています。メーカーは選手が発注してから生産します。
投球したときにしなるのもカーボンファイバー製の特徴。選手たちは、ストーンに伝える力加減を調整し、難しいショットを決めます。
進化するスティックヘッド
スティックヘッドは、カーリング王国・カナダ製のものが多く使われています。その進化により、小さな力でも回転がかかりやすくなりました。ストーンを時計回りに回転させると右に、反時計回りに回転させると左に曲がります。
2024年に日本メーカー(桑原冷熱)が3Dプリンターで製作して販売を開始。壊れにくく、投げやすいモデルを求める選手たちの選択肢が増えました。
アルミ製のデリバリースティックは約1万円。一方、カーボンファイバー製のデリバリースティックは約4万円と値段は上がります。また、スティックヘッドも5千円から4万円までと性能によって大きく値段が変わります。約2時間の試合を通して高いパフォーマンスを維持するために選手たちは用具にこだわり、技を磨きます。
トリビア
デリバリースティックは、もともと日本ではキューと呼ばれていました。ビリヤードのキューに由来しているのだとか!
ミラノ・コルティナ2026パラリンピック冬季競技大会から、ミックスダブルス(男女混合2人制)が新種目になる車いすカーリング。進化を遂げてきたデリバリースティックの役割にも注目してみましょう。
教えてくれた人
text by TEAM A
photo by Hiroaki Yoda,X-1