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Sports /競技を知る
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誰よりも速く、美しく、たくましく走る。パラアイスホッケーの“20歳トリオ”が切り拓く新しい扉

パラアイスホッケー日本代表の新世代トリオ、鵜飼祥生、森崎天夢、そして伊藤樹は、現地3月7日、ついに夢だったパラリンピックの舞台に上がった。同学年として生を受け、ミラノにたどり着くまでの苦難を共にしてきた彼らは、チームの原動力になっている。
ミラノ・コルティナ2026パラリンピック冬季競技大会の初戦。日本代表として16年ぶりの勝利には届かなかったものの、格上に肉薄した。世界ランキング3位チェコとの大事な一戦で、それぞれが持ち味を発揮した。日本代表エースでもある伊藤は鮮やかな独走から自身のパラリンピック初得点を決め、鵜飼は冴えわたるアシストで先制ゴールをお膳立て。森崎は献身的なコンタクトでチームに貢献した。日本代表チームは3-2で敗れたものの、世界と戦える手ごたえをつかんだ。
ホッケーの神様が与えた試練
険しい道のりだった。10年前からパラアイスホッケー、それより前にアイスホッケーをやっていた伊藤は、すぐに頭角を現したが、4年前の北京大会の予選に年齢制限のため出場できず、そこから4年間チームメイトと共に文字通り走り続けてきた。土俵際まで追い詰められたパラリンピックの最終予選を突破し、「ホッケーの神様がくれたチャンス」のミラノに向けてトレーニングする中、腸閉そくになり、手術を余儀なくされるなど再び壁が立ちはだかった。「本来なら勝てていなくて、それを強引に俺がねじ曲げてしまったから。その反動で神様が釣り合いを取っている」と独特の言い回しで表現。そして、たどり着いた舞台は、100パーセントのコンディションではなかったものの、「今日は心も体もひとつになった」「すべて出しきった」と充実の表情で語った。
日本のシュート数はチェコの「30本」に対し「4本」。少ないチャンスのなか、伊藤は放った2本のシュートから1点をもぎとった。
「(ディフェンスの)松下(真大)がシュートブロックした球が完璧なスルーパスになって僕の元に転がってきた。(みんなが)死ぬ気で守り、チームで獲った1点だと思います」
若きパワーとスピードが世界ナンバー3を苦しめた
伊藤と同じセットで先発出場した鵜飼も、得点に絡む活躍だった。
2022年に競技を始め、瞬く間に主力に成長した鵜飼。身体能力の高さに定評があり、伊藤をして「天才」と言わしめる才能の持ち主だ。
パラリンピック初戦では、強化合宿で磨いてきたゴールへの意識と高速パスを披露した。試合の序盤、伊藤からのパスを受けた鵜飼は、相手を引きつけたところで前にいた新津和良に絶妙なパス。それが日本の先制点になった。
「レシーブミスしてパックが流れちゃったんですけど、何とか流し込んだら新津さんが決めてくれた。本当によかったです」とほおを緩ませた。
敗れはしたが、「前回1月に対戦したときは10-0と点が開いていた。そのチェコ相手にここまでの試合できるのは本当にすごいこと」と次につながる自信を手にしたようだ。
得点力もある鵜飼をライバルと位置づけてトレーニングに励んできた森崎は、小学5年生からアンプティサッカーをしていたが、パラリンピック出場への強い憧れからアイスホッケーの道を選んだ。
夢だったパラリンピックを初めて迎え、「試合前は少し緊張したんですけど、ウォーミングアップ中にどんどん緊張は消えていって、いつもの自分でプレーすることができた」と言い、磨き抜かれたスピードを披露した。
日本が一度同点に追いついたシーン、氷上にいた森崎は得点した伊藤に抱きつきにいった。
「樹が点を決めて本当に嬉しかったし、勝てるかもしれないと思ったけど、負けてしまった。前回、大敗したチェコに、日本は強くなったと見せられたのはよかったなと思います」
試合後、充実した表情が印象的だった3人。「俺たちはこんなもんじゃない」と伊藤。これからも切磋琢磨しながら、高みを目指していく。
text by Asuka Senaga
photo by AFLO SPORT