築45年の鉄工所が大変身! 女子ラグビーチームが作った、お盆に3世代が自然と集まる“居場所”の正体
山口県長門市のある企業が古い鉄工所を活用し、「多様性社会の実現」「女性活躍推進」「少子高齢化対策」といった社会課題の解決に取り組んでいる。鉄工所をリノベーションし、同地をホームとする7人制女子ラグビーチーム「ながとブルーエンジェルス」のクラブハウス的な位置づけとして、複合施設「SWEET AS(スイートアズ)」を開業したのだ。地域のコミュニティの場として親しまれるようになった、そのリノベーションのアイデアなどを伺った。
イメージはニュージーランドのクラブハウス

山口県長門市は日本海に面した自然豊かな人口3万人ほどの街。この地で1971年に創業したヤマネ鉄工建設株式会社(以下、ヤマネ鉄工建設)は、SDGsが国連で採択される以前から、さまざまな社会課題に取り組んできた。そんな中、2020年9月に、自社の築45年(当時)の鉄工所をフルリノベーションし、新たな複合施設「SWEET AS」をオープン。リノベーションを担当した、リノべる株式会社の都市創造本部・小谷彩華さんは、この企画に関わり始めた当初のことを振り返る。

「ヤマネ鉄工建設さんは、人口流出といった地方都市の課題の本質は、男女格差や多様性理解の不足にあると捉え、強い課題感を抱かれていました。それは簡単に解決できる課題ではないですが、お話を聞くうちに、本当に熱意を持って取り組んでいらっしゃると感じたのを覚えています」(小谷さん)

ヤマネ鉄工建設は7人制女子ラグビーチーム「ながとブルーエンジェルス」のスポンサーを務めているのだが、「SWEET AS」の計画には、チームのハイパフォーマンスディレクター・村杉徐司さんの経験が生かされている。村杉さんがかつてラグビーをプレーしていたニュージーランドでは、フィールドの前にクラブハウスがあり、レストランやカフェ、バー、子どもの遊び場などが併設されていたそうだ。そこに地域の人たちが集まり、一緒に食べて飲んで交流するといった文化があり、ラグビーを中心とした多様なコミュニティが生まれている。これを、長門でも実現したいという思いがあった。
「私たちが目指したコミュニティは地域の人だけではなく、『ながとブルーエンジェルス』の選手やコーチ、スタッフとして国内外から長門に移り住まれる人。あとはラグビーをきっかけに長門を訪れる人。そういういろいろな人が『SWEET AS』を中心に織りなす多様性に富んだコミュニティとなる。さらにそれが長門に暮らす人、また生まれ育つ人にとって誇れるコミュニティになるだろう、というふうに考えました」(小谷さん)
選手が直接指導してくれるスポーツ教室も人気

折悪しく、コロナ禍となってしまったが2020年9月、「ながとブルーエンジェルス」の室内練習場やジムに隣接する場所に「SWEET AS」がオープン。村杉さんが運営責任者に就任した。古い鉄工所をリノベーションしたおしゃれな建物の中には、スポーツ施設やカフェレストランなどのスペースが充実し、今でも多くの人が訪れる。また、スポーツ施設では「ながとブルーエンジェルス」の選手たちが指導してくれる子ども向けのスポーツ教室などが行われている。自身も指導に当たるという、日本代表で現在は同チームでセンターを務める辻﨑由希乃選手は、オープン当初からプロジェクトマネージャーとして「SWEET AS」に係わってきた。

「私が、ながとブルーエンジェルスに参加したのは『SWEET AS』がオープンする前年の2019年ですが、ヤマネ鉄工建設の社長や村杉さんから、こういう施設をつくりたいという構想を聞いて、そこから携わらせてもらいました。私をはじめ、選手たちの多くは長門市にゆかりがあるわけではなく、ラグビーをするために移住をしてきているので、友達も、コミュニティとの繋がりも少ない状況でした。そんな中で『SWEET AS』がオープンして、選手たちがカフェでお茶をしたり、レストランでみんなで食事をしたり、スポーツ教室で子どもたちと触れあったりしているのを見て、この施設ができてよかったなあと思いました」(辻﨑 選手)
選手が施設のカフェやレストランを利用していると、ファンから声をかけられることもあるそうだ。夏には選手たちが主体の夏祭りイベントが開催されたこともあるという。こうした距離の近さから、あまりラグビーに興味がなくとも、選手たちに親近感を覚えて「ながとブルーエンジェルス」のファンになる人もいるようだ。

「普段からファンの方に応援してもらっているのは分かるんですけど、『SWEET AS』があることで、目に見えて分かるファンとの繋がりができたという実感があります。また、私たちは全国各地の大会に参加していますが、その際には『SWEET AS』でパブリックビューイングを開催させてもらっています。たくさんのファンが集まっている風景を写真に撮ってスタッフが送ってくれるので、それを試合前に見て、遠いところからでもたくさんの人が応援してくれているんだっていう繋がりをさらに感じることができています」(辻﨑 選手)
みんなの新しい居場所に

「SWEET AS」の中にはバスケットボールやバドミントン、ソフトバレーなど、さまざまなスポーツが楽しめる屋内スポーツコートがあるが、元々、鉄工所だった構造を生かしてリノベーションをしているため天井が高く開放感は抜群。さらに、9面ものトランポリンがあるコーナーもあり、広々とした空間でトランポリンを楽しむことができる。どちらも、隣接する施設内のカフェやレストランから眺めることができるのも特徴的だ。

「ゆったりできるようなレストランエリアでお茶や食事をしながら、子どもたちがスポーツをしたり、トランポリンで遊んだりする姿を安心して見られるようにしたいというのは、ヤマネ鉄工建設さんからの要望でした。実際、狙い通りの使い方をしていただいているようで、それも『また来たいな』という気持ちに繋がっているのかもしれません」(小谷さん)
多様な人々が「また来たい」と言ってくれるのは、当初の狙い通りではあるのだろうが、リノべるのブランド戦略部・吉村采真さんは、「SWEET AS」がまちの方にとってもひとつの「居場所」になっているのではないかと話す。
「私が訪問した時、おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、子どもたち3世代でトランポリンをされているご家族がいたので、お話を伺ったんです。おじいちゃんおばあちゃんが長門市に住んでいて、お盆などで帰省するたびに『SWEET AS』に寄ってみんなで食事をするということでした。スポーツコートで遊んでいた方も、帰省のたびにここ来るんですとおっしゃっていました。帰ってきた時にまた行きたい、また集まりたいと思える居場所のひとつに『SWEET AS』がなっているんだと嬉しく思いました」(吉村さん)
最初はニュージーランドのクラブハウスをヒントにラグビーを中心とした複合施設を目指した「SWEET AS」だが、あるカップルから相談がありレストランウェディングを行うといった想定外の使い方もされるようになった。さらにはバスケットボールの3×3の大会をしたいなどという声もあるそうで、今後はいい意味で、想像以上の使われ方がされ、ますます賑わいそうだ。
「SWEET AS」で開催しているスポーツ教室について、辻﨑選手は「オープン当初からなので6年ほど経ちますが、その頃幼稚園生だった子どもたちが、もう小学校の高学年になっています。最初はスポーツが苦手だ、好きではないと言っていた子が、今ではすごい速さで走るようになったり、このスポーツ教室に参加するようになって体育の授業が楽しくなったと言っているそうです。ずっと続けてきてよかったなと思いますね」と話す。今はまだ蒔いた種がようやく芽を出したばかりだが、いつか、この子どもたちの中から、スポーツの日本代表選手が生まれる可能性だってある。「SWEET AS」は単なる複合施設ではなく、地域の未来を創る、大切な場になっているようだ。
text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
写真提供:ヤマネ鉄工建設株式会社/ながとブルーエンジェルス/リノべる株式会社






