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笑顔を生む活動の第一歩に。車いすラグビー初のチャリティーイベント

スポーツを通じたアクションで社会課題解決に向けた力になりたい。そう考えるアスリートの思いが形になった。
「今まで応援してもらうばかりだった。そんな僕たちも、応援する側に回って盛り上げることができるということ。一人ひとりの笑顔を積み重ねていく活動の第一歩が踏めてうれしいです」(リオ大会、東京大会の銅メダリスト・今井友明)
“車いすラグビー未開の地”で初開催
2024年1月1日に発生した能登半島地震の復興支援を目的とするチャリティーイベントが、2025年4月27日に石川県加賀市の加賀体育館で行われた。日本車いすラグビー連盟主催の同イベントには、パリ2024パラリンピック金メダリスト4人を含む9人の車いすラグビー選手が参加。エキシビジョンマッチや体験会が行われ、多くの来場者が“初めての車いすラグビー”を楽しんだ。
コートサイドの観客席には、主催者が手配したバンに乗り、被害の大きかった珠洲市から約3時間半かけて来場した人たちの姿もあった。
「車いすラグビーはテレビで観たことがあるが、実際には初めて見ました。競技の激しさや女性選手の存在など、『すごい!』と思うことばかり。パラリンピックの金メダルも見せてもらったが、本当に重かった。努力して掴んだのだと実感しました」
車いすラグビーの迫力を間近で感じ、「招待してくれてありがたい」と笑顔を見せた。
イベント会場ではチャリティーグッズが販売されるなど、復興支援が呼びかけられた。実は、一週間前に都内で開催された「三井不動産 車いすラグビー SHIBUYA CUP 2025」で、主催者が用意したグッズが完売。急遽、選手のサイン入りグッズが販売された。
募金も集まったほか、都内でチャリティーグッズを購入し、加賀市に足を運んだファンの姿もあり、多くの人が思いを寄せたことが感じられた。
今回のイベントには、2024年8月から日本車いすラグビー連盟とオフィシャルサポーター契約を結んだ、石川県加賀市の企業・大同工業が協賛。7人がボランティアとして参加したほか、社内告知でイベントを知り、家族で訪れた人もいた。
子どもたちも選手たちと交流した。
「初めて車いすラグビーを観たけれど、カッコよかった!」(6歳女児)
「(選手に見せてもらった)金メダルがキラキラしていて印象に残りました」(8歳女児)
日本代表エースの橋本勝也は、こう話す。
「金メダルを持って石川県に来られてよかったなと思う。交流試合もできてすごく楽しかったです」
東北出身の橋本は、3月には岩手県釜石市で開催されたジャパンラグビーリーグワンの東日本大震災復興祈念試合にも参加したといい、「よく『復興』という言葉を使うけど、その定義は人によって異なる、という話を現地の人から聞き、考えさせられました。そんな中で今回のイベントに参加し、車いすラグビーを通して皆さんの笑顔を見ることができ、微力ながら貢献できたらいいのかなと思うことができました」と、充実した表情で語った。
きっかけは学校訪問
このイベントのきっかけになったのは今井の学校訪問だ。能登半島地震の2ヵ月ほど前、輪島市立鳳至小学校、珠洲市立緑丘中学校を訪れていた。「地震があった日、ニュースで見た映像は僕が訪問した学校につながる道でした」。心を痛めた今井はチャリティーイベントを企画。だが、実施できる施設の確保に始まり、選手はもちろんのこと、ボランティアも必要とあって、個人で実現するには壁があったという。
「1人でできることは少ないと感じる中、日本車いすラグビー連盟が組織としてバックアップしてくれて、地元の人たちとも協力して作り上げることができた。車いすラグビーのチームがなくて選手もいない地域にも関わらず、多くの人が集まって大成功で終わってすごく嬉しい。この輪をどんどん広げて復興につなげられたらと思っています」
今井から今回のイベントについて聞いたとき、「選手としてチャリティに関われるなんていい企画だなと思った」と参加を決めたパリパラリンピック日本代表の小川仁士は、「想像以上に多くの人が来てくれてうれしい。競技の普及にもつながるので、第2回、第3回も開催されるといいと思います」と話した。
イベントの最後に今井は「小さな積み重ねを大事にし、スポーツを盛り上げ、みんなで成長していけたら。一緒にがんばりましょう!」とメッセージを残した。
text by Asuka Senaga
photo by Michi Murakami