【日本代表監督対談】元Jリーガーと同郷の指導者が語りつくした、車いすバスケットボールとブラインドフットボールの魅力と共通点

【日本代表監督対談】元Jリーガーと同郷の指導者が語りつくした、車いすバスケットボールとブラインドフットボールの魅力と共通点
2025.09.10.WED 公開

パラスポーツの中でも高い人気を誇る団体球技の指導者が初対面した。車いすバスケットボール男子日本代表の京谷和幸ヘッドコーチ(HC)と、ブラインドフットボール(ブラインドサッカー)男子日本代表の中川英治監督。京谷HCはJリーグ、中川監督は北海道1部リーグとそれぞれトップレベルのサッカーのプレー経験があり、ともにサッカー指導者ライセンスも持つ。サッカーと深く関わってきた2人だからこそ語れる、サッカーとそれぞれの競技の共通点と魅力とは。

京谷 和幸|車いすバスケットボール男子日本代表HC
1971年生まれ、北海道室蘭市出身。サッカーの名門・室蘭大谷高の名MFで全国大会の常連だったが、唯一出場を逃したのが高3のときの地元開催のインターハイ。「北海道予選で静内高校に敗れました。その夏の練習はきつかった」。卒業後、Jリーグのジェフユナイテッド市原(現・ジェフユナイテッド市原・千葉)でプレー。日本サッカー協会公認B級コーチ。


中川 英治 | ブラインドフットボール男子日本代表監督
1974年生まれ、北海道新ひだか町(旧静内町)出身。インターハイ予選で、京谷擁する室蘭大谷高を静内高が破った試合に感激し、静内高へ進学。FWとしてジャイアントキリングの再現を目指したが、「僕らの代では1回も勝てませんでした」。日本サッカー協会A級コーチジェネラルなど。クーバー・コーチング・ジャパンでヘッドマスターを務めている。


パラスポーツとの出会いは……

トップレベルのサッカーを熟知する京谷HCと中川監督。パラスポーツと出会ったとき、どのような印象を抱いたのだろうか。

京谷和幸(以下、京谷): 初めて車いすバスケットボールを見たのは、リハビリ病院でのことです。正直、楽勝だな、すぐに日本代表になれちゃうな、と思いました。でも、甘かった。当時の日本代表選手が5、6人いたクラブチーム「千葉ホークス」の練習の見学に行ったら、すべてが異次元で。自分もそれなりにサッカーをしてきたわけですけど、だからこそ、そのすごさがすぐにわかりました。で、一度、逃げました。しょせん、障がい者スポーツだろって。
その後、人数合わせで国体に連れて行ってもらったんですよ。タイムアウトでコーチが指示したプレーがしっかりと決まったシーンがあったのですが、それを目の前で見て、これはれっきとした「スポーツ」だと再認識して。あれが、もう一度やってみよう、と心に火が点いた瞬間でした。

中川英治(以下、中川): ブラインドフットボールの日本代表チームの練習にコーチとして初めて参加したときは、衝撃的でした。サッカーなのに、選手たちは、ボールを蹴れないし、止められないし、運べなかったんですよ。先天性の視覚障がいの選手はサッカーを見たことがないわけですから、仕方ない部分もあったとはいえ、それにしてもね……。選手たちには「とても代表とは呼べないよね、君たち」ってはっきり言いましたし、これは時間がかかるな、とも思いました。実際、それから2年間は、「止める・蹴る・運ぶ」の技術練習に大部分の時間を割きました。

京谷: 基礎技術はどの競技でも大切ですよね。僕も最初は基本中の基本である競技用車いすの操作の練習から入ったのですが、これが難しくて。

中川: 僕もやってみたことがあるんですけど、車いす操作だけでてんやわんや。ボールを見ながらなんて絶対無理です。

京谷: そうでしょ? 車いすを操作しながらボールを扱う上に、ルールも一般のバスケットとほぼ同じですから、競技性も非常に高い。その分、難しいのですが、だからこそ、達成感も大きいんです。

中川: 車いすバスケットボール男子日本代表の試合動画を見ましたが、すごくサッカーっぽいですよね。例えば、カウンター攻撃の局面では、サッカーのセンターフォワードやフットサルのピヴォに相当する最前線の選手に当てて、相手選手を引きつけてからサイドのスペースを使っていました。国際試合を見ると日本のハイプレスが際立っていることがよくわかりますし、何よりすごく面白い!

京谷: 車いすを漕ぎながらパスを受けるためには、常に前方のスペースにボールを出す必要があるんです。後ろに出すと、一度車いすを止めて処理することになるし、それがミスにつながるから。また、スペースという点では、自分が走って空けたスペースを次に上がってくる選手に使わせたりもします。これもサッカーと同じですよね。僕にとっては、今も車いすバスケットボールでサッカーをやっている感覚なんです。

元Jリーガーの京谷HCには芝のピッチがよく似合う

世界と戦う日本選手の武器

どちらの日本代表も、選手は世界と比べると小柄だという。サイズの差を埋めるべく取り組んでいることとはーー。

京谷: 2016年に(サッカーの)B級コーチライセンスを取りにいったのですが、そのときの指導実践のお題が守備だったんですよ。僕、サッカー選手時代はあまり守備をしないタイプだったので、どうしようと思ったのですが、そのときに役立ったのが、車いすバスケットボールで学んだディフェンスでした。サッカーのチャレンジ&カバーをバスケットに置き替えると……と考えることで、サッカーの守備も理解できて。指導実践でもバスケットボールの要素を組み込んで、無事、合格しました。 逆に、パス回しのトレーニングにサッカーの「鳥かご」を取り入れたりもしていますよ。銀メダルを獲った東京大会でもその成果は随所に出ていて、改めてサッカーと車いすバスケットボールには共通点があるなと思いました。

中川: ブラインドフットボールと車いすバスケットボールはコートサイズもさほど変わらないし、人数も一緒だし、攻守を切り替えるゲームだし。そう考えたら親和性が高いのも納得です。世界と戦う上では、日本人はサイズがない分、足元にピッと入るパスのような技術の正確性や再現性を磨いて、モビリティ(可動性)を高める必要があると考えているのですが、いかがですか。

京谷:たしかに、アジリティ(敏捷性)やモビリティ(可動性)はカギになりますよね。僕たちも、以前は大きい選手を集めて対抗していたのですが、2017年ごろからスピードのある選手でカバーするようになってきました。だから、「前からプレスをかけにいく」というスタイルが確立されてきたのかも。

2022年からブラインドフットボール男子日本代表の監督を務める中川監督(左)と2020年から車いすバスケットボール男子日本代表の指揮を執る京谷HC

中川:日本の選手は、スピードはあるんですか。

京谷: ありますね。コート内でのスピード勝負では、細かい車いす操作、いわゆるチェアスキルがものを言うんです。日本人は、細かい操作が得意ですから。

中川:やっぱり。サッカーのフル代表を見ていても、縦に速くなっていますし、ボールタッチの細かさなどは外国人選手と全然違うように思います。

京谷:僕たちの場合、タイヤのリム1本分、ほんの数cm前に行くか行かないかでポジション取りが決まるんですよ。そういった細かいところまで突き詰めて実行できるのが日本人の特性ですし、そこは素晴らしいものがあります。

中川:全く同感です。僕らのチームにも世界トップクラスのドリブルスピードを誇る選手がいるのですが、彼の強みは5mを走る速さに加えて、判断やポジショニングの良さにありますから。チーム戦術としては、攻守の切り替えであるトランジションの速さも大事ですよね。

京谷:車いすバスケットボールでも、切り替えを速くすることでシュート本数を増やすこともしています。技術やアジリティ、スピードで世界と勝負する。これはもう日本人の特性と言っていいと思いますね。

中川:車いすバスケットボールとブラインドフットボールでは、障がいも競技も違いますけど、世界での戦い方を考えてみると、同じ日本人なんだなあと改めて思いました。

サッカーが好きという人は、両競技にも注目してみると、さらに楽しみが広がるに違いない。

text by TEAM A
photo by Hiroaki Yoda

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