「学校に行けた!」不登校の子どもに響いたバスケットボール日本代表・髙田真希の応援プロジェクト
東京2020オリンピックで銀メダルを獲得したバスケットボール女子日本代表の髙田真希選手は、2024年に不登校の子どもたちを対象としたイベント「夢中になろう!」を開催。現役のトップアスリートが、なぜこのような活動を始めたのか? そこには、自身の体験を元にした、ある思いがあった。子どもだけでなく、大人にとっても生きるヒントとなるお話を、髙田選手本人に伺った。
※写真は不登校の子どもたち向けのイベントではなく、学校からの依頼により子どもたちへバスケットボール指導を行っている際のものです。
きっかけは親御さんから送られてきたSNSのメッセージ

「リツ」の愛称で親しまれている髙田選手は、バスケットボール女子日本代表のキャプテンを務めるトップアスリートである一方、2020年に株式会社TRUE HOPEを設立。「スポーツを通して、日本を明るく元気に」という企業理念のもと、さまざまな活動を行ってきた。その一環として2024年から始まったのが、不登校の子どもたちを対象としたイベント「夢中になろう!」だ。
「きっかけは、シーズン中にお子さんと試合を観戦してくれた親御さんからSNSを通じていただいたメッセージでした。不登校だった娘さんが試合を観て勇気づけられたそうなんです。それまで私は、『不登校=引きこもり』といった勝手なイメージを持っていたので、不登校でも外に出ることができるんだ、だったら自分にも出来ることがあるんじゃないかと思ったんです」(髙田選手、以下同)
そこで髙田選手は、会社の理念「スポーツを通して日本を明るく元気に」にもあるように、スポーツを通した貢献をしたいと考え、2024年6月、不登校の子どもたちを対象にしたイベント「夢中になろう!」の第1回を開催した。
学校に行けた! の嬉しい報告も

今年、2回目の「夢中になろう!」が開催された。対象となるのは、なんらかの理由で不登校状態にある18歳未満の子どもたち。小学生から高校生まで多くの子どもたちが、会場となる体育館に集まったそうだ。およそ2時間、髙田選手と一緒にボッチャなどをプレーしたり、バスケ体操をしたりして楽しく体を動かしたあと、髙田選手への質問タイムも。
「なにがなんでも学校に行ってほしいというわけではなく、学校に行けてなくても夢中になれることを探して、それに対して挑戦し続けてほしいというのが一番の目的です。私自身、最初からすごくバスケが上手だったわけではありません。それでも、バスケに魅了され、夢中になって続けてきたからこそ、大人になった今、それを職業にしてアスリートとしてやっていけているので、子どもたちにも、夢中になれることを探して挑戦する気持ちを持ってほしいと思っています」
イベントの最後に、そうした思いを話す時間を設けているそうだが、基本的には年齢や運動経験に関係なく、参加者全員が楽しんで体を動かし、その時間の間、夢中になれるようなプログラムになっているそうだ。
実際「夢中になろう!」に参加し、全力で夢中になってスポーツに取り組み、髙田選手の話を聞いた子どもたちの保護者からは「次の日、勇気を出して5時間目から学校に行けた」「少しだけ部活動に参加できた」といった嬉しい報告があったそうだ。
なぜ、夢中になることが大切なのか?
「夢中になろう!」は基本的に親子での参加が原則となっているが、そこには髙田選手の優しい気持ちがあった。
「子どもが不登校になったとき、何とかしてあげたいのに、どうしたらいいか分からないと悩んでいる保護者の方も多いと思います。ですから『夢中になろう!』では、子どもだけでなく、その保護者の方たちにも、スポーツを通して子どもとコミュニケーションをとり、まずは子どもと触れ合う楽しさを感じてほしい。そして、ひとりで抱え込むのではなく、気持ちを楽にしてもらって、一緒に子どもたちの成長を見届けていきたい。そんな思いも込めて取り組んでいます」
こうした活動のベースは、髙田選手が現役アスリートでありながら起業した理由と同じところにある。
女子バスケットボールにはプロリーグがなく、選手たちは実業団チームに所属しているため、多くの選手は引退後、所属している会社に残り、そのまま一般職として働き続けるという。アスリートが現役として活躍する時間は一般の社会人よりも短いため、引退後の進路をどうするかは、どんなスポーツでも課題となっている。そのため、引退後に大手企業に残れるということは、ひとつの安心材料となる。実際に髙田選手も高校を卒業して実業団チームに入る際、親や周囲の大人たちから『将来が安定して良かった』と言われたそうだ。
しかし、髙田選手は多くのOGたちが、引退後いきなり一般職として、慣れない事務仕事などをして苦労をしている姿を見て、「果たしてこれが安定と言えるのか」と疑問を抱いたという。
「何が理想かと考えた時に、やっぱり自分の好きなことを職業にして生活できるのが楽しかったし、日々が充実していました。たとえ練習がしんどかったとしても自分の好きなことなので乗り越えられた。バスケットボール選手としての生活は、苦しいし、しんどいし、いいことばかりじゃありませんが、好きだからこそやり続けられることを、身をもって学んできているので、私は引退した後も自分の好きなことを続けていきたい。バスケットボールにも関わっていたいと思ったので、それには今から準備をしなきゃと、会社を作りました」
トップアスリートでありながら、起業して会社の仕事をするのは決して楽なことではない。しかし、苦労よりも自分の好きなこと、やりたいことができている充実感のほうが大きいという。そしてその充実感が本業であるアスリートとしての活動のモチベーションにも繋がっているのだそうだ。
「少ない選択肢の中で将来を決めるのはすごくもったいないと思いますし、苦手なことや嫌なことを職業にするよりも、自分が好きなことを職業にできたほうがいいと思うんです。辛いことも自分の好きなことのためだと思えば乗り越えられる。だからこそ、自分の好きなことを小さいうちから見つけて、将来の選択肢を増やしておくことは、とても重要だと思います。学校に行かない、行けない、だから何もしないではなく、行けなくてもできることって、たくさんあるよねということを伝えたいですね」
髙田選手は取材中こんなことも語っていた。
「結婚や出産、仕事が忙しいなどが理由で、何かに折り合いをつけて自分が挑戦したかったこと、やってみたいことに手をつけられずにいる大人はたくさんいると思います。でも、何を始めるにも年齢は関係ないし、遅いということはないと思っています。自分がやりたいと思った時がそのタイミングなので、大人にこそ挑戦してほしい」
実は、大人が挑戦、夢中になる姿こそが、子どもたちの道しるべになるのかもしれない。今こそ、夢中になれる何かを探してみようではないか。
PROFILE 髙田真希
小学校でバスケットボールをはじめ、桜花学園高校に進学。多くの全国タイトルを獲得し、ウィンターカップではベスト5に選ばれる。高校卒業後、デンソーアイリスに加入。ルーキーシーズンの2008-09シーズンより主力として28試合に出場し、ルーキー・オブ・ザ・イヤーに選出され、2010-11シーズンは2年連続となる得点ランキング1位でチームのプレーオフ初出場に貢献し、ベスト5にも初選出された。2009年にA代表に選出され、リオデジャネイロ、東京、パリとオリンピック3大会連続出場。2021年に開催された東京オリンピックでは、全6試合のうち5試合で2ケタ得点をマークし、大会を通して攻守に安定した活躍を見せ、日本の大黒柱として五輪史上初となる銀メダル獲得に大きく貢献した。
また、2020年には株式会社TRUE HOPEを設立。培ってきた経験や技術や、自分にしか伝えられないものを次世代へ還元すべく、アスリート社長としても活動している。
text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)






