2016.11.01

【パラサポNews】東京2020をエンジョイするためのアクセシビリティを考える。リオパラリンピックの現地調査を報告

日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)は、リオ2016パラリンピック競技大会での競技会場や会場周辺のアクセシビリティ(バリアフリー)調査と実施。また、日本選手団として参加した選手・スタッフを対象に、大会のアクセシビリティについてアンケート調査を行った。東京2020パラリンピックに向けて、日本のアクセシビリティ向上を図りたいとの思いで、10月26日に「調査報告会」を開催した。

競技会場並びに周辺のアクセシビリティ調査~2020年に向けて見えてきたもの~

はじめに、バリアフリーの専門家である垣内俊哉パラサポ顧問が、大会期間中に現地の公共交通機関や会場で感じた課題や解決策をプレゼンテーションした。パラサポは大会期間中3人の車いすユーザーを含む7人のメンバーでリオを視察。観客目線で調査を実施した。


当事者目線でレポートする垣内顧問

自身も車いすユーザーで、その目線の高さは106㎝という垣内顧問は、開会式、各競技会場を回った。とくに、ほとんどの競技が行われたオリンピックパークには、広大な敷地のなかにあり、飲食店やグッズショップなどの店舗が並ぶ。だが、オリンピック・パラリンピックの中心地でありながら、移動するうえで重要な歩道や車道のブロックが外れていたり、車いすではガタガタするような道が続いていたり。急坂こそなかったが、長く歩かなければならない坂道もあった。


きれいに整備されている日本と比べ、突貫工事で整備されたリオの道は、車いすでの歩行が困難だったという。
「社会情勢経済状況の中でできることできないことがあっても当然。でも、リオでは人的な対応でカバーされていた」。
一部故障しているものもあったようだが、車いすでも乗れるカートやバギーが用意されており、ボランティアに申し出ればそれに乗って移動できた。

競技場に到着すると、どの競技場も一般レーンとは別に、優先レーンが用意されていた。障がい者はもちろん妊婦や高齢者専用の入場口があり、混雑を避けスムーズな入場が可能になっていた。
さらに、優先席に向かうと、そこには車いす席のみならず、補助犬用のスペースも。「補助犬への理解は日本ではまだ進んでいない。専用スペースもあるのは素晴らしいこと」

また、垣内顧問は、驚いたこととして、優先席にふくよかな方の席が用意されていたことを挙げた。私たちは、ケガをしている人や妊婦、高齢者のマークを目にすることはあるが、太った方のための幅の広い席を見ることはほとんどない。
2020年に向けて、日本人の体格だけではなく、海外の人たちの体形に合った設計の座席も必要になるだろう。

観客席に、同行者向けの席が用意されていたことも素晴らしかった点だ。だが、「残念なのは、簡素なパイプいすだったこと」。簡素ないすは長時間の観戦には向いておらず、家族や友人が観戦を思う存分楽しむための配慮が求められる。


パーク内のベンチは車いすユーザーも利用しやすい仕様だった

車いす席には問題点もあった。転落防止なのか、視界を遮る柵やパイプが取り付けられていた。「私は腕に力が残っているのでプッシュアップして(体を持ち上げて)なんとか見ることができたが、決して見やすいわけではなかった」。日本では、柵を折りたためるようにするなど、なんらかの工夫をすべきではないだろうか。


また、競技会場内には、車いすやベビーカーの一時保管場所が用意されていた。引換券や誓約書もあり、しっかり返却されていたようで、適切なオペレーションがなされていた。

しかしながら、コミュニケーションという面で見ると、リオでは情報のバリアがあったと言わざるを得ない。

会場の避難誘導は車いすマークの表示があったが、エレベーターやトイレの場所は表示も少なかった。多くの方がスロープやトイレの場所を問い合わせたのか、幸い手書きの用紙で案内表示がなされていたが、それは限定的な言語での表示で、すべての人に親切な表示ではなかった。

なお、チケットカウンターは、一般向けの120㎝の高さの窓口のほかに、89㎝の高さのカウンターもあった。だが、せっかくの窓口も、スタッフと会話する窓に丸型の小窓が設置されており表情が見えにくい。聴覚障がいのある方に必要な口元の表情も見えない点を解消したり、タブレットで言語を選択できるようにするなど、スムーズなコミュニケーションのためにできることはあるはずだ。

また、エレベーター前の点字ブロックがドア正面に設置されていた。降りる人と視覚障がい者が接触してしまうため、本来は操作ボタン前への誘導が必要とされる。日本ではすでに認知されていることだが、心にとめておきたい点である。

そのほか、人が多かったからなのか、車いすゲートのセキュリティチェックの甘さや会場ボランティア間の情報共有の不徹底も気になった。「IT技術などを駆使して非効率をなくしていけるといいと思う」

また、この日は、公共交通機関におけるバリアについても報告。バス停に向かうには、陸橋を通る必要があった。スロープでできた陸橋は素晴らしかったものの、かなりの長さがあり、ひとりで移動したい人にとって体力的に困難なものだった。

そのほかバスの案内は多言語対応していないなど問題点も見られたが、優先スペース内に同行者用の折り畳みのいすが設置されている点は素晴らしく、これは日本でも見習いたいひとつだ。

垣内顧問は、東京2020に向けて「まだ多くの人が、だれがどのようなことに困っていてどのようなサポートが必要か知らないのが現状だ。障がいのある当事者からも発信し、互いに歩み寄ることが必要。情報、意識、環境を変えていかなければならない」とメッセージを送った。

競技関係者がみたリオパラリンピック~アスリートが競技に集中できる環境とは~


パラリンピアンの田口氏がレポート

続いて、日本パラリンピアンズ協会理事でアテネ・北京・ロンドン大会に出場した射撃の田口亜希氏が登壇。パラサポが競技団体を通じて日本選手団に依頼したアンケート結果について報告した。

また、ゲストとしてリオパラリンピックのボッチャ銀メダリスト杉村英孝氏、リオパラリンピックの柔道銀メダリスト廣瀬誠氏も出席し、リアルな感想を述べた。


まず、選手・スタッフが長く滞在する選手村について、アンケートに答えた129人の平均点は、5点満点の3点。バスルームやトイレの排水などに問題があったほか、選手村内に障がいによっては渡るのが困難な太鼓橋や、不十分な点字ブロックが移動のバリアになったようだ。
「日常生活に欠かせないことが重要な評価になっていて、障がいの種類によっても評価の違いが出ている」(田口氏)

電動車いすユーザーの杉村氏は「これまで自分が行った国際大会の選手村はエレベーターが少なく、試合や練習に間に合うようにスケジュール管理をするのがたいへんだった。今回はエレベーターが多いことはよかった」と評価しつつ、「ボッチャのような重度障がい者の競技の選手は、お風呂に入るときに介助が必要でスタッフ1~2人のスペースも必要。少し狭かった」と実感を込めて話した。

リオで日本のメダル第一号になった柔道の廣瀬氏は、自身にとっていい環境だったと振り返る。
「視覚障がいの選手はチーム皆で行動することが多いが、僕ら弱視の選手は道の向こうから車いすの方が来るとよけるのが難しい。ですが、リオの選手村は譲り合わなくてもすれ違えるほど道幅が広かった」

また、競技会場のアクセシビリティについて、車いすテニスの会場の通路がガタガタで用具が運びにくかったり、射撃会場の車いす席が観客席の上段にあることで電光掲示板でしか観戦できないなどの問題もあった。

残念なことに、視覚障がいのスポーツであるゴールボールの会場は、周りの会場からの音が聞こえてしまう環境だった。「パフォーマンスに影響を及ぼすのではないか。2020年はパラリンピックならではの競技についても慎重に整備していかなくてはならないと感じた」(田口氏)
一方の柔道会場は、観客席と畳の距離感がちょうどよく「スタッフや家族の声が聞こえて力になった」(廣瀬氏)という。

東京では選手が最高のパフォーマンスを発揮できる環境づくりを期待したい。

移動についても、評価と課題が挙がった。今まではリフトだったが、スロープでバスに乗れるようになっていた。「選手のバスが分かれることなく、チームがまとまって動けるのがよかった。時間も短縮できた」(杉村氏)


選手用バスの昇降に利用されたスロープ

全体の評価として、「過去最低だった」という意見もあったものの、「大会が始まるまでは治安やバリアフリーの面でいろいろ不安視されたが、ハード面はもちろんソフト面でいい印象で、楽しく過ごせたし、周りの人たちに助けられた」(杉村氏)、「過去のパラリンピックに比べてすごくよかった印象で、リオはハード面を補って余りあるハートの部分があった」(廣瀬氏)と2人が語ったように、選手にとって陽気で一生懸命接してくれるボランティア、力いっぱい応援してくれる観客の存在が大きかったようだ。


4年後の東京パラリンピックに向けて……

報告会には、約200人が参加し、いよいよ次のパラリンピック開催都市となった東京におけるバリアフリーに関心が高まっていることを感じさせた。

参加者からは「たとえば視覚障がいの中でも全盲の選手にとってどんな環境だったのか、細かいところをもっと知りたい。次の東京大会では全盲の選手もストレスなく動ける選手村ができるといい。それが競技アシスタントのコンディションづくりにもつながると思う」(30代・男性・選手)
「このリオの素晴らしいデータを運営側に届けて必ずや活かしてほしい」(50代・女性・メディア)などの声が聞かれた。

最後に、小澤直常務理事が報告会の冒頭で話したことを記しておきたい。
「リオの人たちは『大会を一緒に楽しみましょうよ』という雰囲気であふれていた。外国人や障がいのある方たちにもいつも笑顔で接してくれて、『インクルーシブってこういうことなんだ』と教えられた。また、いちスポーツファンとして、スポーツの基本である楽しむことを忘れてはいけないと再確認した。日本で言われている『おもてなし』は少し間違えると、外国人や障がい者の方と線を引き、お客様扱いしてしまう可能性もある。あくまでも一緒に楽しむ姿勢を第一とすることが大切だ」


企業や競技関係者など多くの人たちが訪れた


活躍したリオ大会について笑顔で振り返る杉村と廣瀬



text&photo by Parasapo,X-1


(調査報告会資料は、以下よりダウンロード可能です。)
※本資料の無断転載・流用、複製等は固くお断りいたします
※報道関係者の方は当センター広報部までお問い合わせください。

「パラリンピアンにとってのアクセシビリティ(pdf)」

「観客にとってのアクセシビリティ(pdf)」
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