福島県矢祭町で運動する人が増加!「地域おこし協力隊」が企画するスポーツ施策の効果

福島県矢祭町で運動する人が増加!「地域おこし協力隊」が企画するスポーツ施策の効果
2026.01.09.FRI 公開

少子高齢化に伴う地方の過疎化の解決策として、2009年度に総務省が制度化したのが「地域おこし協力隊」。都市部から地域おこしに協力してくれる人材を募集して、住民票を移して暮らしてもらいながら、地域の活性化をすすめていくというもの。そんな中、福島県矢祭町では、スポーツをフックとした「地域おこし協力隊」を募集したという。その具体的な施策や効果について取材した。

きっかけはスポーツ人口の減少

小学校で年間を通して行われるようになった、放課後の総合運動教室

「地域おこし協力隊」で募集される人材は、各自治体さまざまだ。たとえば地元の特産品生産業や、農林水産業に従事する人。あるいは、その土地の新たな商品開発やその販売戦略を担う人。またはインバウンド観光向けの情報発信に協力する人など。任期は一般的に1~3年だが、移住者は自身の経験や能力を活かした仕事に就きながら、その土地で理想とする暮らしや生きがいを見つけることができるので、そのまま定住・定着することも少なくないという。そんな中、福島県の最南端に位置する、人口約5,000人の矢祭町では、2023年にスポーツをフックにした「地域おこし協力隊」を募集した。なぜスポーツだったのか、その理由を矢祭町教育委員会教育課長の高宮由佳さんは次のように語る。

「人口減少も大きな課題ではあるのですが、スポーツ人口の減少が顕著だということがありました。例えば野球やソフトボールなどの団体スポーツは人数が集まらないために、町内の大会が開けなくなるなどのケースも。スポーツに触れる機会が減るということは、町民の健康問題にもかかわります。ですからスポーツで地域を盛り上げてくれる人材が必要ではないかということで、新たな試みとして『スポーツを通じたまちづくりを推進する協力隊』を募集してみようということになりました」(高宮さん)

その結果、採用されたのが山形県鶴岡市出身で、以前は小学校の教師をしていたという鳴瀬望さんだった。

ランニングイベントに親子で参加する家族も

早朝、みんなで集まってランニングをする朝ランの光景

矢祭町の「スポーツを通じたまちづくりを推進する協力隊」に任命された鳴瀬さんの任期は3年。そこで最初の1年は地域を知り、人々に溶け込むことに力を注いだという。

「鳴瀬さん自身が町を知ろうとして町内のいろいろなスポーツ関係団体の集まりにまめに顔を出すなど、積極的に交流をはかってくださったので、スムーズに溶け込んでいただけました。また、1年目の終わり頃には小学校のスポーツクラブで陸上教室を立ち上げていただいたので、子どもたちだけでなく、親御さんとも顔見知りになったようです」(高宮さん)

「地域おこし協力隊」にはさまざまなジャンルがあるが、比較的短い時間で、幅広い世代の町民と距離を縮めることができたのもスポーツならではではないかと高宮さん。町民とすっかり顔なじみになった鳴瀬さんは、その後、朝ランや夕ランなどのイベントを開催した。

「たとえば朝ランは、2週間に1回、土曜日の朝の6時に集合して、みんなで3キロ走りましょうというイベントです。最初はあまり人が集まらなかったのですが、鳴瀬さんがいろいろなPRをしてくれて、今では幅広い世代の方が集まっています。最近はお子さんに誘われて『じゃあ自分も走ろうかな』と思ってくださる方も多いようで、親子連れの参加がとても増えています。みんな和気あいあいとやっていますね」(高宮さん)

運動嫌いだった子どもにも変化が

「はす×ウォーキング」のイベントに参加された皆さん。高齢の方に好評だ

鳴瀬さんの企画の特徴は、子どもから大人まで、幅広い人が参加できるという点。教師をする前は介護関係の仕事をしていたこともあって、高齢者も参加できるイベントも好評だそうだ。

「月に1回、ウォーキングイベントをやっていますが、ウォーキングですと高齢の方も参加しやすいようです。鳴瀬さんが綺麗な景色が見られたりするオリジナルコースを考えてくれるので、皆さん楽しみながら参加してくれています」(高宮さん)

オリジナルコースは、たとえば今年の7月だったら見頃のはすの花を見ながら歩く「はす×ウォーキング」を実施。隣町の上渋井ハス園をハスの会の会長のガイド付きで巡った。『地元の見慣れたハス園もガイド付きだと新鮮』と、好評だったそうだ。また、ハロウィンの時期には親子で参加できるウォーキングイベントを実施。子どもたちは仮装して商店街をお菓子をもらいながら歩いたという。

「あらゆる世代向けにバランスよいイベントを実施してくださるので、本当にありがたいですね」(高宮さん)

また、鳴瀬さんが赴任してから、運動嫌いだった子どもが放課後の運動教室を通して、学校の体育も頑張ると言うようになったり、走るのが得意だった子どもの記録がさらに伸びたりと、目に見えた変化もあったそうだ。

矢祭町を活気づけている、健康増進+社会的交流

アウトドアスポーツを楽しむ会でモルックを実演してみせる鳴瀬望さん(写真右手前)

鳴瀬さんは「地域おこし協力隊」として、「いつでも」「誰でも」「好きなレベルで」「世代を超えて」「いろいろなスポーツを」「いつまでも」楽しむことができる地域のスポーツコミュニティづくりを目指しているそうだ。そのためのキーワードは「つなぐ」。

  1. (1)家族・仲間(横)
  2. (2)子どもから大人まで(縦)
  3. (3)過去から未来へ(時間軸)

この3つをつなぐ活動こそが、住民の健康増進だけでなく、社会的交流を生み出し、人口減が課題となっている矢祭町を活気づけている。こうした鳴瀬さんの成功例を受け、矢祭町は2025年度もスポーツを通じたまちづくりをしてくれる「地域おこし協力隊」を募集したという。鳴瀬さんとともに、さらにスポーツを軸にした活動を広め、継続していくそうだ。


町民の健康維持のためにスポーツに触れる機会を増やそうという思いがきっかけで募集した「地域おこし協力隊」。はじまって3年でその効果は見られるというが、同時に人々のつながりが増えるという、副産物ももたらした。
「人口減で集まる機会が減ってしまい、高齢者は外に出る機会を失って孤立するという課題もありましたが、スポーツを通して集まって話をする、何かを共有するという機会ができたのは、とても大事なことだと思います」と高宮さん。
スポーツには、高齢化社会が抱える孤立化の問題を解決する可能性があるのではないだろうか。

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
写真提供:福島県矢祭町

『福島県矢祭町で運動する人が増加!「地域おこし協力隊」が企画するスポーツ施策の効果』

福島県矢祭町で運動する人が増加!「地域おこし協力隊」が企画するスポーツ施策の効果