「部活消滅」をサッカークラブの“運営システム”で阻止。Jリーグ・松本山雅FCのノウハウが凝縮された“地域改革”の仕組み

「部活消滅」をサッカークラブの“運営システム”で阻止。Jリーグ・松本山雅FCのノウハウが凝縮された“地域改革”の仕組み
2026.05.18.MON 公開

「部活動の選択肢が減っていく」。少子化の進行と、教員の働き方改革。全国の中学校で起きている部活動の揺らぎは、教育の話であると同時に、地域の未来の話でもある。顧問の休日負担は限界に近づき、生徒数の減少は競技や文化活動の存続そのものを脅かす。「部活が続かない」=「地域で育つ場が減る」という連鎖を、どう断ち切るのか。

その課題に、Jリーグの松本山雅FCが“別の角度”から切り込んだ。部活動の地域移行(地域展開)を「指導」ではなく「運営」から支える仕組みづくりに乗り出している。鍵は、集金や備品管理、出欠連絡、施設予約、指導者研修──現場の負担を増やしてきた周辺業務を束ねる運営プラットフォームだ。クラブが培ってきたスクール運営の知見と、企業連携で整えたシステムを、地域課題の解決へ転用する。

本稿では、この取り組みを推進する松本山雅FC取締役・神田文之さんに話を聞き、部活動の地域移行を“続く仕組み”へ変えるための設計思想をひも解く。

スクール運営のノウハウが地域課題の糸口に

指導者や選手がパフォーマンスをしっかりと発揮できるよう、業務の効率化はクラブ運営上最優先に取り組む必要がある

部活の地域移行というと、真っ先に語られがちなのは「指導者不足」だ。だが松本山雅が最初に着目したのは、指導以前に現場を圧迫している“運営”の負荷だった。

「プロスポーツクラブとしてのスケジュール管理や試合情報、備品管理といったものから、サッカースクール事業を運営したりと多種にわたる業務を効率化するようにシステムの改善をしてきました。正直、事業用のシステムとして回してきたので、自分たちのノウハウの価値に気づけていなかった。その中で我々のシステムをサポートしてくれているパートナー企業さんから声をかけていただいたのがきっかけです。これは地域課題に対して価値があるんじゃないかと」(神田さん、以下同)

たとえばサッカースクールを運営するには、練習の中身だけでなく、募集、連絡、出欠、会計、会場確保、安全管理、保護者対応といった周辺業務が欠かせない。部活動の地域移行も同じ構造を持つ。担い手の気持ちがあっても、運営が回らなければ継続できない。

だからこそ、クラブの運営ノウハウに企業連携で補強したシステム面を掛け合わせ、「部活動」へシステムを提供しコンサルとしての一歩を踏み出したという。ここで特徴的なのは、対象を運動部に限定せず、文化部も含めて「すべての部活動」を視野に入れている点だ。競技・分野が違っても、現場の課題は「運営」に集約されやすい。だからこそ、横断で支えられる“土台”に意味がある。

「部活の地域展開の現場を見ると、効率的に運営しないと受け皿自体がなくなってしまう。そこでシステム的なプラットフォームを作って提案する仕組みをしていて、システムコンサルとスポーツクラブの運営ノウハウの二本柱ができたことで、各市町村に営業に回りました」

最初は「山雅に何ができるのか」と懐疑的な反応もあったという。それでも、現場が抱える課題は共通していた。だからこそ、話は机上の構想から、実装の段階へ進み始めている。

地域移行の背骨になるプラットフォーム

コンプライアンスが重要視される昨今。指導者には強くするだけではなく、子どもたちとの正しい関わり方を学ぶことが求められている

松本山雅が提示するのは、この周辺業務を束ね運営を軽くする「プラットフォーム」だ。

「我々が提供するシステムは、まずウェブページを作成し、指導者や保護者に登録をしていただきます。そこは施設予約や備品管理、連絡ツールなどを可視化できるプラットフォームとなっています」

特徴は各部活用にゼロから新規開発というより、現場で使える仕組みを提供し、各部が自主的に運用できる形に落とし込んでいる点にある。

さらにプラットフォームには、指導者向けのeラーニング機能も含まれる。地域展開が進めば、教師以外の担い手が現場に入る。そのとき重要になるのは「便利さ」よりも、子どもに関わる現場としての安全と倫理だ。

「Jリーグのクラブスタッフとしてコンプライアンス研修を毎年受ける流れがあります。そういったものを、部活動地域展開の現場に立つコーチ・指導者たちに、心構えや危機管理、安全管理としてコンテンツ化しました」

部活では指導者のコンプラ違反は後を絶たない。場合によっては大会出場の辞退といったことにも繋がりかねない。そういったことを未然に防ぐためにも指導者への理解を深めることは重要だ。

「現場の指導者や教育委員会、保護者の皆さんに、スポーツクラブとしての知見を、ある意味ハートフルにコミュニケーションを取っていかないと導入への理解はいただけないと思います」

地域移行は、国の方針もあり「休日から」という流れが多い。だが、土日だけが先に進むと、学校(平日)との接続が断たれ、二重運用になりかねない。だからこそ、松本山雅は「休日から始めつつ、平日・休日の完全移行を見据えたステップ」を強調する。

また、地域移行を進めるうえで、もう一つの論点が「指導者の確保」だ。松本山雅はここでも、“クラブがすべてを背負う”のではなく、地域のネットワークを活かした斡旋・マッチングを視野に入れている。スクール運営で培った人材との接点、企業や大学との連携、地域に眠る専門性を掘り起こしながら、運動部に限らず文化部も含めて指導者を紹介する構想だ。

市民クラブが“つなぐ”新しい地域密着

松本山雅は、それぞれの地域の企業や資源を活用しながら子どもたちが部活動に集中できる環境を整える

少子化は、部活の縮小と直結する。生徒数の減少で部の選択肢が減り、チームが組めなくなり、活動が消える。すると、その競技や文化活動をやろうとする子どもも減っていく。負の循環は、静かに進む。

「松本山雅のホームである長野県松本市のどこの中学校を見ても、昔と比べて部の選択肢が減っています。子どもたちの選択肢がなくなっていき、それが消えたら、それをやろうとする子もさらに減っていく負のスパイラルに陥るかもしれない。

なので、子どもたちが興味ある分野の選択肢を作って広げてあげなきゃなと。少子化や部活減少というピンチを変えて行きたいですね」

その際、山雅が“前に出すぎない”ことを意識している。サッカー以外の領域でクラブが直接指導に乗り出せば、反発を生むことがあるかもしれない。そこで山雅は「事務局機能=運営」を担い、地域にある競技団体や文化団体が前に立つ座組みを重視する。

そして、この事業が“市民クラブ”としての特性と結びつくとも神田さんは語る。松本山雅は、親会社の色が強いクラブとは異なる。行政や地域との距離が近く、偏らない分だけ、地域の中をつなぐ役割を担えるという。

「山雅は生粋の市民クラブだという誇りがあります。親会社の意向ということよりも地域をより発展させていく純粋なコミュニケーターの役割になれる組織だと考えています」

企業連携では、その“つなぐ力”を活かした取り組みが進みつつある。部活動では、システム面だけでなく、見守り、移動、インフラといった課題が残る。その解決に向けて地域に根を張る企業と手を組めば、解決の射程は広がる。

一例を挙げると、明治安田様とは、地域に根差したネットワークを活かし、“見守り”の役割を担う仕組みづくりを担う。いわゆる生保レディ(担当者)が帰宅時などの見守りをすることで、安全面のサポートにつなげようとしている。

また学校から遠方に住む学生にとって大きな課題となるのが「送迎・移動」の問題だ。行政や学校だけでは抱えきれない領域であり、地域の交通・インフラ企業などが運営を担う形も含めて、現実的な解を探っていく必要がある。松本山雅はここでも調整役として、地域企業との連携を広げながら、スポーツ・文化活動を“続く形”にしていく構想を描く。

部活動地域移行は、制度を変える話で終わらない。運営の土台をつくり、現場への負担を減らしながら自主的に運営し担い手を増やし、選択肢を守る。松本山雅の挑戦は、部活を「指導の現場」としてではなく、「地域の仕組み」として再設計する試みだ。

「部活消滅」危機の時代に、子どもたちの好奇心と成長をどう残すのか。答えは、熱意だけではなく、続く運営を支える“仕組み”の中にある。

text by Akihiro Ichiyanagi(Parasapo Lab)
photo by Shutterstock

『「部活消滅」をサッカークラブの“運営システム”で阻止。Jリーグ・松本山雅FCのノウハウが凝縮された“地域改革”の仕組み』

「部活消滅」をサッカークラブの“運営システム”で阻止。Jリーグ・松本山雅FCのノウハウが凝縮された“地域改革”の仕組み